はたかぜ型護衛艦
はたかぜ型護衛艦(はたかぜがたごえいかん、英語: Hatakaze-class destroyer)は、海上自衛隊の護衛艦の艦級[3][注 1]。2021年現在、同型2隻とも練習艦に種別変更されたことにより、はたかぜ型練習艦となっている。たちかぜ型(46DDG)に続く第三世代ミサイル護衛艦(DDG)として、五三・五六中業中の昭和56・58年度計画で計2隻が建造された[3]。ネームシップの建造費は620億円とされる[4][注 3]。 来歴海上自衛隊は、第1次防衛力整備計画期間中の「あまつかぜ」(35DDG)によってミサイル護衛艦(DDG)の整備に着手した。そしてたちかぜ型(46/48/53DDG)3隻の整備によって、五三中業の時点で、8艦8機体制下の護衛艦隊に必要な8隻のミサイル護衛艦のうち半分が充足することとなった[2]。 これらの艦は、いずれもアメリカ海軍のチャールズ・F・アダムズ級ミサイル駆逐艦に準じて、艦後部にターター・システムを搭載する設計を採用していたことから、ミサイルの射界はおおむね後方に限られた。これは適宜回頭・変針することによって補うことはできるが、戦術行動の自由度という観点からは、前方にターター・システムを装備した艦を従来艦とペアで配備するほうが望ましいことは明らかであった。また、たちかぜ型3番艦の「さわかぜ」(53DDG)は、護衛艦へのガスタービンエンジン導入開始後に建造されたものの、この規模の艦に適した規模のガスタービンエンジンが入手できなかったことから、従来通りの蒸気タービン艦として建造されていた[2]。 53中業の当初計画では、各護衛隊群の8艦8機体制化のため、DDG 4隻の建造が検討されており、これらは船体前部にターター・システムを装備するとともに主機をガスタービン化した新型艦とすることになった。これが本型である。ただしDDG用ガスタービン主機の導入可能性の見極めや経費枠による整備隻数の問題から、53中業中での建造数は1隻に削減され、残り3隻は56中業に先送りされることになった。その後、56中業での計画数は2隻に削減されたうえに、昭和60年度で予定されていた3番艦の建造は中止され[3]、DDに振り替えられた。これは、この時点でイージスシステムの対日リリースの公算が高まったことから、あえて8艦8機体制に必要なDDGの所要数を完全には充足させず、将来のイージス艦のための建造余席を確保するための措置であった[6][注 4]。 設計基本計画番号はF112とされた[7]。 船体![]() 設計面では本型にやや遅れて計画が進められていたあさぎり型(58DD)との共通点が多くなっており、船型も全通上甲板を有する長船首楼型とされている。また顕著なナックルを有するのも同様である。ただし長さ/幅比(L/B比)は9.1と、はるな型(43/45DDH)に近い幅広の船型とされた(たちかぜ型は10、あさぎり型は9.4)。これはガスタービン主機の採用によって機関部重量が減少し、一方でCIWSやSSMなど搭載装備が増加したことによる重心上昇に対して、復原性を確保するための措置であった。またシアは少ないものとされている一方で、護衛艦としては珍しくブルワークを設けている。これは艦首甲板のミサイル発射機を用いてミサイルの搭載・陸揚作業を行うための甲板平坦部を確保するとともに、凌波性も確保するための措置であった[2]。 8艦8機体制下として初めて計画されたミサイル護衛艦として、艦尾甲板を飛行甲板(ヘリコプター甲板)として設定している。ただしハンガーを設置しないため固有の艦載機はもたないほか、通常の状態では所要の甲板長を確保できないことから、発着の際には52番砲の砲身を90度横に向けることで対処している。また発着の安全性向上の為、ミサイル護衛艦として初めてフィンスタビライザーが装備された[2]。 なお2番艦「しまかぜ」では同年度の「あさぎり」(58DD)と同様、大きな把駐力を期待できる新型のAC-14型の錨を採用している[2]。 艦橋上の露天甲板が第03甲板、艦橋が第02甲板となっている。錨甲板〜後部ヘリ甲板に至る甲板が第1甲板、船体内1層目となる第2甲板に操縦室や食堂、調理室が配置される。乗員区画は船体に分散配置され、士官用は2段ベッド、下士官用は3段ベッドとなっている。調理室と科員食堂は煙突のやや後方の船体中央部に配置される。調理室には4基の蒸気釜が設置されている。科員食堂は艦内配置の制約のためL字型をしており、一度に60名程度が食事できる。艦中央部にある機関操縦室兼応急指揮所では、艦橋の指示に従い4基のガスタービン主機と4基の発電機の操作が行われる。はたかぜ型では艦橋から直接主機を操作することはできない。 機関主機関としてはミサイル護衛艦としては初めてガスタービンエンジンを採用している。あさぎり型(58DD)で大出力のロールス・ロイス スペイが搭載予定となったことを受けて、このスペイSM1Aと、はつゆき型(52DD)の高速機であるロールス・ロイス オリンパスTM3BをCOGAG方式に配することで、1軸あたり36,000馬力を確保している。このような異機種ガスタービンの組み合わせによるCOGAG構成は、西側諸国では類を見ないものであった。ただし入手可能な主機関の出力と船体寸法を考慮して、最大速力は部隊運用上の許容最低値である30ノットと妥協された(たちかぜ型は32ノット)[2]。 船体寸法の制約上たちかぜ型を含む蒸気タービン艦のように機関部をシフト配置とすることができず、はつゆき型と同様のパラレル配置とされている。なお本型は推進装置の水中放射雑音の低減対策を総合的に実施した初の護衛艦であり、しらね型(50/52DDH)で導入されたハル・マスカーおよびプレリーに加えて、主機・補機や減速機の防振支持化や主要配管の防振対策、防振材の大量使用や防振継手の採用など多岐にわたる措置が徹底された[2]。 電源としては、ガスタービン駆動およびディーゼル駆動の主発電機を各2基(出力はいずれも1,200キロワット)を第1・3機械室にそれぞれ配置するとともに、ディーゼル非常発電機(300キロワット)を第3甲板の船体前後に分散配置している[2]。ガスタービン主発電機の原動機は川崎重工業M1A-05ガスタービンエンジンであるが、これは第1世代護衛艦などで搭載されたM1A-02の強化版であった[8]。 装備本型の武器システムは、基本的に「さわかぜ」(53DDG)のものを踏襲している。特にSAM・CICシステムはアメリカ海軍のカリフォルニア級原子力ミサイル巡洋艦の半分の能力を備えており、イージス以前の在来型ミサイル駆逐艦としては頂点に立つものとされていた[2]。 C4ISR戦闘システムの中核となる戦術情報処理装置は、「さわかぜ」のOYQ-4に改善を加えたOYQ-4-1である。電子計算機としてはAN/UYK-7 2基、TDSコンソールとしては、大型のOJ-197/UYA-4 1基および標準のOJ-194B/UYA-4 9基が配されており、ターター艦としては極めて充実したものとなっている。このために戦闘指揮所(CIC)や関連機器室、空調設備はたちかぜ型と比して大幅に拡張する必要があったが、はつゆき型以来標準となったCIC船体内配置化によって、十分な容積を確保した[2]。 3次元レーダーは「さわかぜ」と同型のAN/SPS-52Cとされた。「たちかぜ」(46DDG)の建造当初に搭載されていたOYQ-1とAN/SPS-52Bレーダーの組み合わせでは、目標情報は手動入力、追尾も半自動式であったのに対し、本型のシステムでは自動探知・自動追尾が可能となったため、システムとしての対空目標追尾能力は著しく向上している[2]。 対空捜索レーダーはOPS-11Cを後檣頂部に、対水上捜索レーダーはOPS-28を前檣頂部に装備した。OPS-11は、当初計画では前檣のもっと高い位置に配されていたが、ガスタービンの排気の影響を避けるために後檣を新設してここに移動したものである。また電子戦システムとしては、NOLQ-1電波探知妨害装置(ESM/ECM)およびOLR-9Bミサイル警報装置が装備された。これらはいずれも「さわかぜ」と同様であった[2]。
ソナーについても「さわかぜ」と同様で、OQS-4(I)をバウ・ドームに収容して装備している[2]。 武器システム→「たちかぜ型護衛艦 § 武器システム」も参照
本型の主要な武器システムとなるのはターターD・システムである。そのサブシステムはいずれも「さわかぜ」(53DDG)と同型で[2]、Mk.74 mod.13ミサイル射撃指揮装置(GMFCS)、Mk.13 mod.4 ミサイル発射機(GMLS)、RIM-66B/E スタンダードMR(SM-1MR)艦隊防空ミサイル(SAM)から構成される[9]。上記のとおり、本型では艦の前方象限での交戦能力が求められたことから、GMLSは艦首甲板に、また2基のGMFCSも前部上構上に配されている[2]。就役後、SM-2MRの運用能力付与、またアメリカ海軍がターターD搭載艦に対して行ったNTU改修に準じた近代化改修も検討されたものの、イージスシステム搭載ミサイル護衛艦導入を優先する観点から、これは見送られている[2]。 なお、「さわかぜ」ではMk.13 GMLSを用いてハープーン艦対艦ミサイルの運用を行っていたが、その分だけSM-1MRに充当される弾庫容量が奪われることから、本型では、あさぎり型(58DD)と同様に、ハープーン専用の4連装発射筒2基を煙突後部両舷の01甲板上に対向装備として、Mk.13 mod.4 GMLSはSM-1MR専用としている[2]。 主砲としては73式54口径5インチ単装速射砲を前部甲板室上と後甲板上に1基ずつ搭載、砲射撃指揮装置(GFCS)としては艦橋構造物上に81式射撃指揮装置2型22(FCS-2-22)を搭載した。また近接防空用として、高性能20mm機関砲(CIWS)2基が後部上構両舷に装備されている[2]。 前部砲塔直後にアスロック対潜ミサイル用の74式アスロック・ランチャーを搭載するのはたちかぜ型(46DDG)と同様だが、はつゆき型(52DD)以来採用された弾庫からの直接装填方式が踏襲されたことから、ランチャーの装備位置は艦橋構造物寄りとなり、また同構造物前面は傾斜して装填用の扉が設置されたものとなった。また324mm3連装短魚雷発射管も、従来通り装備されており、装備位置はSSM直下の上甲板上両舷である。水中攻撃指揮装置は「さわかぜ」やはつゆき型、あさぎり型と同じくSFCS-6である[2]。
新旧ミサイル護衛艦の比較
同型艦一覧表
運用史上記の通り一時は近代化改修の計画があったものの実現せず、就役後は大きな変化なく活動を続けている。平成24年、25年、27年、28年度予算で延べ4隻分の艦齢延伸のための先行的部品調達予算が、平成26年度予算で1隻分、平成29年度予算で1隻分の改修予算が計上された。艦齢延伸措置を行い、運用期間をこれまでより10年程度延伸する[11][12]。 その後、まや型(27DDG)の就役によりはたかぜ型2隻は練習艦に種別変更されることとなり[13]、「はたかぜ」は2020年3月に、「しまかぜ」は2021年3月に練習艦へ種別変更された。 2022年12月に公表された防衛力整備計画で、2027年度までに数隻(1~2隻[注 9])を除籍することが発表され[14]、2025年3月17日、1番艦「はたかぜ」が除籍された[10]。 登場作品映画・テレビドラマ
アニメ・漫画
小説
ゲーム
脚注注釈
出典
参考文献
関連項目
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