北北西に進路を取れ
![]() 『北北西に進路を取れ』(ほくほくせいにしんろをとれ、原題:North by Northwest)は、1959年のアメリカ合衆国のスパイスリラー映画。監督はアルフレッド・ヒッチコック、脚本はアーネスト・レーマン、主演はケーリー・グラント、音楽バーナード・ハーマン。 概要『北北西に進路を取れ』は人違いの物語である。ある無実の男が、政府の機密を収めたマイクロフィルムを国外に密輸する計画を阻止しようと謎の組織のエージェントにアメリカ中追い回される。 タイトル・シーケンスはソール・バスによるもので、キネティック・タイポグラフィを本格的に使用した最初の作品であるとみなされている[3]。製作会社はメトロ・ゴールドウィン・メイヤー。テクニカラー、ビスタビジョン作品。 原題 North by Northwest について「North by NorthWest」という方位は現実には存在しない。全周を32方位に分割した時の方位の呼び方[注 1]では、北北西(北からの角度・中間値337.5度)は、North-NorthWest(NNW)である。北西微西(同303.75度)は NorthWest by West(NWbW)、北西微北(同326.25度)は NorthWest by North(NWbN)、北微西(同348.75度)は North by West(NbW)である。 1960年に来日したヒッチコックは「そんな方向はないのだから、そうしたことを言い出すほど主人公はとり乱している」という意味だと、当時「ヒッチコック・マガジン」に掲載された座談会で語っていた[4]。 また、ヒッチコックはピーター・ボグダノヴィッチによるインタビューの中では、「『三十九夜』のアメリカ版を撮ろうとずっと考えていた。一種のファンタジーだ。タイトルがこの映画の全体を象徴している …コンパスには“north by northwest”などというものは存在しない。自由な抽象芸術に近いことを映画製作でやろうとすると、思うままにファンタジーを用いることになる。それこそ私が扱っている分野だ。私は現実の一面を扱うようなことはしない。」と語っている[5]。 シェイクスピアの『ハムレット』第2幕第2場のハムレットの以下のセリフ、
ストーリー![]() ニューヨーク市マンハッタンの午後、大勢の人々がビルから出てくる。広告会社の役員ロジャー・ソーンヒルも会合場所に急いでいる。付き添ってきた秘書をタクシーに同乗させて、記憶を頼りに次々と指示を与えながらプラザホテルのオークルームに向かう。会合の席に着いてから、ソーンヒルは母親に電報を打とうとベルボーイを呼ぶ。ところがたまたまその時ベルボーイは客を探していて、キャプランという名を連呼していた。近くで監視していた2人の男は、ソーンヒルをキャプランと誤認してしまう。男たちはソーンヒルを拳銃で脅して車に乗せ、郊外の広壮な邸宅へ連れていく。 そこで待っていたタウンゼントという男は、彼をスパイのジョージ・キャプランと決めつけ、どこまで情報を嗅ぎつけたのかを教えろと迫る。人違いだと訴えても受けつけず、免許証を見せても偽造だと言われる。そしてキャプランが過去に滞在した場所から、その後に訪れる予定の場所までを並べ立てる。ソーンヒルがあくまで人違いだと主張すると、男の手下たちが強引に酒を飲ませて車に乗せ、崖から転落させて殺そうとする。 転落は免れたが、ソーンヒルはパトロール中の警官に酒酔い運転で逮捕され、起訴されてしまう。罰金を払って釈放されたものの、裁判に情状証人として呼ばれたソーンヒルの母親は、拉致された話を信じようとしない。ソーンヒルは母親を納得させるために、会社には戻らずに、ホテルに戻ってキャプランと会おうとする。しかしホテルの客室にキャプランが宿泊している形跡はあっても、キャプラン当人を見た者は誰もいない。そのうち邸宅にいた手下たちが追って来たことを知ってホテルから逃走し、タウンゼントが国連で演説する予定と聞いたことを思い出すと、今度はタウンゼントを追って国連本部へ向かう。 ところが国連のロビーで会ったタウンゼントは、邸宅にいた男とは別の人物だった。2人が噛み合わない会話をしていると、2人の左右の立ち位置が入れかわった直後、部屋の外にいた手下が投げたナイフがタウンゼントの背中に突き刺さる。倒れ込んだタウンゼントを抱えたソーンヒルは、居合わせたカメラマンに写真を撮られたうえ、殺人の容疑者として大きく報道されてしまう。 政府の諜報機関の会議室では、教授と呼ばれるボスを中心に、予想外の事態への対応を協議している。タウンゼントに成りすました男は、実はヴァンダムという敵のスパイ一味の親玉で、教授たちは彼らヴァンダム一味の中に自分たちの側のスパイを送り込んでいた。キャプランは教授たちが創造した架空のスパイで、ヴァンダムの注意をキャプランに向けさせることで味方のスパイを守ろうという作戦だった。教授たちはスパイ合戦に巻き込まれたソーンヒルに同情しつつも、味方のスパイの安全のため、敢えて何もしないことに決める。 架空の人物とも知らず、なおもキャプランを追い求めるソーンヒルは、再び持ち前の記憶力を発揮して、シカゴに向かう予定と聞いたことを思い出すと、グランド・セントラル駅から特急寝台列車「20世紀特急」に乗る。その車内でイヴ・ケンドールという女性と親しくなる。彼女はソーンヒルがお尋ね者であることを承知していて、彼を自室に招き入れてかくまう。ところが同じ列車にヴァンダム一味も乗っていて、実はケンドールは彼らと通じていた。 シカゴのラサール・ストリート駅に着くと、ケンドールはキャプランと連絡を取ったと言って、ソーンヒルをインディアナ州の広大な平原に長距離バスで向かわせる。しかし、その平原でいつまで待ってもキャプランは現れず、そのかわり農薬を散布していたはずの軽飛行機が襲いかかってきた。平原やトウモロコシ畑の中を縦横に逃げるソーンヒルを追い回すうち、軽飛行機はソーンヒルが助けを求めて止めさせたタンクローリーに激突して炎上してしまう。 シカゴに戻ったソーンヒルは、キャプランが宿泊しているはずのホテルでケンドールを見つける。既に彼女の素性を怪しんでいたソーンヒルは、こっそりと部屋を出て行った彼女の後を追う。向かった先は骨董品のオークション会場だった。彼が会場に乗り込むと、はたしてケンドールがヴァンダムとその手下に囲まれて客席に座っていた。ヴァンダムはソーンヒルの出現に驚くが、出展品のメキシコ先住民による塑像を落札すると、ケンドールを連れて会場を出て行く。ソーンヒルは手下たちに見張られて動けなくなるが、とっさにオークションの客に扮して、出展品に出鱈目な応札値を付けて会場を混乱させ、警官に連れ出される形で脱出に成功する。 警察署に向かうと思われた彼を乗せたパトカーが向かった先は空港だった。その場で教授が初めてソーンヒルに接触して、全ての事情を説明する。ケンドールこそは教授たちがヴァンダム側に送り込んだスパイなのだった。ヴァンダムは、彼女が敵側のスパイのキャプラン(実はソーンヒル)と懇意であることを知り、彼女を疑い始めていた。教授はソーンヒルに彼女を助けるために協力するように要請する。飛行機でヴァンダムのアジトである山荘があるラシュモア山まで飛び、ヴァンダム一味を待ち構える。そこのカフェテラスに彼らを呼び寄せ、彼らの目前でケンドールが拳銃でキャプラン(実はソーンヒル)を撃ったように見せかけることで、彼女に対するヴァンダムの疑念を晴らすという作戦だった。 作戦は首尾良くいったが、その後でソーンヒルは、ケンドールがヴァンダムに連れられて出国することを知らされた。憤激したソーンヒルは、彼女をヴァンダムから奪う行動に出る。山荘に潜入して様子をうかがうと、すでにケンドールの正体は見破られていて、彼女を殺害する予定になっていること、そして彼らが盗み出したフィルムは落札された塑像の中にあることを知った。それらの情報をひそかにケンドールに伝えるが、近くで待機している飛行機の離陸は間近に迫っていた。 ケンドールは飛行機に乗せられる寸前にヴァンダムの手から塑像を奪って逃げ出す。ソーンヒルと合流して逃走するも、ヴァンダムの手下たちに歴代大統領4人の顔が岩に刻まれた巨大なモニュメントまで追い詰められる。2人が崖下に転落させられそうになったところで、教授が要請した地元保安官による射撃に助けられる。画面が切り替わって、寝台車のベッドの上でソーンヒルとケンドールが抱き合うシーンで幕となる。 キャスト
※日本テレビ版吹替がDVD(50周年記念スペシャル・エディション版)およびBlu-rayに収録 ※日本語吹替は上記の他、1986年に公開されたJAL機内上映版も存在する[9]。
作品の評価映画批評家によるレビューRotten Tomatoesによれば、批評家の一致した見解は「手に汗握るサスペンスで、映像的にも象徴的な、このヒッチコック後期の傑作は後に続く数え切れないほど多くのアクションスリラーの基礎を築いた。」であり、79件の評論のうち高評価は99%にあたる78件で、平均点は10点満点中9.1点となっている[10]。Metacriticによれば、16件の評論の全てが高評価で、平均点は100点満点中98点となっている[11]。 受賞歴第32回アカデミー賞(1959年)において3部門にノミネートされた。
1960年エドガー賞の映画脚本部門でアーネスト・レーマンが最優秀賞を受賞した。 トリビア![]() →「アルフレッド・ヒッチコックのカメオ出演一覧」も参照
ギャラリー舞台化キャロリン・バーンズによって舞台化され、2015年にメルボルン・シアター・カンパニーで初演された[21]。 関連項目脚注注釈出典
参考文献
外部リンク
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