はるか、ノスタルジィ
『はるか、ノスタルジィ』は、山中恒が映画のために書き下ろした同名小説を原作とする日本映画。東映系で公開。山中恒の故郷である北海道・小樽を舞台に、人気小説家の男が、高校時代の自分とともに過去の記憶をたどっていく様を描く。 あらすじ小樽を舞台とした少女小説で人気の小説家・綾瀬慎介(勝野洋)は、少年時代の痛ましい記憶を胸の奥深く閉じこめていた。しかし小説の挿絵を描いていた紀宮(ベンガル)の突然の死をきっかけとして、再び故郷である小樽を訪ねる。そこで綾瀬は記憶の中の少女・遙子(石田ひかり)にそっくりなはるか(石田ひかり)という名の少女と出会い、はるかと出会うことで綾瀬の封印したはずの記憶が蘇る。そんな時、綾瀬の前に佐藤弘(松田洋治)という少年が現れる。佐藤弘とは綾瀬の本名であった。 スタッフキャスト
友情出演エンドロールより。
製作大林は山中恒の原作をもとにして大林の故郷である尾道を舞台に『転校生』『さびしんぼう』を撮ったが、『さびしんぼう』のロケの際、尾道のふいの雪に遭遇した朝、山中から「尾道は小樽とそっくりだ!」「今度はぼくの古里・小樽で撮って下さいよ」と頼まれて山中の故郷である小樽を舞台にした本作が1989年企画された[3][4]。山中は膀胱がんを患い、築地のがんセンター中央病院で手術し、定期健診に通っていた頃、大林監督から『会いたい』と連絡があり、築地の喫茶店で『ボクは尾道に古里孝行させてもらったから、今度は山中さんが古里孝行しませんか。原作を書いて下さい」と注文があり、大林夫妻とロケハンに行き、帰京後に『はるか、ノスタルジィ』を書いた」と話している[5]。 また当時の小樽市長から「大林さんの尾道での映画は、多くのリピーターを生んでいる。今度の小樽での映画は、ぜひそういう映画を作ってくださるよう、お願いいたします」と頼まれた[4]。この頃小樽は運河(小樽運河)の整備など積極的な観光開発を行い、多くの観光客を集めていたが、当時の小樽市長はそれが一時のブームに終わらないか危惧していた[4]。大林は小樽市長が、自分と同じ「町守り」の考え方の持ち主であること確認し、小樽での映画撮影に積極的に取り組んだ[4]。同じ山中恒を原作とするほかの大林作品はまず原作が先なのに対し、『はるか』は映画の企画の方が先だった[6]。映画化にあたり、最初に訪れた小樽のロケハンにおいては内容すらまったく決まっていなかったという[7]。大林の手による最初のシナリオが完成したのは翌1990年1月[8]。1990年夏に撮影された『ふたり』の撮影中もシナリオは手元にあり、ずっとスポンサーを探していた。しかし、なかなか企画自体は進まず一時制作は中断するが、『ふたり』のスポンサーであったギャラックプレミアムが制作に名乗りを上げたことで再び復活し、1991年の初夏に撮影がスタート。映画が完成するまで4年かかった(全国公開まで含めると5年)。 撮影は前作『ふたり』に続いて当初は長野重一で予定されていたが、長野が体調不良のため降板となり阪本善尚に変わった。冬景色の撮影のみが長野により撮影されているのはそのためで、本編を撮影する前に撮影されていた映像がそのまま使われている[9]。 ほぼ小樽およびその周辺でのロケ撮影である[10]。原作者の山中恒が中学時代を過ごした祖父の家の跡でも撮影が行われた[5]。公園や商店街は、砧の東宝スタジオ最大のスタジオにオープンセットが組まれて撮影された[11]。東宝美術の協力もあり[11]、八王子から大木をたくさん運び込み[11]、東宝では20年ぶりともいわれた大掛かりなもので[11]、東宝史上最後のオープンセットともいわれた[11]。 公開映画自体は大林の次作『青春デンデケデケデケ』よりも前に撮影を終了していたが[4]、公開もなかなか決らなかった。このため『青春デンデケデケデケ』が先に公開された(『青春デンデケデケデケ』は1992年10月公開)[4]。同作品のパンフレットによると1991年11月[12]、翌1992年には公開を当初予定していたという。全国公開1年前の1992年2月のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で招待作品としてはじめて一般公開されている。またロケ地である小樽でも1992年秋に先行ロードショーされた模様。 評価映画評論家・前田有一は、大林宣彦を"昭和の脱がせ屋"と評し[13]、「大林の功績の中でも(充分とはいえないが)石田ひかりの濡れ場を撮ったことは偉業といえる」と評価している[13]。 もうひとつの別ヴァージョンこの映画にはもうひとつのヴァージョンが製作されている。公開前の前年1992年10月25日にWOWOWでスペシャルディレクターズカット版として放送されたものがそれにあたり、WOWOWでの長時間にわたる日本映画の特集放送企画「26時間日本映画の日 にっぽんが観たい!!」の中でのトリを飾る目玉番組として放送。これは劇場公開が放送の時点では未定であったということもあり、先行プロモーション的意味合いも兼ねて放送されたものと思われる。 正式タイトルは「はるか、ノスタルジィ:スペシャル・ディレクターズ・カット・WOWOWヴァージョン」で、本編は118分。大林監督自らができあがっていた劇場版を再編集している。大筋は劇場版と同じだがまったく同じではなく、のちに公開される劇場版において、すべてが明らかとなるような締めくくり方で終わっている。このヴァージョンでカットされたシーンの一部は、ラストのエンドロールのバックで劇場公開版にはない綾瀬慎介(勝野洋)によるナレーションとともに紹介され、また劇中のセリフも含めた音声面でも独自の細かい編集が成されていた。本編放送前には大林監督、勝野洋、石田ひかりの3人による対談が放送された。再放送も検討されたようだが、1回だけの放送に終わり、DVDなどのソフト化も一切されていない。 本作で流れる曲
脚注
参考文献
外部リンク |
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