新撰字鏡

『新撰字鏡』（しんせんじきょう）は、平安時代に編纂された字書の名。現存する漢和辞典としては最古のもの^[1]^[2]。

概要

平安時代の昌泰年間（898年～901年）に僧侶・昌住が編纂したとされる。892年（寛平4年）に3巻本が完成したとされるが、原本や写本は伝わっていない。3巻本をもとに増補した、12巻本が昌泰年間に完成したとされ、写本が現存する。12巻本には約21,000字を収録。

古い和語を多く記しており、古代日本における漢字受容を知り得る資料として、日本語学史上きわめて重要である^[2]^[3]。また、平安時代になると失われた上代特殊仮名遣のうちコの甲乙を区別していることでも知られる^[4]。

18世紀後半に村田春海によって再発見され^[5]^[6]、1803年に刊行された。和訓をつけた漢字だけを抜き出した抄録本で、部首を107に分類している^[1]^[2]。

天治元年（1124年）の写本で、唯一の完本^[2]。1856年～1858年に発見された^[3]。和訓の付いた字は3,000字以上あり、部首を160に分類している^[1]^[2]。

塙保己一の『群書類従』に収められている抄録本。

部首内の漢字は規則的に配列されてはおらず、同じ部首を持つ熟語では、二文字をひとつの項目として扱っている。読みを反切で示してから、字義を類義の漢字で説明するほか、万葉仮名で和訓を付けているものもある。

本居宣長は『玉勝間』の中で「あつめたる人のつたなかりけむほど、序の文のいと拙きにてしるく」「其字ども多くは世にめなれず、いとあやし」（巻14）と酷評しているが、著者は部首分けの上で部類立ての字類のようなものを構想していたとみられ、配列上の混乱は彼の独創性の裏返しであったと見られている^[7]。

井上亘著「古代の学問と『類聚』」、笹山晴生編『日本律令制の展開』吉川弘文館、2003年5月。ISBN 9784642023931。
阪倉篤義「辞書と分類：新撰字鏡について」『国語国文』第19巻第2号、1950年10月、46-59頁、ISSN 0910-7509。
三保忠夫「新撰字鏡小論」『島根大学教育学部紀要：人文・社会』第22巻第1号、1988年10月、13-28頁、ISSN 0287-2501。
田中康二「『仮字大意抄』成立試論」『富士フェニックス論叢』第7号、富士フェニックス短期大学、1999年3月、17-33頁、ISSN 0919-2794。
湯沢質幸「漢和辞典の誕生：「新撰字鏡」「和名類聚抄」「類聚名義抄」」『しにか』第4巻第4号、大修館書店、1993年4月、8-15頁、ISSN 0915-7247。
藤田拓海「『新撰字鏡』中の『切韻』について」『日本語の研究』第15巻第1号、日本語学会、2019年4月、18-34頁、ISSN 1349-5119。
藤田拓海「『新撰字鏡』⻖部（邑部）の解剖：『切韻』『玉篇』『玄應一切經音義』について」『訓点語と訓点資料』第144号、訓点語学会、2020年3月、170-152頁、ISSN 0454-6652。
有坂秀世「新撰字鏡に於けるコの仮名の用法」『国語と国文学』第14巻第1号、1937年1月、ISSN 0387-3110。