二クロム酸アンモニウム
別称
Ammonium bichromate Ammonium pyrochromate
識別情報
CAS登録番号
7789-09-5
PubChem
24600
ChemSpider
23002
国連/北米番号
1439
RTECS 番号
HX7650000
[O-][Cr](=O)(=O)O[Cr]([O-])(=O)=O.[NH4+].[NH4+]
InChI=1S/2Cr.2H3N.7O/h;;2*1H3;;;;;;;/q;;;;;;;;;2*-1/p+2
Key: JOSWYUNQBRPBDN-UHFFFAOYSA-P
InChI=1/2Cr.2H3N.7O/h;;2*1H3;;;;;;;/q;;;;;;;;;2*-1/p+2/rCr2O7.2H3N/c3-1(4,5)9-2(6,7)8;;/h;2*1H3/q-2;;/p+2
Key: JOSWYUNQBRPBDN-RFRSXZKWAS
特性
化学式
(NH4 )2 Cr2 O7
モル質量
252.07 g/mol
外観
橙赤色結晶
密度
2.115 g/cm3
融点
180 °C(分解)
水 への溶解度
18.2 g/100 mL (0 °C) 26.67 g/100 mL (20 °C) 156 g/100 mL (100 °C)
溶解度
アセトン に不溶 アルコール に可溶
危険性
安全データシート (外部リンク)
ICSC 1368
GHSピクトグラム
[ 1]
Hフレーズ
H272 , H301 , H312 , H314 , H317 , H330 , H334 , H340 , H350 , H360 , H372 , H410 [ 1]
Pフレーズ
P201 , P220 , P260 , P273 , P280 , P284 [ 1]
EU分類
爆発性 (E ) 酸化性 (O )発癌性カテゴリ2 変異原カテゴリ2 Repr. カテゴリ2 猛毒 (T+ ) 有毒 (Xn ) 腐食性 (C ) 環境負荷 (N )
EU Index
024-003-00-1
NFPA 704
Rフレーズ
R45 , R46 , R60 , R61 , R2 , R8 , R21 , R25 , R26 , R34 , R42/43 , R48/23 , R50/53
Sフレーズ
S53 , S45 , S60 , S61
発火点
190 °C
関連する物質
その他の陽イオン
二クロム酸カリウム 二クロム酸ナトリウム
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
二クロム酸アンモニウム (にクロムさんアンモニウム、ammonium dichromate)は化学式 (NH4 )2 Cr2 O7 で表される無機化合物 。CAS登録番号 は [7789-09-5]。重クロム酸アンモニウム とも呼ばれる。6価クロム 化合物のひとつである。擬似火山噴火 の実験に用いられる[ 2] 。
性質
室温、常圧 では橙赤色~赤褐色の結晶または結晶性粉末として存在し、水 、アルコール に易溶。水酸化アンモニウム 中でクロム酸 を反応させたあと結晶 化させて調製する[ 3] 。
二クロム酸塩 であるので強力な酸化剤 である。
(NH4 )2 Cr2 O7 の結晶(C2/c, z=4)は、1種類のアンモニウム イオン のみが対称な位置に配置されている。C1 (2,3)。それぞれのアンモニウムイオンの中央で不規則に8個の酸素原子が直線的に配置され、そのN-O結合の長さは約2.83 Å から3.17 Åである。この結合は典型的な水素結合 である[ 4]
。
用途
パイロテクニクス やリトグラフ 、初期の写真 、実験室では純粋な窒素 を供給するため、また触媒 として使われていた[ 5] 。また染色 における媒染剤 、アリザリン やクロムミョウバン の量産、皮なめし や浄油 に使用されていた。
PVA 、二クロム酸アンモニウム、および燐光 物質(通称「蛍光体 」)を混合した水溶性スラリー は、テレビ等に使うブラウン管 の製造に使われる。スラリーをブラウン管の内面に薄い膜状にスピンコート してから、蛍光体のストライプ を形成する露光 処理がなされるが、二クロム酸アンモニウムはこの露光処理の光増感剤 として働く[ 6] 。
反応
擬似火山噴火
擬似火山噴火の様子
擬似火山噴火は、二クロム酸アンモニウムの山に点火すると次のような反応が起こることで発生する[ 7] 。
(NH4 )2 Cr2 O7 (s) → Cr2 O3 (s) + N2 (g) + 4 H2 O (g) (ΔH=−429.1 ± 3 kcal/mol)
硝酸アンモニウム のように、二クロム酸アンモニウムは熱力学 的に不安定な物質である[ 8] [ 9] 。その熱分解 反応は一度始まると自然におさまるまで続き、火を噴きながら生成したガスに乗せて酸化クロム(III) の緑色の粉末を吹き上げる。しかしこの反応で全ての分子が分解するわけではなく、生成した粉末を水に溶かすとオレンジ色、もしくは黄色となる。これは未反応の二クロム酸アンモニウムの色である。
高倍率の顕微鏡 を用いて二クロム酸アンモニウムの熱分解の際の分子の運動を観察すると、塩 (えん) の熱分解は中間に液体 の状態があり、その仲介によって反応が成り立っていることが分かる。特徴的な暗い結晶を持つ二クロム酸アンモニウムは、Cr3 O2− 10 やCr4 O2− 13 といったオキソアニオン に結合していた分離性のアンモニア が濃縮されてオキソアニオンを失い、分解して最後にはCrO3 となる。酸化クロム(VI)は二クロム酸アンモニウムが融解 した状態で分解の中継となることが分かっている[ 10] 。これはよく火山 の噴火 に例えられる(状態が似ているということで、原理が同じわけではない)。
酸化反応
二クロム酸アンモニウムは強力な酸化剤であるため、全ての物質に対して酸化剤として働く。相手の還元剤 が強ければ強いほど、より激しい反応を起こす[ 8] 。かつてはアルコール やチオール の酸化にも使われていた。硫酸水素マグネシウム と湿った二酸化ケイ素 があれば、二クロム酸アンモニウムは酸化カップリングの際に溶媒がない状況下で非常に効率的な試薬 となる。このときは反応を比較的穏やかに進められる[ 11] 。またこれは、反応は激しいが脂肪族 アルコールをZrCl4 や湿ったSiO2 を用いてアルデヒド やケトン に酸化する反応にも用いられる[ 12] [ 13] 。
危険性
他の6価クロムと同様に人体への毒性が非常に強く、環境負荷 も大きい。また発癌性 も認められており[ 14] 、人体への刺激性も強い。
事故
密封されたコンテナ の中では、二クロム酸アンモニウムは加熱により爆発する危険性がある。1986年 1月19日 、ニューヨーク・タイムス はアメリカ 、オハイオ州 アシュタビューラ郡 アシュタビューラ にあるダイヤモンド・シャムロック・ケミカルズ (英語版 ) で死者2人と負傷者14人が発生する爆発事故があったと報じた。原因は、当時扱っていた2000ポンド の二クロム酸アンモニウムがヒーター で暖められて爆発したと考えられている[ 15] 。
参考文献
^ a b c Sigma-Aldrich Co. , Ammonium dichromate . Retrieved on 2022-05-11.
^ “Ammonium Dichromate Volcano ”. Chemistry Comes Alive! . Division of Chemical Education, Inc., アメリカ化学会 . 2009年7月19日時点のオリジナル よりアーカイブ。2009年5月14日閲覧。
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^ Diamond, S. The New York Times , 1986 , p. 22.
外部リンク
二クロム酸アンモニウムの熱分解の映像 - YouTube