温室効果ガスの比率(2011)[ 1] と放出源及び吸収源(2000年代)[ 2]
温室効果ガス (おんしつこうかガス、英 : greenhouse gas 、GHG )とは、大気圏 にあって、地表 から放射 された赤外線 の一部を吸収することにより、温室効果 をもたらす気体 のことである。水蒸気 、二酸化炭素 、メタン 、一酸化二窒素 、フロン などが温室効果ガスに該当する[ 5] 。近年、大気 中の濃度を増しているものもあり、地球温暖化 の主な原因とされている。
概要
京都議定書 における排出量削減対象となっていて、環境省 において年間排出量などが把握されている物質としては、二酸化炭素 (CO2 )、メタン (CH4 )、亜酸化窒素 (N2 O、=一酸化二窒素)、ハイドロフルオロカーボン 類 (HFCs)、パーフルオロカーボン 類 (PFCs)、六フッ化硫黄 (SF6 ) の6種類がある。
IPCC第4次評価報告書 では、人為的に排出されている温室効果ガスの中では、二酸化炭素の影響量が最も大きいと見積もられている(地球温暖化の原因 を参照)。二酸化炭素は、石炭 や石油 の消費、セメント の生産などにより大量に大気中に放出されているといわれる[ 6] 。これに対する懐疑論 も一部見られるが、多くは科学的論拠によって反論されている。また気候変動 が世界各地で顕在化していることなどから、温暖化 の主要因として相関性の高さが問われ、さらに悪化傾向が懸念されている。2015年、環境省 などが温室効果ガス観測技術衛星 「いぶき 」の観測データから、2016年 中にも推定経年平均濃度が温暖化の危険水準である400ppmを超えてしまうと報告した[ 7] 。2024年 、人工衛星いぶき による全大気平均の二酸化炭素濃度の年増加量が2011年以降で最大の3.5 ppm/年となり、全大気平均濃度が421 ppmを超えたことが報告された[ 8] 。
水蒸気 も温室効果を有し、温室効果への寄与度も最も多い[ 9] 。蒸発と降雨を通じて、熱を宇宙空間へ向かって輸送する働きも同時に有する。人為的な水蒸気発生量だけでは、有為な気候変動は発生しないが、全体的には上記のような物質が気候変動の引き金となり、水蒸気はその温暖化効果を増幅するとされる(地球温暖化の原因#影響要因としくみ を参照)。この水蒸気 の働きの一部だけを捉えて温暖化に対する懐疑論を主張する者も一部いる(地球温暖化に対する懐疑論#水蒸気 を参照)。
バラク・オバマ 政権でのアメリカ合衆国環境保護庁 は2009年、温室効果ガスが公衆衛生 と公共の福祉 を脅かす汚染 物質であると宣言した[ 10] [ 11] 。
地球温暖化係数
地球温暖化係数 (ちきゅうおんだんかけいすう、英 : global warming potential [ 注釈 1] 、GWP )とは二酸化炭素を基準に、各種気体が大気中に放出された際の濃度あたりの温室効果の100年間での平均強度を比較して表したものである[ 12] 。2016年10月15日、キガリで採択された、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書の改正(モントリオール議定書2016年改正)で、「百年地球温暖化係数」として再定義された[ 13] 。以下の表の数値が汎用されているが上述どおりこれはあくまで100年間スケールであり、現在進行中の地球温暖化に直接かかわる直近数年間での値ではない ことに留意する必要がある。例えばメタン は太陽光存在下大気中では徐々に分解されるので、その温暖化効果は次第に減衰していくがその半減期は約12年であり[ 14] 、したがって直近数年間での実際の温暖化効力は下の表にある28よりもはるかに大きく、20年スケールでさえ84-87[ 15] [ 16] [ 17] [ 18] にもなる。
地球温暖化対策の推進に関する法律施行令による地球温暖化係数[ 12]
気体名
地球温暖化係数(100年間)
(参考)施行令改正[ 19] 前の値
二酸化炭素
1
1
メタン
28 (20年間では84-87)
21
一酸化二窒素(亜酸化窒素 )
298
310
トリフルオロメタン (HFC-23)
14,800
11,700
ジフルオロメタン (HFC-32)
675
650
フルオロメタン (HFC-41)
92
150
1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン (HFC-125)
3,500
2,800
1,1,2,2-テトラフルオロエタン (HFC-134)
1,100
1,000
1,1,1,2-テトラフルオロエタン (HFC-134a)
1,430
1,300
1,1,2-トリフルオロエタン (HFC-143)
353
300
1,1,1-トリフルオロエタン (HFC-143a)
4,470
3,800
1,2-ジフルオロエタン (HFC-152)
53
新規
1,1-ジフルオロエタン (HFC-152a)
124
140
フルオロエタン (HFC-161)
12
新規
1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン (HFC-227ea)
3,220
2,900
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン (HFC-236fa)
9,810
6,300
1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン (HFC-236ea)
1,370
新規
1,1,1,2,2,3-ヘキサフルオロプロパン (HFC-236cb)
1,340
新規
1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン (HFC-245ca)
693
560
1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン (HFC-245fa)
1,030
新規
1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン (HFC-365mfc)
794
新規
1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン (HFC-43-10mee)
1,640
1,300
パーフルオロメタン (PFC-14)
7,390
6,500
パーフルオロエタン (PFC-116)
12,200
9,200
パーフルオロプロパン (PFC-218)
8,830
7,000
パーフルオロシクロプロパン
17,340
新規
パーフルオロブタン (PFC-3-1-10)
8,860
7,000
パーフルオロシクロブタン (PFC-318)
10,300
8,700
パーフルオロペンタン (PFC-4-1-12)
9,160
7,500
パーフルオロヘキサン (PFC-5-1-14)
9,300
7,400
パーフルオロデカリン (PFC-9-1-18)
7,500
新規
六フッ化硫黄
22,800
23,900
三フッ化窒素
17,200
新規
上記の表以外の物質の GWP(100) として、イギリスの政府が水素のGWPを試算しWGPを11±5とした[ 20] 。水素自体は温室効果ガスではないが、メタンやオゾンなどと反応すると反応熱を発し、それによりGWPを上昇させる[ 21] [ 22] 。
排出状況
世界の主要国の排出量は、2010年時点で二酸化炭素に換算して約434億トン(LUCFを除く)だったが、2019年には481億トン(LUCFを除く)に達している。2010年時点での各国の排出量は、中国 (26.4 %) が一番多く、それにアメリカ (12.5 %)、インド (7.1% )、ロシア (5.1 %)、日本 (2.4 %)、ブラジル (2.2 %)、インドネシア (2.1 %)、イラン (1.9 %) 、ドイツ (1.6 %)、カナダ (1.5 %)と続く[ 23] 。
温室効果ガスの排出量上位10国 (MtCO2e)(LUCFを除く)[ 23]
国名\年
1990
1995
2000
2005
2010
2015
2019
2020
割合
世界計
30614
31890
34165
38938
43387
46085
48117
47513
100 %
中国
3240
4309
4569
7267
10219
11818
12705
12943
27.2%
アメリカ
5834
6147
6787
6753
6427
6082
6001
5505
11.6%
インド
1220
1441
1697
1940
2534
3065
3395
3201
6.7%
ロシア
3015
2286
2176
2279
2285
2287
2477
2331
4.9%
日本
1182
1277
1277
1288
1235
1270
1167
1095
2.3%
ブラジル
590
676
768
891
991
1095
1057
1065
2.2%
インドネシア
476
587
666
706
769
850
1002
976
2.1%
イラン
325
426
527
669
782
844
894
845
1.8%
ドイツ
1 128
1 033
958
923
880
844
750
693
1.5%
カナダ
540
580
645
691
670
704
737
678
1.4%
また、国連の下部機関であるUNFCCC(国連気候変動枠組条約)事務局の集計結果が、温室効果ガスインベントリ にて公表されている。
参考:2010年の国の温室効果ガス排出量リスト
日本における温室効果ガスの排出量は、2007年度に過去最高(二酸化炭素に換算して13億7400万トン)を記録した[ 24] 。その後、リーマン・ショック の影響で、2008年度、2009年度と二年連続で排出量は前年度の水準を下回った。2011年の福島第一原子力発電所事故 の発生後、電源構成が原子力から火力に変化した[ 25] ため、2011年度、2012年度と二年連続で排出量は前年度の水準を上回った。
日本の温室効果ガス各物質の割合(2019)
詳細な数値は、日本国温室効果ガスインベントリ において公表されている。これは日本から正式に気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC事務局を通じて)に提出されている値である。
温室効果ガスの排出元は、2020年度実績で、電気・熱分配前の値で、エネルギー転換部門が約40 %、産業部門が約24 %、運輸部門が約17 %、非エネルギー部門が約7 %、業務その他が約6 %、家庭部門が約5 %となっている[ 26] 。日本の温室効果ガス物質の2位(CO2換算で全体の2.3 %)であるメタンについては、2015年度の実績で稲作が44 %、消化器官内発酵が約23 %、固形廃棄物の処分が約10 %、家畜排泄物の管理が約7 %、燃料の燃焼が約5 %、その他が約10 %の順となっている[ 27] 。
脚注
注釈
^ 字義的には「地球温暖化(潜在)能力」を意味する。
出典
^ “Annual Greenhouse Gas Index (AGGI) ”. Global Monitoring Laboratory. 2021年10月23日閲覧。
^ “海洋の温室効果ガス ”. 気象庁. 2021年10月23日閲覧。
^ “温室効果ガスの種類 ”. 気象庁. 2019年12月11日閲覧。
^ 気象庁 [リンク切れ ]
^ 化学工業日報 [リンク切れ ]
^ “地球全体の二酸化炭素濃度の年増加量が過去14年間で最大に 〜いぶき(GOSAT)による2024年の観測速報〜 ”. 国立環境研究所 (2025年2月6日). 2025年8月3日閲覧。
^ 横畠徳太 (2007年10月1日). “温暖化の科学 Q9 水蒸気の温室効果 - ”. ココが知りたい地球温暖化 . 国立環境研究所 地球環境研究センター. 2025年7月30日閲覧。
^ “Endangerment and Cause or Contribute Findings for Greenhouse Gases Under Section 202(a) of the Clean Air Act ”. アメリカ合衆国環境保護庁 (2025年2月27日). 2025年7月30日時点のオリジナル よりアーカイブ。2025年7月30日閲覧。
^ 八田浩輔「温室ガス排出規制の根拠を取り消し方針 気候対策後退 トランプ政権 」『毎日新聞 』2025年7月30日。
^ a b “地球温暖化対策の推進に関する法律施行令(平成十一年政令第百四十三号) ”. e-Gov法令検索 . 総務省行政管理局 (2016年5月27日). 2020年1月25日閲覧。 “2016年5月27日施行分”
^ オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書の改正 新旧対照 外務省(2019年2月27日) (PDF )
^ “Methane and climate change – Global Methane Tracker 2022 – Analysis ” (英語). IEA . 2025年1月21日閲覧。
^ “IPCC Sixth Assessment Report, Chapter 7: The Earth’s Energy Budget, Climate Feedbacks, and Climate Sensitivity, Section 7.6.1.1 Radiative Properties and Lifetimes, Table 7.15 | Emissions metrics for selected species: global warming potential (GWP), global temperature-change potential (GTP). Methane (fossil) GWP20: 82.5 ± 25.8, GWP100: 29.8 ± 11. ”. 2025年1月21日閲覧。
^ “Methane and climate change – Methane Tracker 2021 – Analysis ” (英語). IEA . 2025年1月21日閲覧。
^ “Methane | Climate & Clean Air Coalition ”. www.ccacoalition.org . 2025年1月21日閲覧。
^ Myhre, G., D. Shindell, F.-M. Bréon, W. Collins, J. Fuglestvedt, J. Huang, D. Koch, J.-F. Lamarque, D. Lee, B. Mendoza, T. Nakajima, A. Robock, G. Stephens, T. Takemura and H. Zhang (2013) "Anthropogenic and Natural Radiative Forcing" . Table 8.7 on page 714. In: Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change . Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.). Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA. Anthropogenic and Natural Radiative Forcing
^ “地球温暖化対策の推進に関する法律施行令の一部を改正する政令(案)に対する意見の募集(パブリックコメント)の実施結果について ”. 環境省 (2015年3月27日). 2023年11月13日閲覧。
^ Warwick, Nicola; Griffiths, Paul; Keeble, James; Archibald, Alexander; John, Pile (8 April 2022). Atmospheric implications of increased hydrogen use (Report). UK Department for Business, Energy & Industrial Strategy (BEIS).
^ “水素が地球温暖化を加速する可能性 ”. 国際環境経済研究所 (2022年7月4日). 2022年10月17日閲覧。
^ “UK government study estimates global warming potential of hydrogen ”. dieselnet (2022年4月29日). 2022年10月17日閲覧。
^ a b “Climate Watch ”. Climate Watch. 2022年11月13日閲覧。
^ 我が国の温室効果ガス排出量 (環境省)
^ 東日本大震災による電力危機
^ “環境省_温室効果ガス排出・吸収量算定結果 ”. www.env.go.jp . 2022年6月2日閲覧。
^ “日本のメタンの発生源はなにか。世界との違いは? ”. すぐ活かせる環境情報 . 2022年6月2日閲覧。
参考文献
関連項目
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
温室効果ガス に関連するカテゴリがあります。