関西文化学術研究都市
![]() ![]() ![]() 関西文化学術研究都市(かんさいぶんかがくじゅつけんきゅうとし)は、大阪府、京都府、奈良県にまたがる京阪奈丘陵に位置する広域都市である。文化・学術・研究の新たな展開の拠点として1980年代から開発が進められている。愛称はけいはんな学研都市、単にけいはんなまたは学研都市とも呼ぶ。中心地区は精華・西木津地区。 以下、本項では「学研都市」と表記する。 発足と経緯建設の契機は京都大学名誉教授の奥田東が中心となった「関西学術研究都市調査懇談会」(通称・奥田懇談会)の提言によるものが大きかった。奥田は提案の理由を「ローマクラブの研究報告『成長の限界―ローマ・クラブ人類の危機レポート』を読み、その内容に深い衝撃を受けたため」と語った。 奥田懇談会に参加していた、国立民族学博物館館長(当時)の梅棹忠夫は、「学術研究都市」構想が理工学系の研究だけを重視する方向に偏ることを危惧し、文化開発の重要性を指摘した(「新京都国民文化都市構想」)。梅棹のこの提案をきっかけとして、「学術研究都市」に「文化」の語が加わり、「文化学術研究都市」と呼ばれるようになった。 国土交通省は学研都市の建設の理念を「産・官・学の連携の強化と、文化・学術・研究の国際的・学際的・業際的な交流の推進」としている。学研都市には基礎研究などの中心となる地域として、文化学術研究地区(クラスター)が設定されており、開発が進められている。文化学術研究地区以外の地域は周辺地区と呼ばれる。 1994年に「都市びらき」が行われた。この頃までに、中核として計画された施設のうち、奈良先端科学技術大学院大学、国際高等研究所、けいはんなプラザ、国際電気通信基礎技術研究所などが開設され、近畿リサーチ・コンプレックスの中心としての整備も始まった。 学研都市はバブル景気時代に建設がはじまったにもかかわらず、バブル崩壊後も計画が中止にならずに、建設が進められてきた。しかし、2003年には木津地区での宅地開発計画が中止された。学研都市で開発計画が中止に追い込まれたのは、これが初めてであった。ほかにも、大手企業が研究所を閉鎖し撤退した地区や、施設の誘致が進まず空き地が目立つ地区、研究地区から住宅地区への変更・用途地域の変更を検討している地区もある。さらに、2002年には住友金属工業が、2004年にはバイエル薬品とキヤノンが学研都市から撤退した。計画が変更されている背景には不景気・需要の低迷などがあった。さらに、企業が基礎研究から研究開発に重点を移しているなど、企業の研究に対する姿勢の変化が原因とも言われている。 しかし、学研都市での研究が成果を上げていることも事実であり、今のところ、計画の大幅な変更は発表されていない。2013年頃から景気回復と災害リスクの低さが評価されて再び企業進出が進み[2]、一部では土地利用が住宅地ゾーンから文化学術研究ゾーン等へ変更された[3]。サントリーやニデックによる研究所設置や、三菱UFJ銀行による事務センター新設が象徴的である。 当初は職住一体の街を計画していたが、実際には大阪市や京都市の都心に働きに出る人が多く、両市に対するベッドタウンでもある。2024年4月現在、総人口は25万3823人(計画人口は41万人)、文化学術研究地区の人口は10万1646人(計画人口は18.5万人)である[1]。 同じく計画的に建設された都市である筑波研究学園都市とは、特別法による国のプロジェクトであることなど性格が近しく、並べて語られることが多い。他方、開始が15年ほど遅かったこともあり、国費の投入よりも民間活力活用による順次の整備が推進され、国の機関の立地が少ないことや、複数の自治体にまたがる多核型の都市構造であることに違いが表れている[4]。 沿革
地理位置・規模
大阪府・京都府・奈良県の3府県8市町(以下参照)にまたがる京阪奈丘陵(枚方丘陵、生駒山、八幡丘陵、田辺丘陵、大野山、平城山丘陵)に位置している。相楽郡精華町は、全域が学研都市の区域に含まれている。総面積は、およそ150km2、そのうち文化学術研究地区はおよそ36km2である。計画人口は、約41万人。南田辺・狛田地区と精華・西木津地区の間には陸上自衛隊祝園分屯地がある。 2024年4月1日時点の面積、人口、文化学術研究地区(クラスター)の位置は次の通り[1]。
道路
鉄道JR片町線の愛称(学研都市線)と近鉄けいはんな線の名称は学研都市が由来である。
JR西日本の北陸新幹線の京都駅 - 新大阪駅間のルート選定にあたり、関西文化学術研究都市付近を経由する「南側ルート」が想定されている。当初は精華・西木津地区に新駅を設置して、奈良県生駒市を経て新大阪へ至るルートであったが、国土交通省の試算結果では費用対効果が得られず、奈良県からは「負担するメリットがない」として反対された[9]ことを踏まえて再検討され、奈良県を通らず京田辺市を通過し、松井山手駅付近に新駅を設置する案が与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームの案として採用されている[10]。 また、奈良市は近傍を通過するJR東海のリニア中央新幹線の新駅設置場所についての考えを尋ねる県のアンケートに「奈良市北部の関西文化学術研究都市が妥当と思われる」と回答している。 バス
関西文化学術研究都市建設促進法→詳細は「関西文化学術研究都市建設促進法」を参照
1987年6月9日に公布・施行。要点を以下に記した。
文化学術研究地区学研都市には、12の文化学術研究地区が設定されている。そのうち、普賢寺地区(京都府京田辺市付近)と北田原地区(奈良県生駒市付近)の整備は未着手だが、北田原地域は学研生駒テクノエリアの名で民間による開発が進んでいる[18]。 文化学術研究地区内は各府県の建設計画により、文化学術研究ゾーン、住宅地ゾーン、公園・緑地ゾーン及びセンターゾーンに土地利用の区分がなされている。 立地施設(大学・大学院、研究機関、交流施設、宿泊研修施設)の総数は、2024年4月現在で157施設、施設の就業者数は11,928人である[19]。 氷室・津田地区![]() 大阪府枚方市に位置し、面積は74ha。氷室地区と津田地区の2区画に分かれている。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は3,043人[1]。津田地区の文化学術研究ゾーンを津田サイエンスヒルズと呼び、丘の斜面を整備した空見の丘公園があるほか、第二京阪道路の枚方学研インターチェンジがある。
清滝・室池地区![]() 大阪府四條畷市に位置し、面積は340ha。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は129人[1]。国道163号が通る。最寄り駅は忍ケ丘駅および四条畷駅。
田原地区![]() →「田原台」も参照
大阪府四條畷市に位置し、面積は127ha。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は6,880人[1]。国道163号が通る。
田辺地区![]() 京都府京田辺市に位置し、面積は100ha。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は57人[1]。最寄駅は同志社前駅。
南田辺・狛田地区![]() 京都府京田辺市、精華町にまたがって位置し、面積は344ha。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は5,291人[1]。京奈和自動車道の精華下狛インターチェンジがある。精華・西木津地区の建設に目処がついたことから、北部(南田辺東地区)に位置する同志社山手の開発を肇めに田辺西IC - 精華下狛IC間へのインターチェンジの検討など、計画や開発が進められている[3]。南田辺西地区においてはフードテックを主とした研究開発、生産拠点としての開発が決定し、2027年度以降施設の立地が順次開始する見込みである[20]。
精華・西木津地区![]() →詳細は「関西文化学術研究都市精華・西木津地区」を参照
京都府精華町、木津川市にまたがって位置し、面積は506ha。学研都市全体の中心となる地区と位置づけられている。1988年6月から入居を開始した木津川台住宅地は学研都市で最初の民間開発のニュータウンである。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は20,213人[1]。最寄駅はJR祝園駅・近鉄新祝園駅。京奈和自動車道の精華学研インターチェンジがある。
木津地区![]() 京都府木津川市に位置し、面積は737 ha。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は、南地区14,672人、中央地区10,296人、合計24,968人[8]。最寄駅は大和路線木津駅。京奈和自動車道の木津インターチェンジがあり、国道163号が通る。
平城・相楽地区![]() →「平城・相楽ニュータウン」も参照
京都府精華町、木津川市、奈良県奈良市にまたがって位置し、面積は626 ha。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は、京都府域16,892人、奈良県域23,161人、合計40,053人[8]。最寄駅は近鉄高の原駅。京奈和自動車道・国道24号・国道163号に面し、山田川インターチェンジと木津インターチェンジがある。
過去の施設 高山地区![]() 奈良県生駒市に位置し、面積は約333ha。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は550人[1]。最寄駅は近鉄学研北生駒駅で、地区は国道163号に面する。現在まで高山第一工区の開発が進行してきたが、その北部及び西部に広がる高山第二工区(約288ha)について事業化が検討・推進が活発化している。[31]
平城宮跡地区![]() 奈良県奈良市に位置し、面積は142 ha。2024年4月1日時点の住民基本台帳人口は462人[1]。最寄駅は近鉄大和西大寺駅。
関西文化学術研究都市推進機構→詳細は「関西文化学術研究都市推進機構」を参照
1986年6月に設立された内閣総理大臣所管の公益財団法人。都市建設及び運営、新産業の創出と産業振興を活動の2本柱とする。 国、自治体、経済界の連携・支援の下、けいはんなプラザ内に本部を持ち、環境エネルギー産業はじめ、学研都市発の新産業の創出と振興を目指し、公的資金等を活用した様々な新産業創出プロジェクトを実施している公的機関である。常務理事・事務局長は河内智明(UR)。また、公益社団法人関西経済連合会内(大阪市北区)に大阪オフィスを設置している。大阪オフィスは、関西経済連合会が1996年に設立した新事業支援機関であるアイ・アイ・エス(新事業創出機構)を母体とするものである。 2009年7月に、産官学で設置された「けいはんな新産業創出・交流センター」を統合、一層の機能強化が図られた。2012年4月に公益財団法人へ移行した。 問題点
同じ研究都市である筑波研究学園都市が茨城県つくば市1市のみに位置しているのに対して、学研都市は3府県8市町にもまたがっており、12の文化学術研究地区や周辺地区をぶどうの房のように分散配置(「クラスター型」)しているため、全体を統括することが難しくなっている。特に、各地区をつなぐ道路網は未完成である。また、それらの全体をつなぐ公共交通機関がない。 既存の鉄道駅から離れている地区も多い。たとえば、都市全体の中心である精華・西木津地区に公共交通機関で行こうとすると、近鉄京都線新祝園駅、JR学研都市線祝園駅または、近鉄けいはんな線学研奈良登美ヶ丘駅でバスに乗り換える必要がある。 計画当初に危惧されていた通り、立地する研究機関は理工系のものが多く、文化系の機関はまだまだ数が少ない。国立国会図書館関西館や私のしごと館があるが、後者は行政改革のあおりを受けて赤字が問題視され、2010年には廃止された。 梅棹忠夫の「新京都国民文化都市構想」での提案を受けて京都府が推進しようとした国立総合芸術センターは、世界最大の芸術博物館、芸術劇場、芸術研究所、芸術文化大学校などからなる巨大複合文化施設であるが、現在のところでは実現の目途はたっていない。 脚注
関連項目外部リンク
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