検察審査会
検察審査会(けんさつしんさかい)は、検察官が独占する起訴の権限(公訴権)の行使に民意を反映させ、また不当な不起訴処分を抑制するために、地方裁判所またはその支部の所在地に設置される、無作為に選出された日本国民(公職選挙法上における有権者)11人によって構成される機関。 検察審査会法(昭和23年7月12日法律第147号)に基づき設置されている。 概要全国の地方裁判所と地方裁判所支部がある場所に149か所165会設置されている。 検察審査会法第2条により「検察官の公訴を提起しない処分の当否の審査に関する事項」や「検察事務の改善に関する建議又は勧告に関する事項」を扱う機関とされている。 日本においては、事件について裁判所へ公訴を提起(起訴)する権限は、原則として検察官が独占している(起訴独占主義)。したがって、犯罪被害者等が特定の事件について、告訴を行うなど裁判がなされることを希望しても、検察官の判断により、不起訴・起訴猶予処分になり、公訴が提起されないことがある。 このような場合に、検察官の不起訴判断を不服とする者の求めに応じ、判断の妥当性を審査するのが、検察審査会の役割である。 検察官は通常、収集された証拠から有罪判決を得る見込みが高度にある場合にのみ起訴に踏み切る。一方で起訴判断権を検察のみが持つため、検察官の恣意的な判断によって、被疑者が免罪され、犯罪被害者が泣き寝入りする事態が起こりうる。検察審査会の意義のひとつとして、こうした事態を防ぐという役割を有する。 連合国最高司令官総司令部の大陪審を導入する提案に対して、日本国政府が反発する中、折衷案として誕生した。1948年(昭和23年)7月の検察審査会法によって始まった。 検察審査会の休日については、裁判所の休日に関する法律第1条の規定が準用されている(法第45条の2)。 組織検察審査会事務官
検察審査員→詳細は「検察審査員」を参照
各検察審査会の管轄地域の衆議院議員の選挙権を有する国民の中から、くじで無作為に選出される。一審査会の定数は11人。 検察審査会議検察審査会議は毎年3月、6月、9月及び12月に開かねばならない(法第21条第1項)。 検察審査会長は特に必要があると認める時は、いつでも検察審査会議を招集することができ、検察審査員及び補充員全員に対して検察審査会議の招集状を発する(法第21条第2項・法第22条)。 検察審査員及び補充員に対する招集状の送達日又は発した日から5日を経過した日と検察審査会議期日との間には少なくとも5日の猶予期間をおかなければならない。ただし、急速を要する場合は、この限りでない(検察審査会法施行令 第17条)。 検察審査員全員の出席がなければ、検察審査会議を開き議決することができない(法第25条)。検察審査会議の議事は過半数でこれを決する(法第27条)。ただし、起訴相当議決や起訴議決には8人以上の賛成を必要とする(法第39条の5・法第41条の6第1項)。 補充員は、検察審査会の許可を得て、検察審査会議を傍聴することができる(法第25条の2)。 検察審査会議は非公開であるが、議事については検察審査会事務官によって会議録を作らなければならない(法第26条・法第28条)。 審査補助員審査補助員とは検察審査会が審査を行うに当たって、法律に関する専門的な知見を補う必要がある場合に事件ごとに委嘱される弁護士のこと。 各検察審査会につき審査補助員は1人。 検察審査会議において、検察審査会長の指揮監督を受けて、法律に関する学識経験に基づき、次に掲げる職務を行う。
検察審査会の議決により起訴議決書の作成を補助しなければならない。 検察審査会の自主的な判断を妨げるような言動をしてはならない。 委嘱の必要がなくなったと認める時、又は審査補助員に引き続きその職務を行わせることが適当でないと認める時は、検察審査会の議決によって解嘱させられる。 委嘱や解嘱については検察審査会は委嘱書又は解嘱書を作成し、これを本人に交付する。 検察審査会議について職務上知りえた秘密や評議について守秘義務を負う。 起訴議決書には議決書の作成を補助した審査補助員の氏名が記載される。 流れ申立て検察審査会法第2条2項、第30条により不起訴処分に対する審査申立は、告訴人、告発人、事件についての請求をした者、犯罪被害者(被害者が死亡した場合においては、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)ができる。また審査申立人は審査している検察審査会に対し、意見書又は資料を提出することができる(法第38条の2)。 なお、「不起訴処分」が対象であるため、一罪の一部起訴(例:殺人で起訴すべきところを傷害致死で起訴した)や、略式手続による判決が出ている場合には、申立ての対象とはならない。 また、告訴・告発が受理されていない状態では、「不起訴処分」自体が発生しえず、告訴人・告発人は申立を行うことができない。 また、検察官の処分ではない家庭裁判所による少年審判における処分決定についても、申立の対象とはならない(家裁からの検察官送致後に検察官が不起訴にした場合には申立の対象となる)。 申立人は以下の事項を記載した審査申立書に署名押印しなければならない(検察審査会法施行令第18条)。
管轄検察審査会が二個以上ある場合、一の管轄検察審査会が審査の申立てを受理した時は、当該検察審査会の事務局長は、申立書について他の管轄検察審査会に通知しなければならない(検察審査会法施行令第19条)。 ただし、内乱罪や独占禁止法違反については申立てをすることができない(法第30条)。 また審査申立がなくても検察審査会で過半数による議決がある時は、自ら知り得た資料に基づき職権で不起訴処分の審査を行うことができる(法第2条3項)。 審査申立による審査の順序は、審査申立の順序による。但し、検察審査会長は申立による審査について特に緊急を要するものと認める時は順序を変更したり、職権による審査については自ら順序を定めることができる。 検察審査会は審査において不起訴とした検察官に必要な資料の提出と出席をして不起訴とした理由の説明を要求することができる(法第35条)。 また、公務所又は公私の団体に対する照会(法第36条)、審査申立人及び証人の尋問(法第37条第1項)、専門家から助言の聴取(法第38条)ができる。 証人に対する呼出状の送達と出頭との間には、急速を要する場合を除き、少なくとも24時間の猶予期間をおかなければならない(検察審査会法施行令第25条)。 証人が検察審査会の呼出に応じない時は、当該検察審査会の所在地を管轄する簡易裁判所に対して、以下の事項を記載した書面や証人が検察審査会の呼出に応じない事由があることを認めるに足りる資料を提出し、証人の召喚を請求することができる(法第37条第2項・検察審査会法施行令第26条)。
検察審査会から証人召喚の請求を受けた裁判所は召喚状を発しなければならない(法第37条第3項・刑事訴訟法第63条・刑事訴訟法第153条)。証人が正当な理由がなく召喚に応じない場合は10万円以下の過料に処する(法第43条第2項)。召喚に応じない証人に対しては、更にこれを召喚することができる(法第37条第4項・刑事訴訟法第152条)。 決議検察審査会法第39条の5により、検察審査会は、審査の後以下の3つの議決を行うことが出来るとされている。
法第27条により、不起訴処分への当否議決は過半数(6人以上)で決するとされている。更に「起訴相当」とする議決は、同第39条の5により8人以上(3分の2以上)の多数によらなければならないとされている。 2009年5月以降は「不起訴相当」とした事件については、そのまま手続が終了する。一方、「不起訴不当」と「起訴相当」の議決がなされた事件については、法第41条により、検察官は、再度捜査を行い、起訴するかどうか検討しなければならない。2009年5月以降は「不起訴不当」議決が出た事件については、第41条の8により、検察官が前回と同一理由で不起訴処分とした場合は検察審査会に再び不服申立をすることができない(2009年5月以前は「不起訴不当」とした事件で不起訴処分となった場合でも、検察審査会に再び不服申立をすることができた)。なお、検察官が前回と同一理由で不起訴処分として審査の申し立てができなくても、法第2条3項によって検察審査会自身が自ら知り得た資料に基き過半数による議決によって職権で審査を行うことはできる。 なお、法第2条2項、第30条による不起訴処分に対する審査申立が行われた場合、理由を附した審査の結果議決の議決書の謄本の送付及びその申立にかかる事件についての議決の要旨の通知を当該検察官を指揮監督する検事正及び検察官適格審査会に行う事となっている(法第40条)。 起訴議決2009年5月20日以前は、検察審査会が行った議決に拘束力はなく、審査された事件を起訴するかの判断は検察官に委ねられるため、「不起訴不当」や「起訴相当」と議決された事件であっても、結局は起訴されない場合も少なくなかった(2009年以前の数年間でも起訴される割合は2-3割[1])。しかし、司法制度改革の一環として、検察審査会法が改正されたため(刑事訴訟法等の一部を改正する法律〈平成16年法律第62号〉[2]第3条)、この起訴議決制度が、2009年5月21日から導入され、検察審査会の議決に拘束力が生じるようになった(2009年5月21日に施行)[3]。 「起訴相当」と議決した事件については、再度捜査をした検察官から、再び不起訴とした旨の通知を受けた時(3か月以内〈検察官が延長を要するとして期間を延長した場合は指定した期間〉に検察官からの対応の通知がない場合も含む)は、検察審査会は、再び審査を実施する(41条の2)。この際、専門家として弁護士を審査補助員に委嘱して、審査を行なわなければならない(41条の4)。再び「起訴相当」と判断をした場合は、検察官に検察審査会議に出席して意見を述べる機会を与えたうえで、今度は8人以上の多数で「起訴をすべき議決」(起訴議決)がされる(41条の6)。 強制起訴起訴議決された場合は、裁判所によって指定された弁護士が検察官の職務を行う指定弁護士として以下の場合を除いて公訴を提起して公判を担当することになる(41条の9、41条の10)。
検察審査会による起訴議決による強制起訴の適否について、最高裁判所は「刑事訴訟の手続で判断されるべきもので行政訴訟では争えない」とする判断を2010年11月25日に示している[4]。 審査された事件「不起訴不当」「起訴相当」議決がされた後で、起訴された事件は、2002年末までに1100件あり、中には懲役10年が下された例(札幌准看護婦殺人事件)もある。また、甲山事件のように、一度不起訴になった後、検察審査会の不起訴不当議決を受け、警察が再捜査を行い、起訴したが、最終的には無罪となった例もある。
議決後に起訴された事件で無罪となった例
「不起訴不当」または「起訴相当」議決が3回以上なされた例
起訴議決がなされた例
最高裁判所によると2024年9月3日までに検察審査会の議決によって強制的に起訴されたのは、全国で15人とされる。[7] ある刑事事件が冤罪であると暗に指摘した検察審査会の議決の例
交通事故での審査例
問題点かつて検察審査会には、起訴する強制力がないという点が問題とされていた。そこで、2009年(平成21年)5月から、検察審査会の議決に強制力を持たせる制度が導入された。
一覧
全国検察審査協会連合会全国検察審査協会連合会とは検察審査会の審査員等により結成された組織であり、それぞれの支部ごとに「検察審査協会=単協」が設立されている。同会のサイトによると「全国的な情報の収集や伝達と、統一的な広報、グッズの作成や頒布など幅広い広報・啓蒙活動」を主な役割としている。 テーマにした作品
脚注注釈出典
関連項目
外部リンク
|
Portal di Ensiklopedia Dunia