教員免許更新制教員免許更新制(きょういんめんきょこうしんせい)とは、教育職員となるための免許状を一定の期間ごとに更新しなければならないとする制度のことである。 教員資格のありようについては国によって異なっており、終身有効である国(イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ合衆国の一部など)とそうでない国(日本、アメリカ合衆国の多くの州など)がある。教員免許更新制の主な目的としては、一定期間ごとに教員が技術や知識を獲得する機会が得られる、教員としてふさわしくないものを排除出来る等、教員の質を維持出来ることである。 他方で、日本弁護士連合会などからも、教員免許更新制は、更新のための講習により「教育現場の時間的な負担が増し、子どもたちに関わる時間が減ってしまう」、「受講機会の確保や講習内容についての議論も、尽くされているとは言えない」などといった指摘もある [1][2][3]。 日本における教員免許更新制の経緯導入まで日本における教員免許更新制の議論は、1983年に自民党文教制度調査会による「教員の養成、免許等に関する提言」が始まりである[4]。同提言において、無期限であった教員免許状に有効期限を付し、更新研修を義務付けるための検討が求められている。 2000年頃からの学力低下論争や教員の質の問題が採り上げられるようになり、2003年には大阪府の高校において、数学の高校入試で3割しか得点できなかった45歳男性数学教諭(80点満点で24点。なお、高校の合格者の平均は40点)が分限免職となる事態も生じた[5]。 2007年1月24日、教育再生会議が「不適格教員の排除」等を掲げて教員免許更新制の導入を提言した[6][7]。これらを受けた議論の末、同年6月の教育職員免許法の改正によって、2009年4月から導入された。ただし、制度の目的について、中央教育審議会(中教審)での議論において「不適格教員の排除」から「教員の能力向上」に差し替えられ[7]、導入後の文部科学省は「不適格教員を排除するための制度ではない」とこの制度の目的を示している[8]。 導入後民主党は2009年のマニフェストで「教員の資質向上のため、教員免許制度を抜本的に見直す。」と謳い、導入後の総選挙で鳩山由紀夫内閣へと政権交代を果たしたものの[9]、更新制の目的は「不適格教員の排除」には向かわず「教員の能力向上」のままとなった[7]。 2010年11月、文部科学省は20府県の教育委員会から受講状況の抽出的な情報収集を行い、2010年8月末から9月の時点で対象教員の6%が講習を終了していない、または受講しておらず、日本全国に換算すると5100人を超える教員の免許更新が行われないとの見積を発表した[10]。 2013年8月8日に施行された免許状更新講習規則の一部を改正する省令により、幼稚園教諭免許状を保有している認可保育所の保育士が、免許状更新講習を受講できるよう、受講資格が拡大された[11]。 2014年、文部科学省の調査によると、2014年3月末に更新ができずに教員免許が失効したのは、全国で58人であった[12]。2014年3月末に免許更新期限を迎えた教員は9万4,118人で、新講習を修了できなかった者は332人(0.4%)で、更新講習を修了できなかった332人のうち、教員免許が失効したのは58人(0.1%)で、残りの274人(0.3%)は失効する前に自主退職をした[12]。免許失効した58人については、更新申請期日を間違えた「うっかり失効」などにより4月1日付で新たな教員免許をもらい直して勤務を続けているのが23人、校長など管理職や学校事務職員など教員免許を必要としない職で勤務しているのが21人、退職が14人となった[12]。自主退職を除くと退職者は全体の0.014%となっている[12]。 廃止2019年に文部科学大臣となった萩生田光一は、教員志願者の減少といった実態等を受け、2021年3月に中教審に対し教員免許更新制の「抜本的見直し」を諮問した[13][7]。 2021年4月~5月に文部科学省は現職教員約2100人を対象にアンケートを行った。更新講習の内容について「教育現場で役立っている」は3割に対し、「役立っていない」は4割近くに上った。理由として、5割以上が「現実と乖離があり、実践的ではない」を挙げた[7]。2021年8月に文部科学省は教員免許更新制を事実上廃止する事を決定し、廃止案を中教審の小委員会に提示した[14][15]。早ければ2023年度で廃止になる。ただし中教審の小委員会はこれを制度の「発展的解消」と位置付けていて「廃止」という表現は使わず[14]、萩生田も「制度を廃止するのではなく、より充実を目指す」と強調した[7]。文部科学省は、今後は教育委員会が教員の研修履歴を管理できるシステムを新たに導入する考えである[14][7]。 その後、2022年5月11日に「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案」が参議院本会議で可決、成立し、同法律が5月18日に公布された。2022年7月1日をもって教員免許更新制は発展的に解消された[16]。 これにより、2022年7月1日以降に新たに授与される教員免許状は有効期限のない生涯有効なものとなる。また、旧免許状所有者のうち修了確認期限時点で現職教員でない者の教員免許状(休眠状態)も何ら手続なく、有効期限のない免許状となる。 →「教育職員免許状 § 教員免許更新制(廃止)」も参照
日本において実施されていた教員免許更新制の概要
法令上の規定教員免許更新制については、2007年6月27日に公布された「教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律」(平成19年法律第96号)[1] によって、教育職員免許法(昭和24年法律第147号)を改正、施行することで実施されていた。
(以上、改正後の「教育職員免許法」の「第9条」より抜粋・補筆・解説)
(以上、改正後の「教育職員免許法」の「第9条」「附則」より抜粋・補筆・解説)
(以上、改正後の「教育職員免許法」の「第9条」より抜粋・補筆・解説)
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(以上、改正後の「教育職員免許法」の「第9条の3」より抜粋・補筆)
有効期限の無い免許状(付則では旧免許状、以下同)所持者は、施行の日から起算して11年を経過する日までの期間内でその者の生年月日及びその者の有する免許状の授与の日に応じて文部科学省令で定める年度の末日までに免許状更新講習の課程を修了しなければ、教育職員になることができない。
(以上、改正後の「教育職員免許法」の「附則」より抜粋・補筆) 日本において実施されていた教員免許更新制の問題点教員免許更新制廃止の主因は教員志願者の減少への対応や意義の変化という建前ではあるが、その背景には免許更新者への金銭的・時間的な負担、柔軟性に欠ける手続き、更新講習の排他性など、粗雑な制度設計と運用上の欠陥も多くあった。
現職の教員は事実上、更新講習が義務化されている(免許更新できなければ失職する)のに、その講習にかかる費用や時間の確保等は、受講者個人の負担となっていた。
現職教員で免許の更新を忘れていたり(うっかり失効)、勘違いなどで期限までに更新手続きが完了せず、免許が失効してしまう場合もあった。 その場合、免許が失効した教員による授業の有効性が問題となる。迷惑を被るのは無関係な児童や生徒である。
免許の更新講習は受講資格があり、免許法第9条の3第3項は、
について、更新講習を受講できることと定めている。 ところが、文部科学省令(免許状更新講習規則第9条第2項)はこの法律を排他的、かつ、具体的限定したものに定め、現に教職員である者以外で、受講資格のある(免許状更新できる)者は次の3項目のみにしてしまったのである。
この省令は、教員免許更新制のための議論が行われた中央教育審議会教員養成部会での「ペーパーティーチャーは、免許状の再取得が必要となった時点で、回復講習を受講・修了することが必要」[26]とする内容や、中央教育審議会の答申の「社会人を学校教育に積極的に活用していくことが必要」[27]などとする趣旨にも反している。
有効期間付きの免許状を授与された者であって教員経験の無い民間企業等で働く社会人が失効期限を迎えた場合、教員採用試験に合格するか、または、講師登録されなければ、更新講習を受講する資格が無かった。教員採用試験の受験や講師の登録は、教員免許状を現に有していることが条件となっており、旧教員免許は応募可能であるものの新免許状では期間切れで法的に失効した場合に応募できない可能性もあった。 講師の登録自体は採用試験合格と比較して容易な方法である[28]が、当該自治体の教員採用試験の受験可能年齢の上限を超えている場合や心身状態等によっては登録そのものができないこともある。そのため、教員経験の無い社会人が取得した免許状は、一度効力を失うと、教員になりたくとも更新講習を受講することが出来ず、免許状の効力を再び回復することができなくなる可能性もあった。
新免許状では有効期間が明記されているため、更新講習を受講しないまま期間を過ぎると失効することになっていた。そのため、失効後に免許が必要になる場合は、再度、免許の申請とともに更新講習を受講する必要があり、コストや手続きが多くなる制度だった(なお、有効期間の無い旧免許状(かつて授与されていた1級または2級の普通免許状を含む)は、更新講習未受講者は教員になる効力は失うが免許は失効しないという二重基準)。
大学等に在学中に教員採用試験に合格できず、卒業後も合格を目指している、いわゆる教員採用試験浪人者についても更新講習の受講資格がなかった。教員採用試験に合格することにより、はじめて更新講習を受講することができるようになるものの、採用試験合格後から採用日までの短い期間に自費で講習を受講しなければならない場合が多く、手続きや講習日等の期間が切迫する等、金銭的、時間的な負担が大きくなっていた。
地域によっては、民間の社会経験者を別枠(特別の選考方法)で採用したり、採用した教員を民間企業へ長期間に渡って研修に出したりするなど、多様な経歴のある教員のニーズが高いにもかかわらず、文部科学省が作成した省令では、教員や教員経験者以外の民間企業に勤める社会人等に対応する記載はない制度としてスタートしていた。
教員免許状取得時の介護体験の義務化によって、教育職員として介護やボランティア体験等の必要性が制度化されているにもかかわらず、介護、育児、ボランティア等の貴重な実践者に対応できる規定がないという矛盾があった。 介護、育児、ボランティア(青年海外協力隊等の国際貢献も含む)等に従事し社会的、国際的な責任を果たしている者でも更新講習の受講資格が無く新免許状の有効期間が過ぎると免許が失効するため、再度、免許申請が必要となりコストと時間がかかっていた(なお旧免許状では、教壇に立てなくなるが、免許状が無効となり消滅するわけではないという二重基準)。 文部科学省の見解2007年7月11日に発表された文部科学省による文書によると、この制度は概ね以下のような内容であるとされていた[29]。
議論
備考
脚注
関連項目外部リンク
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