国立競技場の建て替え国立競技場の建て替え(こくりつきょうぎじょうのたてかえ)では、日本の陸上競技場である国立競技場の建て替えを巡る経緯を記す。以下、建て替え前の国立競技場を「旧国立競技場」あるいは「旧国立」、建て替え後の国立競技場を「新国立競技場」あるいは「新国立」とする。 概要2008年5月29日に文部科学省は需要の変化や著しい老朽化に対応するため、サッカー専用競技場化などの大規模改修も視野に入れて施設としてのあり方を見直す有識者らを集めた調査研究協力者会議を発足させた。2009年に東京都が開催都市として立候補した2016年夏季オリンピックにおいて、東京オリンピック構想で国立霞ヶ丘競技場はサッカー会場としてのみ使用される計画となっていた。陸上競技などを開催するメインスタジアムは、晴海に建設されるオリンピックスタジアムが予定されていた[1]。だが、2009年10月2日に行われたIOC総会の投票で東京は落選したため、専用球技場への改修は白紙となった。 2011年に東京都が2020年夏季オリンピックへの立候補を表明し、2012年、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会は、国立霞ヶ丘競技場を8万人収容のスタジアムに改築し、開閉会式、陸上競技、サッカー決勝戦、ラグビーの会場とする開催基本計画を正式に発表した。 2012年に開かれた国際コンペでザハ・ハディドによる特徴的なデザインが選ばれ、2015年7月8日、有識者会議の第6回にて、見積もりの2倍にふくらんだ総工費2520億円の計画を承認、同年10月の着工が決まった[2]。しかし、同月17日、安倍晋三首相が「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直す」ことと、予定していたラグビーW杯(2019年9月)の新国立での開催断念を表明。再コンペを実施し、計2案(A・B)の応募があり、12月22日、大成建設・梓設計・隈研吾のチームによるA案(総整備費約1490億円)に「優先交渉権者」が決定された[3]。 経緯→「明治神宮外苑 § 再開発計画」も参照
改修の検討2008年(平成20年)5月29日、文部科学省は、国立霞ヶ丘陸上競技場の施設老朽化などを理由に、球技場への転換も含めた「調査研究協力者会議」を設置した[4][5]。当時すでに行われていた2016年夏季オリンピックの東京招致活動では、晴海埠頭(東京都中央区)に新たに東京オリンピックスタジアム[6] を建設してメイン会場とし、旧国立はサッカーのみの会場に用いる計画としていた。 2009年2月19日に日本ラグビーフットボール協会の森喜朗会長は国立霞ヶ丘の改修に言及し、「2016年の東京オリンピック招致に成功した場合には国立霞ヶ丘競技場をラグビーやサッカーの専用球技場として改修したい」と述べた[7]。しかし、このときの招致活動は、2009年(平成21年)10月の第121次IOC総会でリオデジャネイロオリンピックの開催が決定したため終了した。また、文部科学省による調査も終了した[8]。 2011年(平成23年)7月16日、東京都(都知事は前回に続き石原慎太郎)は、2020年夏季オリンピックの開催地として立候補することを発表した。2020年夏季オリンピックの招致活動では「既存施設の活用」をテーマとして、旧国立をメイン会場とする計画を立案した。しかし、旧国立競技場をメイン会場として利用するためには、「施設の老朽化対策」「国際大会を開催誘致できる規格への改修(スタンド増設も)」などの実施が求められた。文部科学省(スポーツ・青少年局が担当部署[9])と日本スポーツ振興センター(JSC)は協議を重ね、必要な調査を行うことを決めた。この調査のため、2012年度(平成24年度)の予算に1億円の改修調査費を計上した[10]。中川正春文科相も誘致のポイントと語った[11]。吹付アスベスト含有については、調査により不検出との結果を得たという[12]。 改修案の見送り日本スポーツ振興センター(JSC)は当初、改修による旧国立の使用継続を検討していた。2008年の耐震診断結果を踏まえ、2010年に久米設計に改修計画の立案を発注し、2011年3月に「国立霞ヶ丘陸上競技場耐震改修基本計画」が完成した[12]。内容や規模が異なる計3案のうち、最も費用がかかる収容人数7万人規模への大規模改修案では、改修費は777億円(消費税は含まず)と見込まれた[13][14]。 しかし、以下のような理由が懸念され、改修でなく建替となった。
2011年2月には、超党派議員連盟の「ラグビーワールドカップ2019日本大会成功連盟」が総会で、8万人規模で再整備すべきと決議した[19]。同年6月にはスポーツ基本法が国会で制定され、翌2012年に策定されたスポーツ基本計画では、JSCは「国立霞ヶ丘競技場等の施設の整備・充実等を行い、オリンピック・ワールドカップ等大規模な国際競技大会の招致・開催に対し支援する」[20] と定められた。JSCは、「相当にアクロバティックな手法を使わない限り、8万人規模を改修するのは不可能」と判断し、改修案を断念して、全面的な建替を決定した[21]。 新競技場の将来構想翌2012年(平成24年)2月17日になると、自民党スポーツ立国調査会(会長:遠藤利明[22])にて、「8万人規模を軸に検討」「全天候型ドーム構想を視野に」との全面建替工事構想が発表され、河野一郎JSC理事長(2011年(平成23年)10月就任)は「改築」という表現で「世界一のものを作りたい」と決意表明した[23](フランスのスタッド・ド・フランスを例にも挙げた[24])。また、「レガシー」(未来への遺産)というコンセプトも、たびたび使われ続けた[25][26]。 3月6日に組織された「国立競技場将来構想有識者会議」では第1回会議で改築に向けて以下の事項を柱とすることに合意した。
これらの柱を基にして今後は3つのワーキンググループを中心に議論を進め、国際オリンピック委員会 (IOC)への立候補ファイルの提出締切日(2013年1月)までに改築の正式計画を策定することを目標とした。2012年7月13日に有識者会議の第2回会議が行われ、新競技場の概要計画を決定した。計画内容は以下のとおり。
総工事費は、解体費を除いて1300億円程度を見込んでいる。旧国立競技場は2014年7月から2015年10月にかけて解体され、2015年10月から「新国立競技場」の建設を開始、2019年3月までに完成する予定となっている[30]。 計46案からザハ案が選ばれる→詳細は「国立競技場のデザインコンペ (2012年)」を参照
2012年(平成24年)7月13日、JSCと有識者会議は、「新国立競技場基本構想国際デザインコンクール」の実施を決定した。スポーツ施設が集積する神宮外苑の狭い立地ながら、「2019年9月のラグビーW杯(2009年(平成21年)7月28日に開催地決定)の会場使用に間に合うこと」「8万人規模」「開閉式の屋根(夏季五輪のメイン会場では初[31][32])」「延床面積約290,000m2」などの細かい指定[33] が募集要項(11, 14-17頁)に記載され、「総工事費は、約1,300億円程度を見込んでいる」(21頁)とも記された[34]。同年7月21日の新聞見開き全面広告[35] では、「完成は2018年度」と記載された[36]。 同年7月20日から9月25日までの募集期間の応募総数は計46件(海外34・国内12)あり、技術調査・予備審査・一次審査で11件(海外7・国内4)に絞られ[37][38][39][40][41]、同年11月7日の最終審査では「未来を示すデザイン」「スポーツ・イベントの際の実現性」「技術的チャレンジ」「実現性」の4項目(議事録10頁)で判断された[42]。なお、審査委員長の安藤忠雄は後に、このデザインコンクールが「アイデアのコンペ」だったとの認識を示した[43])。 2012年(平成24年)11月15日[注 1][44]、有識者会議(第3回)での承認後、審査結果が発表され、17番:イギリスのザハ・ハディドの作品が最優秀賞に決定した。最後まで競った他の2作品は、それぞれ優秀賞(2番:オーストラリアのAlastair Richardson、Cox Architectur)と入選(34番:日本の妹島和世、SANAA事務所+日建設計)となった[45]。 2020東京五輪は決定も、ザハ案は白紙に2013年9月7日(日本時間8日)、東京(56年ぶり2度目)が2020年夏季オリンピックの開催地に選ばれ、国立競技場も大会のメイン会場と決まった。11月には、日本が招致を検討している2023 FIFA女子ワールドカップのメイン会場に想定する可能性も浮上した[46]。 2014年夏季に解体開始、2015年秋頃に建替着工、2019年に竣工(当初は3月で後に5月へ[47])を予定した。これに伴い、敷地内のJSC本部の建物(一旦仮事務所へ[48])と南に隣接する日本青年館(原宿の岸記念体育会館を移転させる案もあった[49])を解体し、両者を一体化したビルを作る計画も決定した。 また2014年には、国立競技場の敷地拡張とオリンピック開催時の観客の滞留場所を設けるため、霞ヶ丘町の住民のほとんどが住んでいた都営住宅団地「都営霞ヶ丘アパート」も解体し、住民は全員立ち退きとすることも決定した[50] →「霞ヶ丘町 § 都営霞ヶ丘アパート」を参照
2015年5月18日、下村博文文科相は、工期・費用の問題から計画の簡素化を発表。「開閉式屋根の設置は五輪後に」「可動式観客席(15,000席)を仮設に変更し五輪後には取り外す」などとした[51]。7月7日、有識者会議(第6回)にて、予定通りの10月着工への、施設内容やスケジュールなどが承認された。 ところが7月17日、安倍晋三首相が記者団に、計画の白紙化と、予定していたラグビーW杯(2019年9月)の新国立での開催断念を表明した[52]。その理由に、建設資材の高騰などによる建設費用の増大、国民・アスリートたちからの大きな批判を挙げた[53]。同日、下村文科相は、2020年春までの完成を目標と、明らかにした[54]。森喜朗(東京大会組織委会長)らが出席する第128次IOC総会が、月末に迫っていた[55][56][57]。 再コンペに計2案が応募→A案に決定8月14日の関係閣僚会議(第3回)にて、「基本的考え方」(8項目)を決定。これに沿う「新整備計画」の策定を月内に、「公募型プロポーザル方式」でのデザイン公募開始を9月初めに、目指すと発表[58]。新計画は8月28日に発表され、公募を9月1日に開始し事業者を12月末に選定という目標も出された[59]。 12月14日にJSCは、新デザインに応募した計2グループの「技術提案書」を、応募者名などを伏せて(一部が黒塗り)[60] 公表した。19日の審査委[61](仮採点→本採点[62][63])にて1つに絞り、その数日前にJSCが実施した意見交換会(5団体と12アスリート[64])やJSCのサイトに寄せられた国民の意見も踏まえて、大東和美同理事長が判断[65][66][67]。12月22日、関係閣僚会議に諮り、大成建設・梓設計・隈研吾のチームによるA案に「優先交渉権者」が決定された[68][69]。翌2016年1月29日、約24億9127万円で、競技場整備の第I期事業を契約した。同年11月までに設計を完了させる[70]。 →「§ A案・B案の公表→A案に決定」も参照
完成までの流れ→「国立競技場デザインのザハ・ハディド案」も参照
解体工事の遅延
ギャラリー
費用建設費は、2012年のコンペ時点が1300億円(文科省側は「お金がかかりすぎないかについても評価していただく」と求めていたという[109])で、JSCは日本の既存大型スタジアムの総工費を参考としたという[110]。一方、森喜朗(東京大会組織委会長)も意識した[111]シンガポール・ナショナルスタジアムの、約1090億円を参考にしたのではとの推測もある[112]。最大時には3000億円超の膨張が判明した(ザハ案)。将来の解体までのライフサイクルコスト(LCC)は、1兆円を超えるという試算もあった[113]。 2015年7月7日の有識者会議(第6回)は増額要因に、「巨大なアーチ構造を持つ新競技場の特殊性」「(2011年3月発生の東日本大震災や都心部の大型再開発による[86])建設資材や労務費の高騰[114]」「消費増税」の3点を挙げた[115]。つまり「元々高コストな上に建設費そのものが値上がりした」ということである。キールアーチに関しては、鉄骨が3次元構造で特注品[109] となり、高度な技術を持つ業者が数社しかなく、価格競争が起きにくいともいわれた[116]。 7月21日のJSCの資料によると、すでに約59億円(ザハ側へのデザイン監修料、4社JVの設計業務、2社の技術協力等の合計[85][117])の支出があり[118]、8月10日には、61億2000万円と改められた[119]。また、ザハと完全に契約解除した場合、損害賠償なども懸念された[120]。 8月下旬の新整備計画では総工費1550億円程度とし、12月22日に「優先交渉権者」に決まったA案は約1490億円としている。 他とのコスト比較従来の五輪メインスタジアムの総工費はおよそ、リオが約550億円、ロンドンが約800億円、北京が約500億円、アテネが約350億円、シドニーが約680億円[121][122][123][124]。 7万2327人収容の横浜国際総合競技場(日産スタジアム、1998年完成)は、総工費が603億円[125] だった。最近の国内外の大規模競技場では、観客1席あたり100万円程度が建設単価の上限だが、新国立を約1600億円とした場合、1席あたり約200万円になる[126]。アメリカ・テキサス州アーリントンにある、キールアーチを用いた約8万人収容の開閉式スタジアムのAT&Tスタジアムは、総工費が約1600億円だったといわれる[127]。 また、ザハ案では、総工費とは別に将来的な修繕費と大規模改修費[128] だけで約975億円を予定し、年間維持費が約35 - 45億円(旧国立は約4億円、埼玉スタジアムは約6億円、横浜国際総合競技場は約7億円[125])と想定された。 試算の変遷総工費の詳細は、2015年8月19日の検証委の資料[129] で明らかになった[130]。
財源・都の負担
2015年7月8日時点で、計626億円を確保した[152](国費392、JSCの「スポーツ振興基金」125、スポーツ振興くじの2013・2014年度売上5%の109)。その他の未定分に、スポーツ振興くじの2015年度以降の売上5%の50億円超[153]、命名権(ネーミングライツ)や寄付で200億円[154] を検討し、下村文科相が5月18日に舛添都知事へ東京都の負担に500億円を要請した[152]。「スポーツ振興基金」[155] やスポーツ振興くじ「toto」の使用は、アスリートの強化費などの減少が危惧された[156][157]。国立施設への命名権導入には慎重論もあるが、2000年シドニー五輪のメイン会場が「ANZスタジアム」となった例もある[154]。
2015年12月22日時点。最大1581億円を予定するうち、半額の791億円を国が負担し、残り1/4(395)ずつを、都とJSC(スポーツ振興くじ「toto」の収益)で折半する見込み[151][158]。第190通常国会会期中の2016年5月2日、財源に関する法律が参議院本会議で可決・成立した[159]。
猪瀬直樹都知事(当時)は2013年11月18日、都有地部分の「都民の便益となるもの」については都の負担(周辺整備費)を示唆したが[160]、12月24日に辞職。 下村文科相は舛添都知事(2014年2月11日に就任)に2015年5月18日、周辺整備費500億円の負担を要請したが、地方財政法(国立施設における地方自治体の建設経費負担を原則禁止)を根拠に、難色を示した[51][161]。森喜朗(東京大会組織委会長)は5月26日、「五輪は東京都が招致した」と、都の協力の必要性も示した[162]。7月8日、舛添都知事は長年の友人[163]・遠藤五輪相と会談し、都の負担を検討する作業チームを設置することで合意[152]。新整備計画発表の28日には、諸施設に「防災警備施設」と記載されたことも踏まえ、「競技場本体」の負担の検討も示唆した[164](都は新国立を防災拠点に検討している[165])。 12月1日、舛添都知事は「(計1581億円のうち国が半分で)都が395億円程度を負担する案に、国と合意した」と正式表明した。周辺整備費等を含めると計448億円。8万人分の飲食料の備蓄など、都民の利点も指摘した[166]。 民間委託
高額コストへの批判批判の声が増えてから、旧国立を保存・改修して使用し続けるべきだとの主張も相次いだ。建築家の森山高至、今川憲英、伊東豊雄、大野秀敏らは、それぞれ独自の改修案を発表した[177][178][179][180]。日本建築家協会(会長:芦原太郎[181])は2014年5月に、解体の見直しを求める要望書を文科省と東京都に提出した。 槇文彦は「私は保存という情念に問題を託すよりもまず、現在案を徹底的に批判する立場を取っている。もちろん保存改修案には不賛成ではないが、現国立競技場が解体されたら、これまでの真剣な議論が水の泡になってしまう。つまり、『もう何もない。いまさら何を言うのか』と、事業者側は言うに違いないからだ。私は更地になってからでも、いろいろな考え方があるのではないかということを強調したい」[182] と発言。その上で、独自の対案を2014年8月に発表した[183]。しかし2015年5月には旧国立競技場の解体が完了した。 政治においては、2013年には生活者ネットワークの議員も景観面から疑義を唱えていた[184])。民主党では有田芳生が2014年2月5日の予算委員会にて新国立競技場の問題点を質問し[185]、2015年6月には「公共事業再検討本部」を新設した(本部長:蓮舫)[186]。都議会では、公明党[187]や共産党[188]が2015年6月に都の負担を問題視した。 2015年5月22日には、舛添都知事が現行案での建設の中止と、機能性やコストの重視を訴えた[189]。7月9日には、大阪市長の橋下徹[190] や、日本を元気にする会の松田公太(東京大会組織委の顧問でもあるタリーズコーヒージャパン創業者)などからも批判が相次いだ[191]。次世代の党の松沢成文は7月14日、遠藤五輪相と下村文科相に、「今の(計画の)状況は危険だと(森会長に)説明してほしい」と訴えた[192][193]。同じ頃、一部の元・五輪日本代表らが見直しを求める意見をネット上などで発した[194]。6月末には、東京新聞[195]や毎日・朝日・読売の各紙が社説で、費用がかさむ現行案維持に疑問を唱えていた。 自民党の動き
計画見直し安倍首相の白紙化決断(2015年7月17日)
代替案
新デザインの選定方法
申し入れ→「§ 竣工の前倒し」も参照
基本的考え方・新整備計画の発表
8月14日、新整備計画に向けた「再検討に当たっての基本的考え方」(8項目)を、関係閣僚会議(第3回)にて決定した[58][253]。遠藤五輪相の意見交換や、8月上旬の「Yahoo!ニュース意識調査」の結果が反映された[254]。行革本部の提案「(民営化への)ビジネスコンペ」実施は先送りされた[173][174]。 (1)「アスリート第一」(2)コスト抑制と「施設の機能は原則として競技に限定」「屋根は観客席の上部のみ」「五輪・パラリンピックのメインスタジアム水準としての施設」(3)「2020年春までに確実に完成」「整備期間の圧縮のため、設計・施工を一貫して行う方式」(4)「プロセスの透明化」(5)「日本らしさに配慮」(6)「バリアフリー、安全安心、防災機能、地球環境、大会後の維持管理等の考慮」(8)「大会後は民間事業へ移行を図る」という内容。 (7)には「内閣全体で責任をもって整備を進めること」「新たに専門家による審査体制を構築すること」も書かれた。
これを元に、新整備計画を8月末に決定する予定とし、同28日、「総工費1550億円程度(本体1330+周辺整備200)」「五輪の際は6万8000席程度(陸上トラック上部への増設で8万席規模にも対応)」「面積は約19万4500m2」などが、関係閣僚会議(第4回)で決まった。基本理念には、「アスリート第一」「世界最高のユニバーサルデザイン」「周辺環境等との調和や日本らしさ」の3つが掲げられた[59][255]。 座席空調(約100億円、ザハ案にもあった[256])の導入も検討されたが[257]、休憩所や救護所などの充実(約10億円)で代替することとした[258]。理由の一つとして遠藤五輪相は、「温度も2、3度しか下がらない」とした[259]。 技術提案書(9月1日に条件が発表)の募集は11月16日まで。ザハ案と同じく山下設計・山下PMC・建設技術研究所が協力参加することも明かされた[260]。優先交渉権者は12月下旬、審査委が「140点満点」×7人=計980点の評価9項目で判断・選出する[261][262]。 →「§ A案・B案の公表→A案に決定」も参照
→「国立競技場デザインのザハ・ハディド案 § ザハ案と旧国立の比較」、および「§ 技術提案等審査委員会」も参照
上記の、合計面積の95%以上100%以下、各室面積も±5%とし、設計者側の自由裁量は認められない[264]。 しかし、A・B案ともに維持管理機能のうち「機械室・シャフト」のみは、要求に対してA案が約90.48%(21,716/24,000)、B案が約29%(6,903/24,000)となった。B案では同機能のうち「共用部」を、要求の約249%(14,024/5,640)へ広げる提案もなされた。 A案・B案の公表→A案に決定→「§ 再コンペに計2案が応募→A案に決定」も参照
→「§ A案・B案の審査結果」も参照
「優先交渉権者」がA者(A案)に決定した12月22日、JSCは応募者を明かした[275]。 同日、合同会見でA者・大成建設の山内隆司会長は、外国人労働者の登用などを示唆した[276]。 聖火台に関しては、新整備計画では求められておらず、A者・隈研吾も、開会式の演出家が決まったときにとのスタンスで臨んできた[277]。しかし、聖火用のガス配管などが2016年5月に仕上がる基本設計に影響する可能性もあり[278]、3月に検討チームを発足させ、4月中にも設置場所の大枠を決めることとなった。遠藤五輪相や馳文科相は、「サプライズ」「神秘性」「トップシークレット」という、その特性も訴えた[279]。JSCは旧国立の聖火台の再使用も検討[106]。4月28日、政府の検討チームは「フィールド」か「競技場の外」が技術的制約が少ないと評価を示した[280]。 新計画の課題バリアフリーの観点では、遠藤五輪相は10月末からのイギリス視察後、パラリンピック開催時の車いす席の割合を、最大2%に増やすよう(当初は1.2%)、公募で決まる設計会社に求める方針を示した[281]。 明治公園の「四季の庭」「霞岳広場」は、2016年1月27日に廃止。関係者以外立入禁止となった。そこに居住してきた野宿者の、支援団体の男が3月にJSC関係者への傷害と公務執行妨害の容疑で逮捕される事態も起きた[282]。 竣工の前倒し2015年7月17日の計画白紙発表後、竹田恒和JOC会長は、プレオリンピック(プレ大会)の五輪前の開催(新国立を五輪本番で利用する陸上とサッカー)を希望した[283]。立候補ファイルには2019年11 - 12月と2020年2 - 4月に「テスト大会」を記載していた[284]。 8月25日に来日したジョン・コーツIOC調整委員長(IOC副会長の一人でもある)は遠藤五輪相に、2020年1月までの完成前倒しを申し入れ、旧計画案の活用や2016年10月の着工も希望した[285]。五輪放送サービス(OBS)の場所変更が生じた場合の観客席減少などの懸念を、既に8月上旬に表明していた[286]。今回は、招致プレゼンにて各国選手ら(約1万2000人)が入場行進後に着席して観覧できることを約束した点、カメラ前の座席など(シートキル)は使えない点なども挙げた[287]。 当初の竣工予定を2020年春としたものの、8月28日の「新整備計画」では、「工期短縮目標は2020年1月末を期限」と書かれた[59]。 座席数と仕様2015年8月28日の新整備計画にて、2020年五輪の際は6万8000席程度となった。なお、「業務要求水準書」(3-4)では、実質席数は約6万席としている[263]。さらに、陸上トラック上部への増設で8万席規模にも対応との、条件も決まった。プラスチック製を想定しているが、2016年2月に木製にするよう求める決議を自民党は採択した[288]。 夏季五輪のIOC基準では、開・閉会式(と陸上競技)の開催条件(オリンピックスタジアム)は、「6万人収容」だという[258]。2015年8月にはジョン・コーツIOC調整委員長が「8万席を割っても容認するだろう」とコメントした[286]。 日本のサッカー業界からは、2018年以降のFIFAワールドカップ(W杯)の開幕戦と決勝戦の開催条件である「常設で8万人以上のスタジアム」[289] 条件を希望する声も多かった(日本には現在一つもなく、実現すれば誘致が可能となるため)[290]。また、「観客席の2/3以上に屋根が架設されること」も、同じくW杯の要求条件という情報もある[291][292]。なお、2012年コンペの条件は「8万人規模」だった[293][294]。 槇文彦は8月6日、周辺道路が狭いこと等から、8万席規模では災害やテロ予告などに対して、観客の避難誘導が難しいと危険性を指摘した[295]。W杯以外で満員にできるイベントは少ないと見られ[296]、一部を仮設席とし常設は約5万席程度に縮小すべきとの意見もあった[297]。 新コンペの「業務要求水準書」(3-4)によると、2012年五輪の開催時・その後ともに、車いす席と同伴者席を約450席ずつ置く計画(パラリンピック期間のみ増席し「実質席数」全体の1.2%以上を満たす)である。日本サッカー協会などが従来から訴えていた[298]「可能な限りピッチに近い臨場感のある観客席」との条件も明記された[263]。 木材の調達選ばれたA案には木材が多用される予定[299]。これまでの五輪会場で使用してきた木材は、第三者機関による「国際的な森林認証」を取得することが標準になっているものの、日本国内では認証された木材の流通量自体が少ないという指摘がある[300][301]。 都営霞ヶ丘アパートの立ち退き→「霞ヶ丘町 § 都営霞ヶ丘アパート」を参照
景観問題→「国立霞ヶ丘競技場陸上競技場 § 景観保護の歴史」も参照
計画見直し前からの指摘に、景観問題があった。
周辺の樹木日本学術会議によると、建設地の既存樹木は、1545本が伐採、219本が移植される予定である。しかし、ザハ案の緑化計画では、移植樹は1本のみ(天然記念物)であり、74本は人工地盤上へ移植するとし、残り144本は明示されていなかった[318]。2015年9月1日発表のJSC「業務要求水準書 参考資料」には、現存樹木と移植樹木のリストが含まれた。 同会議の「都市と自然と環境分科会」(委員長:石川幹子・中央大学教授)は2015年4月24日、周辺の人工地盤(敷地が傾斜地にあるための対応)と地下開発をやめることを求める提案を発表した。人工地盤では、樹木が根を張るには地中の深さなどが不十分で、持続的な生育は難しいという考えに基づく[319]。地面から直接植樹して森として整備し、さらに渋谷川を再生するべきという内容だ。この案では、気温や湿度などから算出する「暑さ指数」が競技場周辺で「最大4.6度」低くなるとも主張した[320][321][322][323][324][325]。 また、国立競技場がある神宮外苑は、東側に赤坂御用地、北西側に新宿御苑、南側に青山霊園が存在し、これらの広大な緑地帯やオープンスペースによって、東京都心のヒートアイランド現象を抑制する効果をもたらしている。しかし、建替によって悪影響を及ぼし、気温上昇につながるのではという指摘もある(従来より建物が高くなると周辺の風の流れが阻害されるため)[326][327]。 →「明治公園のスダジイ」も参照
過重労働工事を請け負った建設会社に勤務、現場監督の新入社員の20代の男性が2017年3月に失踪、4月に長野県で自殺した遺体が発見された(亡くなったのは3月と推定)。会社側は当初「規定内の80時間」と言っていたが調査の結果、月間の残業時間が200時間を超えており、過重労働が日常化していたとみられる。これを受け厚生労働省が実態調査を行うと表明した[328][329][330][331][332][333][334]。 見送られた設備陸上サブトラック「選手の練習用サブトラック」を仮設、すなわち五輪後に取り壊すことでは旧国立同様、規格上、陸上の国際大会などを開けない[335]。当初は隣接地での常設案があったが結局、仮設の予定とされていた[336]。2012年4月の有識者会議傘下「施設建築WG」第1回では、当時の東京都都市整備局技監・安井順一(現・都市整備局長)の「必ずしも恒久的な施設である条件ではない」との発言もあった[337]。 2015年7月の計画白紙を機に、日本陸連などが常設を改めて訴え[338]、近隣の軟式野球場・テニスコートの再整備による設営要望[339] などもあった。 しかし、8月28日の「新整備計画」では競技場の「徒歩圏内に仮設で設置」となり[59]、聖徳記念絵画館の向かいが図に示された[263]。また、競技場自体、五輪後は固定席での8万席規模への増設も想定され、完全な球技場となる可能性がある[340]。 なお旧国立の時代の場合は、通常は隣接する東京体育館付属の陸上競技場と、近接する代々木公園の敷地内にある陸上競技場を陸上用補助トラックとみなし、日本陸連第1種公認を受けていたが、前者は直線100mと周回200m×5レーンしかなく、後者は双方の施設の移動距離がかかる。そのため1964年の東京オリンピック[341]、1991年の世界陸上[342] ともに、上記とほぼ同じ神宮外苑の軟式野球場に仮設トラックを設けて対応していた。 また、陸上競技用の補助トラックの常設化が難しいため、陸上トラックを撤去したうえで球技専用スタジアムとして機能することも検討されており、その場合、当地の代替となる陸上競技場の機能を味の素スタジアム、あるいは駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場を整備して使用する案が有力視されている[343]。 開閉式屋根
2015年8月の「基本的考え方・新整備計画」にて、屋根は観客席の上部のみ(「トラック上部に観客席を増設した場合にも対応[59]」)と決定。開閉式屋根(前回コンペでは必須条件だった)は、断念となった[253]。 なお、「施設の機能は原則として競技に限定」とも決まったが、遠藤五輪相は「スポーツ競技しかやらないという意味ではない」と語った[253]。下村文科相が5月、「年間10回以上[128][335]コンサートを開ければ黒字になるというので、(開閉式)屋根を作ろうということになった」と、主用途・経緯を明確にしていた[344]。2014年にはJSCが、集客創造研究所(所長:イベント学会の牧村真史)に年間収支を依頼し[110][345]、屋根有りで約4億円(50 - 46)、屋根無しで△6億円(38 - 44)と試算された。
当初、近隣への騒音でコンサート回数が限られた旧国立からの脱却が目指されたが、曲線の多いザハ案では、ガラス繊維でなく折曲可能なC種(可燃性[346])膜材を選択。そのせいか、遮音性能は15 - 20デシベル程度(一般的なコンサートは100デシベル)に過ぎないとされた。また、C種でもポリ塩化ビニール等の場合は耐久性も不安視された[346][347]。密閉式ドーム屋根以上に、雪の重さ対策も課題となった[348]。 有識者会議では鈴木寛などが開閉式屋根を推した[26]。傘下の文化WGメンバーでは、都倉俊一座長がザハ案での残響時間を2秒程度への改善を要望し(説明会4頁[289])、残間里江子は相次ぐ首都圏施設の建替による会場不足(「2016年問題」)も後に指摘した[349]。 大和一光(旧国立の元・場長)によると、2013年頃の旧国立の年間維持費(約5億)のうち約2億が嵐のコンサートによる収入だったという[350]。商業利用の面で屋内施設の公益財団法人日本武道館と比較されることもあるが[351]、新国立を運営するJSCは独立行政法人である。 球技では、天然芝への悪影響が不安視された。実際、日本の開閉式サッカースタジアム(国外でもシンガポール・ナショナルスタジアムなど)では、芝生の育成に苦労している[352]。晴天時に屋根を開けて直射日光を取り込んでも、ドーム構造自体が、日照や風通しが悪くて水分が飛びにくい蒸れた環境であるなど、難点があるとされる。また、大型送風機での内部空気循環も、維持管理の手間が指摘された[93][353]。
スポーツ報知の取材によると、2020年の五輪後、収益や稼働率を上げる観点から、フィールドを覆う屋根の設置を検討していることが分かった。これは大会後民間委託による運営(コンセッション)を検討する過程の中で検討されており、屋根設置などはそのコンセッションにより委託される事業者の負担が有力だという。屋根を敷設することになれば、コンサートなどの開催は可能だが、騒音問題が懸念されてしまう。また密閉式の屋根にしてしまうと、技術的な問題から、天然芝の養生が困難であるため、人工芝への張替え[注 4] なども必須とされるなどの課題がある[354]。 関連組織有識者会議国立競技場将来構想有識者会議[355]。女性メンバーは皆無だった(WGには数名いた)。 計6回(2012年3月6日・7月13日[356]・11月15日、2013年11月26日、2014年5月28日、2015年7月7日)開かれ、2015年7月23日に解散した[239](メンバーだった舛添都知事自身が在り方に疑問を呈してもいた[223])。 「施設建築」「スポーツ」「文化」の下部組織3ワーキンググループ(WG)から、コンペ前に計128項目の要望が寄せられ[33]、電機メーカーなどから最先端技術の導入案も集まった[357]。なお、民主党政権下の有識者会議(第1 - 3回)資料は、ほぼ未公開だった[10]。ザハ案が決定した第3回の「議事録(要旨)」は公開されていたが、2015年8月に完全版の「発言録」を自民党行革本部が入手し開示した[298][358]。
備考
関係閣僚会議・推進室新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議。初会合は2015年7月21日。議長は遠藤五輪相で、副議長には菅官房長官と下村文科相が就任。麻生副総理兼財務相、岸田外相、太田国交相も加わった。 内閣官房「整備計画再検討推進室」が事務局として、会議の下に設置された。室長は杉田官房副長官。副室長は和泉総理補佐官、古谷副長官補[361]。国交省から官庁営繕部担当の羽山真一審議官らが加わり[362]、翌22日に長年の友人[163] である遠藤五輪相から要請を受けた舛添都知事は、都の準備局の小山哲司理事らを派遣した[363]。 検証委員会新国立競技場整備計画経緯検証委員会。6人の第三者で形成。文科省が、計画白紙までの経緯検証のために設置。事務局長は、文部科学審議官(文教担当)の前川喜平[364]。初会合は2015年8月7日[365]。
関係者へのヒアリング[224] を実施し、9月24日に報告書[366][367] を発表した。新計画への反映を踏まえ、タイトな活動となった[368]。 技術提案等審査委員会JSC内に置き、「公示前」「技術審査段階」「価格等の交渉」の3段階で意見を聴取する。初会合は2015年8月17日[369]。顔ぶれは、ザハ案の施工者選定時にもJSCに置かれた「技術審査委員会」[89] の7名と、同じかは不明[90][91]。
A案・B案の審査結果
暴力団等排除協議会2017年1月24日、新国立競技場の建設に関わる業者が協力し、下請けなどへの暴力団の参入を防ぐために設立された[373]。 用語解説
脚注注釈出典
参考文献
書籍
雑誌等
その他
関連項目
外部リンク
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