古ハンガリー文字 (Unicodeのブロック)
古ハンガリー文字(こハンガリーもじ、英語: Old Hungarian)は、Unicodeのブロックの一つ。 解説1000年代から1850年代後半にかけて、ハンガリーの公用語である、マジャル人が話すウラル語族フィン・ウゴル語派ウゴル諸語に属するハンガリー語(マジャル語)を表記するために用いられてきた古ハンガリー文字(ロヴァーシュ文字)を収録している。 なお、現在のハンガリー語は通常ラテン文字で記述されるが、20世紀初頭からこの文字体系の使用運動を受けて徐々に使用が復活しており、現在もハンガリーで広く使用されている。なお、本文字体系の使用コミュニティでは Szekely-Hungarian Rovas(セーケイ゠ハンガリー・ロヴァーシュ文字)という名前がよく好まれる[1]。 古ハンガリー文字はおそらく突厥文字(オルホン文字)に由来する文字体系であり[2]、音素文字のうち子音と母音とに独立した文字が割り当てられているアルファベットに分類される。書字方向については、特にセーケイ゠ハンガリー・ロヴァーシュ文字ではかつてラテン文字などと同様に左から右への横書き(左横書き)や、文字の行ごとの左右反転や180°回転を伴う牛耕式で書かれることもあったが、アラビア文字やヘブライ文字などと同様に右から左への横書き(右横書き)で記す方が一般的であり、現在もそちらが主流である[3]ため、Unicode上では右横書きとして定義されている。 単語毎に分かち書きをし、現在は単語区切りには通常のスペースが使われることが多いが、歴史的には また、現在の正書法ではラテン文字などと同様に大文字と小文字の区別が存在する。ただし元々は大文字・小文字の区別は存在していなかった[1][2]。 突厥文字同様、ルーン文字と外観が類似しているため俗に「ハンガリー・ルーン文字(Hungarian Runic)」と呼称されることがあるが、ゲルマン諸語の表記に用いられたルーン文字とは系統的に全く無関係である。 加えて、アラビア文字やタイ文字などと同様に独自の数字体系(古ハンガリー数字)を有している。 符号位置の順序はおおむね現在のラテン文字におけるハンガリー語アルファベットの順序に従っている。 Unicodeのバージョン8.0において初めて追加された。 収録文字
小分類このブロックの小分類は「大文字」(Uppercase letters)、「小文字」(Lowercase letters)、「数値」(Numbers)の3つとなっている[1]。 大文字(Uppercase letters)この小分類には古ハンガリー文字の大文字が収録されている。 大文字は現代になって新しく作られたものである[1]。 小文字(Lowercase letters)この小分類には古ハンガリー文字の小文字が収録されている。 数値(Numbers)この小分類には古ハンガリー文字のうち、位取り記数法を用いず、単位数字を並べて表現する数値記号(Unicode上では10進法の位取り記数法を用いる"digit"とは区別される)が収録されている。 ブロック名に関する論争提案当初は、17世紀ごろに新たに作られた現代における使用のための右横書き・左横書き・牛耕式のいずれも取りうる「セーケイ゠ハンガリー・ロヴァーシュ文字(Szekely-Hungarian Rovas)」、7世紀から12世紀にかけて現在のハンガリーやスロバキアに相当するパンノニア平原(カルパティア盆地)地域で使用され[6]2009年に復活した、ハンガリー語のほか、ブルガール語(オノグル語)、アラン語、スラヴ諸語、ユーラシア・アヴァール語などの表記にも用いられた右横書き専用の「カルパティア盆地ロヴァーシュ文字(Carpathian Basin Rovas)」、6世紀から965年にかけてカスピ海北部、黒海沿岸やコーカサス地方に存在したテュルク系遊牧民族が建国したハザール帝国でテュルク諸語及びアラン語の表記に用いられた右横書き専用の「ハザール・ロヴァーシュ文字(Khazarian Rovas)」という3つの別々の文字体系として提案されていた[3]。2011年6月8日に発表されたN4110ではこれらを1つの文字体系として統合して、「古ハンガリー文字(Old Hungarian)」という一つのブロックする提案がなされていた[7]。 この名称に決定されたのは、N4110以前の提案(N3664及びN3697)ではロヴァーシュ文字を「ハンガリー・ルーン文字(Hungarian Runic)」として提案されていたが、ロヴァーシュ文字はルーン文字とは系統的に無関係の文字体系であることから名称として不適切であるという指摘が入った[8]ため、代替の名称として英語でロヴァーシュ文字のことを言及する際に当時一般的に使用されている名称に置き換えたためである[7]。 しかし、ブロック名が「ロヴァーシュ文字(Rovas)」ではなく「古ハンガリー文字(Old Hungarian)」となっていることに対しては、2012年1月11日にDr. Gábor HosszúによりN4183で"Old Hungarian"という用語がハンガリーの言語学者によってラテン文字による中世のハンガリー語表記を指すために既に使用されていることや、ロヴァーシュ文字が896年から1526年にかけて話されていた古ハンガリー語(Old Hungarian language)を記述するものではないことから誤解を招くとして不適切であるとするの指摘があった[3][9][10]。 これに対して同年1月30日André Szabolcs Szelpは、「ロヴァーシュ(Rovás)」というハンガリー語は「切り込み、画線法」を表しており、現在小分類で数値に分類されている古ハンガリー数字のみを表す用語として用いられるもので、派生語のrovásírás(切り込み文字)も「突厥文字(török rovásírás)などを含む、ルーン文字に似た形状の文字体系」を表す単語でしかなく、本文字体系について現在のハンガリーの科学文献で好まれている用語は「székely írás」、つまり「Szekler 文字」であると指摘した。ただし、同文書で本文字体系は一般的な文字史家がハンガリー人の民族的サブグループを表すSzeklerという単語をあまり認知していないとして、ブロック名は"Old Hungarian"が適切であるとした。また、古ハンガリー語との混同についてはある程度の曖昧さは否定できないものの、この用語は実際には混同されるものではないと反論した[11]。 また、Dr. Gábor Hosszúによるロヴァーシュ文字の分類についても異議を唱えており、カルパティア盆地ロヴァーシュ文字は国際科学においては、シャールヴァス・ナギセントミクローシュ文字群(Göbl-RónaTas 1995)または東ヨーロッパ文字群のティサ文字群(Kyzlasov 1994)として、ハザール・ロヴァーシュ文字は国際科学においては東ヨーロッパ文字群(Róna-Tas 1988: 488)のドン・クバン文字群とヴォルガ文字群(Kyzlasov 1994)と指定されている潜在的に関連のある2つの文字体系として認識されていること、並びに、ドン・クバン文字群とヴォルガ文字群は確かに密接に関連しており、同じ文字群の変種あるいは段階である可能性はあるものの、未だ解読されていないため、これを明確に断定することは困難であり、完全な文字セットが判明していないこと、シャールヴァス=ナギセントミクローシュ文字についても証拠が少なく完全な文字セットが判明していないこと、さらにはこれらの文字体系が古ハンガリー文字と密接に関係しているか不明であることを指摘している[11]。 これらの指摘を受けてThe Rovas Working Group(ロヴァーシュ作業部会)は以下の判断を下した[12]。
André Szabolcs Szelp(及びMichael Everson)とDr. Gábor Hosszúのどちらの案が適切かについて、利用者グループの間で2012年4月21日から22日にかけてハンガリーのソルトで「Egységes rovás」と題された会議が行われ、Everson-Szelp提案の方がより伝統に基づく提案であり、現代のニーズを満たしつつ歴史的建造物を記述できるという説得力のある見解が得られ、ユーザーコミュニティがどの提案を支持すべきかという問題は投票にかけられた結果でもEverson-Szelp提案に33票(67%)が賛成し、Hosszú提案はわずか2票(4%)の賛成に留まった[13]。 この結果を踏まえて、最終的にAd-hocグループはUCSにおいてこの文字の「正しい」あるいは「最善の」名称について合意が得られていない可能性があると判断し、少なくとも誰もが「受け入れられる」名称を選択することが解決策であると決定したため、古ハンガリー語との混同を避けて文字体系名を単に「ハンガリー文字(Hungarian)」とする案も提出された[14]が、現在はEverson-Szelp案が採用されてブロック名も「古ハンガリー文字(Old Hungarian)」となっている。 合字に関する論争Dr. Gábor Hosszúからは現在ハンガリー語アルファベットのセットに含まれているラテン文字dz、dzs、q、w、x、yに対応するセーケイ゠ハンガリー・ロヴァーシュ文字の字母が含まれていないため、これらを個別の符号位置として追加[5]するよう要請があった。しかし、これらはMiklós Szondiによって、2008年にゲデレーで開催された会議「Élő rovás」の成果には含まれておらず、不適切であるとして収録を却下された[13]。 同様の提案が2021年6月にもBence FEHÉR及びJózsef Álmos KATONAによって提出されたが[15]、Viktor Kovácsによって特にq、w、x、yについてはラテン文字との互換性のため後付けで提案されたものでしかなく、ハンガリー語の表記に必須の文字ではない上に用例も不十分であると指摘されている[16]。 文字コード
履歴以下の表に挙げられているUnicode関連のドキュメントには、このブロックの特定の文字を定義する目的とプロセスが記録されている。
出典
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