三フッ化窒素
別称
Nitrogen fluoride Trifluoramine Trifluorammonia
識別情報
ECHA InfoCard
100.029.097
RTECS number
国連/北米番号
2451
特性
化学式
NF3
モル質量
71.0019 g/mol
外観
無色の気体
密度
3.003 kg/m3 (1 atm, 15 ℃) 1.885 g/cm3 (liquid at b.p.)
融点
−207.15 °C , 66 K, -341 °F
沸点
−129.1 °C , 144 K, -200 °F
水 への溶解度
0.021 vol/vol (20 ℃, 1 bar)
構造
trigonal pyramidal
0.234 D
危険性
NFPA 704 (ファイア・ダイアモンド)
引火点
不燃性
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
三フッ化窒素 (さんフッかちっそ)は化学式 NF3 で表される無機化合物 。この窒素 -フッ素 化合物は無色、有毒、無臭、不燃性、助燃性の気体である。半導体化学でエッチングガスとして使われるため、使用は増加傾向にある。
用途
三フッ化窒素はシリコンウェハー のプラズマエッチング (英語版 ) に使われる。特に液晶ディスプレイやシリコンベースの太陽電池フィルム用のプラズマCVD 処理室の洗浄に使われる。このガスが分解してできるフッ素のラジカル がポリシリコン や窒化ケイ素 や二酸化ケイ素 と反応して分解させる。三フッ化窒素はケイ化タングステン (タングステンシリサイド (英語版 ) 、WSi2 )と一緒に化学気相成長 させて、タングステン を作るのにも使われる。NF3 は当初、ヘキサフルオロエタン (英語版 ) や六フッ化硫黄 のようなパーフルオロカーボン と比べて環境に与える悪影響が少ないと考えられていた[ 1] 。近年フッ素ガスが、三フッ化窒素よりも環境への負荷が小さい代替品として、フラットパネルや太陽電池の量産工程用として導入されている[ 2] 。
三フッ化窒素は取り扱いの容易さと安定性から、化学レーザー の一種であるフッ化水素レーザー に用いられる。
合成方法と反応性
二元素から成るフッ化物の中で、NF3 はフッ素と窒素からは直接合成できない珍しい例である。ほとんどの元素はフッ素ガスと反応し、時には激しく反応する。しかし、N2 と F2 とを直接反応させることはできない。
NF3 を初めて合成したのはオットー・ラフ (英語版 ) であり、ラフは1903年に始めた最初の取り組みから25年後の1928年に、フッ化アンモニウム とフッ化水素 の溶融混合物を電気分解するという方法を使って NF3 を得ることができた[ 3] 。これにより、三フッ化窒素は三塩化窒素 よりもはるかに反応性が低いことが判明した。今日では、アンモニアとフッ素ガスを反応させる方法を使ったり、ラフの方法を改良した方法を使ったりする[ 4]
。
NF3 は気体であり、高圧ボンベに入れて輸送される。
反応
NF3 は水にわずかに溶ける。水と反応することはない。NF3 の双極子モーメント は小さく、0.2340 D である。一方 NH3 は塩基性であり、双極子モーメントは 1.47 D と高い[ 5] 。
NF3 は弱い酸化剤としてはたらく。
塩化水素と反応して塩素を発生する:
2
NF
3
+
6
HCl
⟶
6
HF
+
N
2
+
3
Cl
2
{\displaystyle {\ce {2NF3\ + 6 HCl -> 6HF\ + N2\ + 3Cl2}}}
高温で金属に接触すると、テトラフルオロヒドラジン (英語版 ) を発生する。
2
NF
3
+
Cu
⟶
N
2
F
4
+
CuF
2
{\displaystyle {\ce {2NF3\ + Cu -> N2F4\ + CuF2}}}
NF3はフッ素、五フッ化アンチモン と反応してテトラフルオロアンモニウム (英語版 ) 塩を発生する:
NF
3
+
F
2
+
SbF
5
⟶
NF
4
+
SbF
6
−
{\displaystyle {\ce {NF3\ + F2\ + SbF5 -> NF4^+SbF6^-}}}
温室効果ガス
NF3 は温室効果ガス の一種だが、使用量が少ないため、SF6 やパーフルオロカーボン と比較して地球の大気 に対する環境に与える影響は小さいと言われてきた[ 6] [ 7] 。NF3 の地球温暖化係数 (GWP)はCO2 の17,200倍である[ 8] [ 9] [ 10] 。NF3 の温室効果ガスとしての寿命は740年である[ 8] 。NF3 は排出量が少ないとして、京都議定書 で定められた温室効果ガスには含まれていない。GWP 16,800、寿命 550年とする報告もある[ 6] 。
1992年までの生産量は100トンに達していなかったが、2007年の生産量は4000トンに上ると見られており、使用量は増加傾向にある[ 6] 。2010年の全世界での生産量は8000トンになると見られている[ 11] [ 12] 。大気中の蓄積量は2006年には4200トン、2008年には5400トンに上ると見られている。2008年時点での温室ガスとしての影響は、二酸化炭素の0.15%にすぎない[ 13] 。
安全性
人体
時間加重平均限界値(TLV-TWA)は10ppmである[ 14] 。NF3 は短時間なら皮膚と接触しての危険性は無く、粘膜 や眼に与える影響も小さい。肺に吸い込んだ場合には窒素酸化物 並みの毒性 があり、ひどい場合には血中のヘモグロビン をメトヘモグロビン に変化させてメトヘモグロビン血症 [ 15] となる。
反応性
三フッ化窒素は助燃性 がある[ 14] 。
脚注
^ H. Reichardt , A. Frenzel and K. Schober (2001). “Environmentally friendly wafer production: NF3 remote microwave plasma for chamber cleaning”. Microelectronic Engineering 56 : 73–76. doi :10.1016/S0167-9317(00)00505-0 .
^ J. Oshinowo, A. Riva, M Pittroff, T. Schwarze and R. Wieland (2009). “Etch performance of Ar/N2 /F2 for CVD/ALD chamber clean”. Solid State Technology 52 : 20–24.
^ Otto Ruff, Joseph Fischer, Fritz Luft (1928). “Das Stickstoff-3-fluorid”. Zeitschrift für anorganische und allgemeine Chemie 172 (1): 417–425. doi :10.1002/zaac.19281720132 .
^ Philip B. Henderson, Andrew J. Woytek "Fluorine Compounds, Inorganic, Nitrogen" in Kirk‑Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, 1994, John Wiley & Sons, NY. doi :10.1002/0471238961.1409201808051404.a01 Article Online Posting Date: December 4, 2000
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^ a b c Prather, M.J.; Hsu, J. (2008). “NF3 , the greenhouse gas missing from Kyoto” . Geophysical Research Letters 35 : L12810. doi :10.1029/2008GL034542 . http://www.agu.org/journals/gl/gl0812/2008GL034542/ .
^ Tsai, W.-T. (2008). “Environmental and health risk analysis of nitrogen trifluoride (NF3 ), a toxic and potent greenhouse gas”. J. Hazard. Mat. 159 : 257. doi :10.1016/j.jhazmat.2008.02.023 .
^ a b Climate Change 2007: The Physical Sciences Basis , Intergovernmental Panel on Climate Change, http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg1/ar4-wg1-chapter2.pdf 2008年7月3日閲覧。
^ Robson, J.I.; Gohar, L.K., Hurley, M.D., Shine, K.P. and Wallington, T. (2006). “Revised IR spectrum, radiative efficiency and global warming potential of nitrogen trifluoride” . Geophysical Research Letters 33 : L10817. doi :10.1029/2006GL026210 . http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=17893800 .
^
Richard Morgan (2008年9月1日). “Beyond Carbon: Scientists Worry About Nitrogen’s Effects” . New York Times . オリジナル の2008年9月7日時点におけるアーカイブ。. https://webcitation.org/query?url=http%3A%2F%2Fwww.nytimes.com%2F2008%2F09%2F02%2Fscience%2F02nitr.html%3Fref%3Dscience&date=2008-09-07 2008年9月7日閲覧。
^ M. Roosevelt (2008年7月8日). “A climate threat from flat TVs, microchips” . http://www.latimes.com/news/nationworld/nation/la-na-climate8-2008jul08,0,7460950.story
^ Hoag, Hannah (2008年7月10日). “The Missing Greenhouse Gas” . Nature Reports Climate Change (Nature News ). doi :10.1038/climate.2008.72 . http://www.nature.com/climate/2008/0808/full/climate.2008.72.html
^ MSN産経ニュース 温室効果ガスの三フッ化窒素、従来推定量の4倍以上が大気中に 、2008年10月28日、2009年11月7日閲覧
^ a b NF3 三フッ化窒素
^ Malik, Yogender (2008年7月3日). “Nitrogen trifluoride - Cleaning up in electronic applications ”. Gasworld. 2008年7月15日閲覧。
外部リンク