アイの歌声を聴かせて
『アイの歌声を聴かせて』(アイのうたごえをきかせて)は、吉浦康裕が原作・監督・脚本を務める日本の長編アニメーション映画作品[1]。2021年10月29日に松竹の配給により全国243館で公開された[2]。 女子高生の姿をした「ポンコツAI」と高校生の少年少女たちの友情と絆を描いた青春群像劇[3]。タイトルの「アイ」には「愛」「AI」そして「I(=私)」という三つの意味が込められている[4]。 キャッチコピーは「ポンコツAI、約束のうたを届けます。」。 ストーリー大企業「星間エレクトロニクス」による実験都市・景部市[注 1]にある、景部高等学校のサトミ(天野悟美)のいるクラスにシオン(芦森詩音)という転校生がやってきた。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、天真爛漫な性格というのも相まって、一躍学校の人気者になったのだが、転校早々彼女はクラスで孤立しているサトミに突如として「今幸せ?」と呼びかけ、さらにサトミの前で歌い出すなど、突飛もない行動を起こす。 そんなシオンの行動に巻き込まれる形で、サトミとクラスメイトのトウマ(素崎十真)、ゴッちゃん(後藤定行)、アヤ(佐藤綾)、サンダー(杉山紘一郎)は、シオンが緊急停止する瞬間を目撃してしまう。シオンの正体はサトミの母・美津子が開発した試験中のAIを搭載した少女型アンドロイドであり、その実地試験を行うために転入してきたのであった。 シオンはサトミたちを振り回しながらも、彼女たちの幸せのためにひたむきに動き、サトミたちもその姿と歌声に魅了され、仲良くなっていく。 サトミは自宅でサンダーの祝勝会を開くため、シオンを学校外へ連れ出す。これがきっかけで、データが改ざんされていたと知られ、シオンは西城に回収されてしまう。実験は失敗となり、美津子は自暴自棄になり飲んだくれていた。トウマはサトミが子供のころ美津子にプレゼントされたおもちゃのAIがシオンのAIで、野見山に初期化される寸前にAIだけがネットワークに逃げてずっとサトミを見守り、シオンの体に入ったことを突き止める。 サトミたちは美津子の協力でシオン救出のため星間エレクトロニクスのラボに侵入する。ゴッちゃんたちが時間を稼ぎ、その隙にサトミとトウマはシオンをラボの屋上に連れ出し、AIだけをアンテナで空中に逃がす。 事件後、謹慎を終えた美津子は会長のはからいで研究を続けられることになった。人工衛星に宿ったシオンは、サトミとトウマを応援するため歌を歌う。 登場人物景部高等学校
星間エレクトロニクス
その他スタッフ
テーマテーマは「AI」と「人間」の関係で、両者は見分けがつかないように描かれている[3][19]。 吉浦は自分が得意とする「AI」という題材に青春劇や恋愛模様をプラスすることでポップなエンターテインメントフィルムとして仕上げている[20]。 SF的な難解さをミュージカルで突破していくアイディアや、スマートシティやAIホームなどの手の届きそうな未来の描写により、脅威として描かれがちなAI(人工知能)のシンギュラリティを肯定的に捉えた作品[3]。吉浦は、「AI社会の未来のポジティブな世界観を作品で表現したかった」と語っている[21]。 制作企画の目的は、王道のエンターテインメントを劇場のオリジナル作品として制作することだった[4]。制作プロデューサーからの提案を受けた吉浦は、オリジナルで勝負する以上インパクトが欲しいということで、没にした自分のプロットを脚本家の大河内一楼に見せることにした。そして意見を聞いたのち、彼に共同脚本をオファーした[4][22]。吉浦が一人で書いた当初のプロットでは、AIは猫型や男性ロボットなど、完成版とは異なる設定だったが、2人で原案を再構築していく中で女性型にすることが決まった[21]。またディスカッションで歌を使うアイデアも出て、何か大きなインパクトが欲しかった吉浦が選んだのは、彼がずっとやりたかったミュージカルという題材だった[22]。そうして「突然歌を歌う女子高生のミュージカルキャラ」が出来上がった[21]。 劇中アニメ『ムーンプリンセス』は、作品の中ではあくまで映像素材として使うに留まっているが、そのまま映画館でも流せるフルサイズで作っている[23]。 音楽詩音が歌うことで周りの人の心が動かされたりと、本作には歌がストーリーの中に意味を持って組み込まれているが、純粋な「ミュージカル映画」ではない[22][24]。一般的なミュージカルでは、登場人物が自分の心象風景をセリフの代わりに歌で表現するが、本作の場合は、自分ではなく相手の心情を推測し、相手のために歌っている[22][24]。ミュージカル的手法は、AIである詩音がどこかコミカルに見えるよう表現する方法として導入されている[4]。そのため、普通のミュージカルと異なり、本作では詩音が突然歌い出すと周りが「それはおかしい」という当然の反応をする[23]。それによってAIならではの場の空気を読まない行動が表現されている[19]。そして、ストーリーが進むに連れて次第に違和感がなくなり、ミュージカルとして楽しめるようになるという構成となっている[23]。また物語は各キャラクターの問題が全て詩音の歌によって解決していくスタイルになっており、AIである彼女のまっすぐすぎる行動を多彩に表現するために、ポップス、ジャズ、バラードと様々なタイプの楽曲が用意された[4][23]。 吉浦は、本作を脚本と歌のイメージを同時に持ちながら作っていった[21]。吉浦の意図したのは、すでに出来上がったストーリーを動かす仕組みとして歌があるというものだったが、ライブシーンの中で歌うような話の流れと分離したものではなく、歌が物語の中に入り込んでいるものを作りたかった[24]。そのため、脚本の構成に合わせて歌の役割を決め、音楽制作側に楽曲や歌詞を発注していった[22]。また楽曲が先に出来ていないと作画作業が進められないので、吉浦は早い段階でどの場面でどういう意図で使われるかといった情報を音楽側に先に伝えて共有し、自身は実際に楽曲を聞きながら絵コンテ作業を行った[4][22]。 劇中歌
評価公開当初は客足が振るわなかったものの、TikTokをはじめSNSで評判を呼び、公式側もSNS運用などで積極的なPRを続けた結果、公開から1か月以上が経過してもじわじわと人気を拡大した[3][24]。映画.comが選ぶ2021年の映画ベスト10で10位にランクインしている[3]。 受賞イギリスで開催されたスコットランド・ラブズ・アニメ2021[注 3]にて日本での公開に先立って上映され、観客賞を受賞した[26]。監督の吉浦にとっては2013年の『サカサマのパテマ』に続いて8年ぶり、2度目の受賞となった[26]。 2022年1月、第45回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した[27]。 テレビ放送2025年3月15日(土)0時 - 2時にNHK Eテレで放送された[28]。地上波初放送[29]。 メディアミックス
小説乙野四方字によるノベライズ版が講談社タイガより、2021年10月15日に発売[32]。
漫画前田めぐむ作画によるコミカライズ作品が『月刊アフタヌーン』にて2021年8月号より2022年9月号まで連載[30][33]。単行本は全3巻。
関連商品CD脚注注釈出典
関連項目外部リンク
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