わたしを離さないで
『わたしを離さないで』(わたしをはなさないで、原題:Never Let Me Go)は、2005年発表のカズオ・イシグロによる長編小説で、同年のブッカー賞最終候補作。 日本語版は2006年4月に、土屋政雄の翻訳で早川書房から単行本が刊行され、2008年8月にハヤカワ文庫版が発刊された。 2010年にマーク・ロマネク監督、キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイ主演により映画化された。 日本では2014年に蜷川幸雄演出、多部未華子主演により舞台化され、2016年にはTBSテレビでテレビドラマ化された[1]。 2017年、イシグロのノーベル文学賞受賞にともなって本作の注目度も高まり、日本でも注文が殺到して増版された[2]。また、CS放送のTBSチャンネルとTBSは、前述のテレビドラマ版を再放送することを急遽決定した[3][4]。 あらすじ1990年代末のイギリスで提供者達の世話をする31歳の介護人であるキャシーは、提供者達の世話をしつつ自分の育ったヘールシャムにある施設で暮らした奇妙な少女時代や卒業後を回想し、自分達の秘密を紐解いていく。 第一部(1章から9章)そこは外界から隔絶された全寮制の学校で、主任保護官のエミリ先生を中心に保護官達が授業をし生徒たちの生活を監視・監督する。特に図画工作や詩などを作る創作活動が重視され、健康診断が毎週実施されていた。優れた作品は定期的に施設を訪れるマダムが収集した。それらの作品は外部の展示館に飾られると噂されていた。残りの作品は交換会に出品し、出品に応じてもらえる交換切符で他の生徒の作品を得る事ができた。外部の商品を得る販売会以外で持ち物を増やせる唯一の機会だったため、生徒達は交換会に熱中した。 12、3歳の頃、キャシーは癇癪持ちでいじめられっ子のトミーと親しくなった。トミーは絵がかなり下手だが、年少組の頃、優しくて人気者だった保護官のジェラルディン先生に絵を褒められて他の生徒達から反感を買った事からいじめられるようになった。しかし、絵を描きたくなければ描かなくてよいとルーシー先生に言われて落ち着く。ルーシー先生の考えが他の保護官達と違ったため、トミーとキャシーはヘールシャムには何か秘密があると感じ、以後情報を交換しあうようになる。 キャシーは、年少組の頃からの親友で見栄っ張りのルースとは喧嘩を繰り返しつつも、惹かれていく。 キャシーは「ベイビー、わたしを離さないで」という歌詞が入ったジュディ・ブリッジウォーターの『夜に聞く歌』のカセットテープが好きで、赤ちゃんを授かった母親の歌と思い込んで繰り返し聞いていた。ある日、聞きながら踊っているところを、マダムに覗かれてしまったが、マダムは泣いていた。 ほどなくしてテープが無くなってしまったが、代わりにとルースが『ダンス二十選』のテープをくれた。 15歳、ヘールシャム最後の年、ルーシー先生が我慢できずに生徒達にヘールシャムの「真実」を語り出した。生徒達は臓器提供のために造られ、中年にすらなれないかもしれない将来が決まっているので、それを自覚して夢など持たずしっかり生きるようにと、ルーシー先生は諭した。程なくしてルーシー先生はトミーを呼び、昔の自分の発言を否定しトミーに絵を描くように勧めた。トミーは再び不安定になり、付き合っていたルースとも破局した。キャシーはルースの後釜になると目されていたが、当のルースからトミーとの和解の手助けを求められて承諾、トミーの相談に乗って撚りを戻させた。ルーシー先生は保護官を辞めた。 第二部(10章から17章)16歳になった生徒たちはヘールシャムを巣立ち、いくつかの場所に移される。キャシー、ルース、トミーら8人は廃業した農場を利用したコテージに行く。そこでは他の施設出身者たちとともに過ごし、最長2年間かけて論文を書くが、途中でコテージを出て介護人になる訓練に行く事もできる。年老いたケファーズさんが物資を届けたりしてくれるだけで、保護官はいない環境で集団生活を行う。それぞれカップルになったり、セックスをしたり、街に出かけたりできる割と自由な環境だった。その中でヘールシャムの卒業生は特別視されていた。 提供者として造られた彼らは人工的なクローン人間であり子供も作れない。それぞれのオリジナルを「ポシブル」と呼んでいる。自分のポシブルがどんな人物であるかを彼らが知ることはめったにない。コテージの先輩カップルのクリシーとロドニーからルースのポシブルの目撃情報を得た3人はノーフォークへ向かう。ノーフォークのとある事務所で働いているその人物は遠目にはルースの面影が感じられた。しかし、尾行してより近い距離から観察してみると明らかに別人だと分かり、落胆する。そもそも先輩達の目的は他にあり、ヘールシャム出身者は本当に愛し合っていれば提供を3年間猶予してもらえるという噂の真相を3人から探り、自分達もそうなりたいという事だった。ルースはいつものように知ったかぶって話を合わせたが、トミーは合わせなかったためルースの怒りを買った。ポシブルが勘違いだった事も手伝ってルースの怒りは収まらず、別行動をとることになり、トミーはキャシーと中古店を回り、かつてキャシーが無くしたカセットテープを買った。 トミーは提供の猶予があるとしたら、マダムの展示館行きになった作品を参考に内面を知り、カップルが本当に愛し合っているか判定しているのではないかと考えた。そして作品制作をさぼっていた自分を悔やみ、新たに想像上の動物の絵を描き続けた。 コテージに帰ってから、キャシーとトミーにあったことをルースが知る所となり、ルースの誘導によってキャシーとトミーは仲違いをした。キャシーは解決しようとしたが却ってルースとの仲も悪くなった。その後、キャシーは論文を未完成のままコテージを卒業し介護人の訓練に行く事にした。 第三部(18章から23章)キャシーがコテージを出て 7年が経った。ヘールシャムは閉鎖されていた。キャシーがコテージを出た後、ルースの性格はさらに酷くなり周りとうまくいかなくなり、トミーとも気持ちが離れた。ルースもしばらく介護人をしていたが、最初の提供を終えて2か月、キャシーが介護人としてつくことになった。湿地で船が座礁したというニュースが流れ、その近くにトミーのいる回復センターがある事から、2人は船の見物ついでにトミーに会いに行った。トミーは2回目の提供を終えた後だった。船を見物した帰り、ルースは2人に懺悔した。本当はカップルになるのはトミーとキャシーだった筈なのを分かってて自分が邪魔し続けた。許されることではないけど、マダムの住所を入手したので提供を猶予してもらい、2人の時間を取り戻して欲しいとルースは願った。ルースは2回目の提供後に死に、1年後、トミーが3回目の提供を終えてからキャシーはトミーの介護人になった。 2人はセックスをするようになり、トミーの描き続けた絵を持って、マダムに提供の猶予を頼みに行った。マダムと一緒に暮らしていたエミリ先生が説明をした。もともとエミリ先生とマダムは、クローン人間にも心があり、ちゃんと教育を受けさせれば普通の人間と同じに育つ事を示そうとヘールシャムの施設を作り、子供達の作品を集めて展示会を開き、寄付を集める運動をしていた。しかしモーニングデールという科学者が、能力を強化したクローン人間を作る違法な研究をしていたことが発覚した。無関係な事件であるものの、クローン人間に対する世間の嫌悪を煽る事になり、運動への支援も無くなってヘールシャムも閉鎖に追い込まれた。昔から提供の猶予などは噂でしかなく、保護官にそんな力は無かった。ルーシー先生は、生徒達に将来を正直に教えるべきだと主張したが、エミリ先生達は生徒達に嘘を吐いてでも希望を持たせ、一生懸命に生きる事を教えようとした。そのためルーシー先生は退職した。マダムは昔キャシーがカセットテープを聞きながら踊っていたのも覚えていて、残酷な世界に生きる少女に胸を打たれた事を告白した。 周りから大袈裟に賞賛されるほど危険な 4回目の臓器提供を迎えるに当たって死を覚悟したトミーは、醜態を見せたくないからと介護人を変える事にし、キャシーはトミーの元から去った。 評価抑制された文体で人間と社会の新たな関係を描き出した本作は、英文学者の柴田元幸がイシグロの最高傑作と激賞する一方[5]、作家の佐藤亜紀はあまりにエモーショナルな情動を追いすぎていると酷評し、2006年のワースト作品であると公言した[6]。 2017年度ノーベル文学賞がイシグロに送られた際には、その受賞理由である「世界と繋がっているという我々の幻想に隠された深淵を偉大な感情力で明るみにした一連の小説」を体現する代表作として本作を紹介する解説者が多くいた[要出典]。 豊崎由美は書評で「切ない恋愛小説」「残酷なビルドゥングスロマン」と評価した[7]。 イシグロは『わたしを離さないで』は平行世界のイギリスを舞台にしているにもかかわらず、2015年までの自身の作品のうちでもっとも「日本的」な小説だと考えており、それまでに接してきた日本の映画や書籍の影響が登場人物のふるまいなどに反映されているという[8]。 日本語訳書
映画キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイ主演、マーク・ロマネク監督で映画化され、2010年に公開された。イシグロ自身も製作総指揮として名を連ねている[9]。 →詳細は「わたしを離さないで (映画)」を参照
舞台ホリプロの企画制作により2014年に舞台化され、彩の国さいたま芸術劇場、愛知県芸術劇場とシアター・ドラマシティで上演された。演出は蜷川幸雄、脚本は倉持裕[10][11]。 キャスト(舞台)スタッフ(舞台)上演日程
テレビドラマ
2016年1月15日から3月18日まで、TBSテレビ系「金曜ドラマ」枠にてテレビドラマ化された。主演は綾瀬はるか[1]。脚本は森下佳子。 キャッチコピーは「運命に挑むには、愛するしかなかった。」。 原作のイギリスから、舞台を日本に移して翻案。主人公は「恭子」、ヘールシャムは「陽光学苑」などに置き換えている[13]。物語は恭子が過去に遡って語るモノローグ(=信頼できない語り手)によって進行し、第1話 - 第3話を「第1章:陽光学苑編」、第4話 - 第6話を「第2章:コテージ編」、第7話以降を「最終章:希望編」としている。 鈴木梨央は2013年のNHK大河ドラマ『八重の桜』に続き、綾瀬演じる主人公の幼少期を演じる[14]。 ドラマに先駆け、綾瀬はイギリスにて原作者のイシグロと4時間以上にわたる対談に臨んだ[15][16]。 キャスト(テレビドラマ)主要人物
恭子の元クラスメイト
陽光学苑 教職員
コテージ ブラウン
その他
ゲスト第5話
第8話
第9話
最終話
スタッフ(テレビドラマ)
放送日程
脚注
外部リンク
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