くまもとアートポリス(Kumamoto Artpolis,略称:KAP)とは、建築や都市計画を通して文化の向上を図ろうというコンセプトで実施されている熊本県の事業。1988年から行われている。現建築コミッショナー(第3代)は建築家の伊東豊雄。
当時知事を務めていた細川護煕は、高度経済成長によって画一的になってしまった日本の町並みを反省し「熊本らしい田園文化圏の創造」を目標として掲げ、後世に残し得る文化を熊本県で実現させることを目指していた。1987年に西ドイツで開催されていたベルリンIBA(国際建築展、国際建設展覧会)を視察したことにヒントを得て、建築をはじめとする環境デザイン全般に対する意識、都市文化・建築文化の向上を図ることを目的としてはじめたプロジェクトである。
名称は細川護熙と磯崎新との会談で決定したとされる。
なお、以下の項目中の施設名・プロジェクト名はくまもとアートポリス公式情報によるものであり、正式な施設名等とは異なる場合がある。また同一名称の他施設との区別がしづらい場合など必要に応じて注釈を入れている。
特色
くまもとアートポリスによるプロジェクト施設は115件が竣工しており(2022年1月現在)、海外メディアにも「県全体が建築博物館である世界にも類を見ない地域」として紹介されている。
公共建築は、競争入札により設計者を決めることが通常であるが、くまもとアートポリスにおいては、設計者の選定についてコミッショナーに全権が与えられるという特殊な制度を取っており、これが最大の特徴となっている。
グランドデザインは持たず、個々の建築については各設計者に任される。民間施設の参加も可能であるが事例は少ない。これにより作られた施設自体には「K.A.P.」の銘板が埋め込まれ、設計者や施工者が明記されている。
上記のコミッショナー制度により、著名な建築家を招いたり、また若手の建築家に公共建築に携わる機会を与える登龍門的な役割を持ったりと、日本において建築を志す者にとって、熊本県は東京・大阪などの大都市とともに、無視できない地域となっている。
過去においては、富山県・岡山県・広島市などにおいても同様のプロジェクトが設けられた時期があったが、30年4代の知事にわたって制度が持続しているのは熊本県だけである。
評価
熊本城
くまもとアートポリス参加プロジェクトは数々の賞を受賞していることから、建築界では一定の評価を得ているとされる。一方、生活を無視したデザイン重視の計画である、「点から線へ、線から面へ」環境デザインを広げていこうという考え方は未だ機能していない、住民参加をさらに重視すべき、との批判もある。
一方、海外、特にアジア各国からは高い評価を受けており、文化・まちづくり・地方都市の活性化などのモデルケースとして首長や議員、自治体職員、大学教授、そしてテレビ局や新聞社などマスコミ関係者が多く訪れている。また阿蘇山や熊本城とともに熊本県における修学旅行コースの一部となっている施設もある。
年表
- 1987年
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- 1988年
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- くまもとアートポリス 発足
- 初代コミッショナー 就任
- 第1回アートポリスシンポジウム
- 1989年
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- 1990年
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- 第3回アートポリスシンポジウム
- 見学会
- コンペ「県営帯山A団地」
- 1991年
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- 1992年
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- 1993年
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- 1995年
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- 第1回「くまもとアートポリス推進賞」
- 建築事業イメージアップ優秀賞 受賞 (全日本建設技術協会)
- コンペ「八代のバス停」
- 1996年
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- 第2代コミッショナー 就任
- 第2回「くまもとアートポリス推進賞」
- くまもとアートポリス'96
- 1997年
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- 1998年
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- 1999年
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- 第5回「くまもとアートポリス推進賞」
- わたしたちのまちづくり事業 創設
- 2000年
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- 第6回「くまもとアートポリス推進賞」
- 対話型行政推進賞 受賞 (建設省)
- コンペ「清和文楽邑『道の駅公衆トイレ』」
- くまもとアートポリス2000 「地域と対話、地球とネットワーク」 (シンポジウム・展示会・見学会・パネル展・協賛事業)
- 2001年
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- 第7回「くまもとアートポリス推進賞」
- シンポジウム「公共建築の新しいデザイン・プロセス:くまもとアートポリスの実験」
- 私たちのまちづくり事業 「南関町物産館・インフォメーションセンター(仮称)及び関川河川環境(公園)整備事業」
- 2002年
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- 第8回「くまもとアートポリス推進賞」
- 講演会「bear-Talk 01『岡部憲明氏講演会〜建築家の旅』」
- 2003年
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- 2004年
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- 第10回「くまもとアートポリス推進賞」
- くまもとアートポリス2004とユニバーサルデザイン展(シンポジウム・展示会・パネル展・協賛事業)
- 2005年
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- 第3代コミッショナー就任
- 第11回「くまもとアートポリス推進賞」
- コンペ「くまもとアートポリス設計競技2005 次世代モクバン」
- 2006年
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- 2007年
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- コンペ「くまもとアートポリス設計競技2007 モクバンR2(ラウンド・ツゥ)」
- プロポーザルコンペ「熊本駅東口駅前広場」
- 第13回「くまもとアートポリス推進賞」
- 2008年
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- プロポーザルコンペ「宇土市立宇土小学校・網津小学校」
- プロポーザルコンペ「熊本駅西口駅前広場設計競技」
- くまもとアートポリス建築展2008 〜みちをひらく〜
- プロポーザルコンペ「宇城市立豊野幼小中一貫校設計業務」
- 第14回「くまもとアートポリス推進賞」
- 2009年
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- 2010年
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- 第16回「くまもとアートポリス推進賞」
- コンペ「熊本県立球磨工業高校管理棟改築設計競技」
- 2011年
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- 東北支援「みんなの家」プロジェクト
- プロポーザルコンペ「和水町立三加和地区小中併設型校舎設計業務」
- プロポーザルコンペ「和水町立菊水地区小中併設型校舎設計業務」
- 第17回「くまもとアートポリス推進賞」
- 2012年
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- 「天草アーバ」建築塾
- 阿蘇「みんなの家」プロジェクト
- くまもとアートポリス建築展2012 〜みんなで考える〜
- 第18回「くまもとアートポリス推進賞」
- 2013年
-
- プロポーザルコンペ「天草市本庁舎設計業務」※事業中止
- プロポーザルコンペ「高野病院新築設計業務」
- 第19回「くまもとアートポリス推進賞」
- 2014年
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- くまもとアートポリス2014アジア国際シンポジウム
- 第20回「くまもとアートポリス推進賞」
- 2015年
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- プロポーザルコンペ「(仮称)熊本県総合防災航空センター」
- 第21回「くまもとアートポリス推進賞」
- 2017年
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- くまもとアートポリス建築展2017
- 第22回「くまもとアートポリス推進賞」
歴代コミッショナーなど
- 初代
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- コミッショナー
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- プロジェクト・コーディネーター
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- アドバイザー
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- 第2代
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- コミッショナー
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- 副コミッショナー
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- 第3代
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- コミッショナー
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- アドバイザー
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- 顧問
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参加プロジェクト
KAP'92 選定既存建造物
鉄砲小路
推進賞受賞施設
選考委員の肩書きは選定当時のものを記載。推進賞選賞は推進賞に次ぐ賞。
参考資料
- 「SD 1991年1月号 - 特集くまもとアートポリス」鹿島出版会 1991年1月
- 「ja 10号(1993年夏号)- くまもとアートポリス・建築の公共性」新建築社 1993年
- 「造景 No.10(1997年8月号)- 特集くまもとアートポリスの場合・設計者選定の大いなる実験」建築資料研究社 1997年8月
- 「くまもとアートポリスガイドブック」熊本県・熊本日日新聞情報文化センター(くまもとアートポリス'92実行委員会)1992年10月
- 「くまもとアートポリスニュース」熊本県土木部建築課
- 「くまもとアートポリスパンフレット」熊本県土木部建築課
- 「くまもとアートポリスカード」熊本県土木部建築課
- 熊本日日新聞データベース
外部リンク