カルシトニン遺伝子関連ペプチド

カルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide、略:CGRP) とは、中枢神経、心臓や血管など末梢の一次知覚神経の終末および遠位端に存在しているアミノ酸37個からなるペプチドである。カルシトニン遺伝子が選択的スプライシングを受けて作られ、αCGRPおよびβCGRPの2種類の異性体が存在する。αCGRPは主に末梢の感覚神経節Aδ線維およびC線維内に、βCGRPは主に腸管の神経系に分布する[1]

カルシトニン遺伝子関連ペプチドは受容体を介して細胞内cAMPを上昇させ、血管拡張、心拍数減少および心筋収縮力増大を起こしたりする。

炎症にも関連し、軸索反射により放出されると紅斑(フレア)が出る。鍼灸ではこの作用を利用し、体質改善を促進したりしている。

関連疾患

片頭痛は、何らかの要因により三叉神経末端が刺激されてそこからCGRPが分泌され、三叉神経系の感作や血管拡張を誘発して起こるとされる[2]。例えば、片頭痛発作中患者の頚静脈中でCGRPが多量に検出されることや、片頭痛患者にCGRPを投与すると発作が誘発されることが検証されている[3]

片頭痛の急性期治療薬の一種であるトリプタンやジタンは5-HT1Dあるいは5-HT1Fを活性化することでCGRPの放出を抑制することが知られている[3]

このため片頭痛急性期治療にCGRP受容体の拮抗薬が有効ではないかとする研究が進んでいた[4][5]。しかし、初期に開発されたolcegepantやtelcagepantは症状改善効果がみられたものの、安全性に問題があったため開発が中止された[3]

その後は予防治療としてCGRPあるいはCGRP受容体を標的としたモノクローナル抗体の開発が進み、米国では2018年に承認を取得した。日本では2021年に販売が始まった[6]遺伝子組換えCGRP抗体であるガルカネズマブ(商品名エムガルティ)は、日本では2021年4月26日に発売[7][8]、さらに8月にはエレヌマブ(商品名アイモビーグ)[9]が発売された。フレマネズマブ(商品名アジョビ)は二者と異なりCGRP受容体抗体である[10]。いずれも皮下投与の注射剤である。

また、低分子のCGRP受容体拮抗薬についても安全性を改善した新世代が開発されており、主な製品としてubrogepant、rimegepant、atogepantなどがある[11]。急性期治療と予防治療の両方で承認されているものも存在する[12]

関連項目

脚注

  1. ^ Edvinsson L, Ho TW. (Apr 2010). “CGRP receptor antagonism and migraine.”. Neurotherapeutics. 7 (2): 164-175. PMID 20430315. 
  2. ^ 柴田 護「新時代の片頭痛治療薬CGRP抗体,受容体抗体について」『神経治療学』第37巻第4号、2020年、675-679頁、doi:10.15082/jsnt.37.4_675 
  3. ^ a b c 柴田 護「CGRP の構造と機能 : 片頭痛病態との関連を中心に」『日本頭痛学会誌』第50巻第1号、2023年、22-25頁、doi:10.50860/jjho.50.1_22 
  4. ^ Olessen, Jes et al. (2004), “Calcitonin gene–related peptide receptor antagonist BIBN 4096 BS for the acute treatment of migraine”, NEJM. 350: 1104-1110, PMID 15014183 full text
  5. ^ Durham PL, Vause CV. (jul 1 2010). “Calcitonin gene-related peptide (CGRP) receptor antagonists in the treatment of migraine.”. CNS Drugs. 24 (7): 539-48. doi:10.2165/11534920-000000000-00000. PMID 20433208. 
  6. ^ 「片頭痛治療」で実は画期的な変化が起きている 相次ぐ新薬の登場は単なる偶然ではなかった。
  7. ^ “日本リリー/第一三共、片頭痛薬「エムガルティ」を発売”. 日刊薬業(じほう). (2021年4月26日). https://nk.jiho.jp/article/160968 2021年6月24日閲覧。 
  8. ^ 片頭痛で初の抗体製剤「エムガルティ」を発売-リリー”. 医療NEWS(QLifePro) (2021年3月5日). 2021年6月24日閲覧。
  9. ^ アムジェン、片頭痛発作の発症抑制薬「アイモビーグ®皮下注70mgペン」新発売のお知らせ
  10. ^ 「アジョビ®皮下注225mgシリンジ」新発売- 2つの投与方法で片頭痛発作の発症を抑制 -
  11. ^ 松森 保彦「CGRP 受容体拮抗薬(gepant)による片頭痛予防治療の展望 ― CGRP 関連抗体薬との相違―」『日本頭痛学会誌』第49巻第1号、2022年、64-66頁、doi:10.50860/jjho.49.1_64 
  12. ^ 北村 英二「急性期頓挫療法としてのGepant: Ubrogepant, Rimegepant」『日本頭痛学会誌』第50巻第1号、2022年、111-116頁、doi:10.50860/jjho.50.1_111 

参考文献

  • 村松正實他編『分子細胞生物学辞典』、東京化学同人、1997年、ISBN 4-8079-0461-2
Prefix: a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

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