ヘルメースまたはメルクリウスは「科学・弁舌などの神」[5]、「神々の使者」[5]、「商業・盗賊・雄弁・科学の神」などとされており[6]、また彼が司るものは「学術」・「発明」・「体育」・「旅人」・「羊の群れ」・「死者の魂」などであるという[17]。アスクレーピオスの杖に比べてカードゥーケウス(ヘルメースの杖)は「より商業的な紋章」(”the more mercantile coat of arms”)だとされるが、この二つの杖は何世紀にもわたって混同されてきた[18]。また紀元前3世紀~後3世紀頃の『アスクレーピオス』は、ヘルメースの教えという形式で書かれている[19]。
比較神話学者ジョーゼフ・キャンベルの学術書によると、ヘルメースが複数の神々と同一視されるようになったきっかけはヘレニズム時代(およそ紀元前323年~紀元前31年頃)であり、ヘルメースは「至高の者」(トリスメギストス)、つまりヘルメース・トリスメギストスと見なされるようになった[7]。それ以来ヘルメースはあらゆる学芸の庇護者にして教師であり、古代的な通過儀礼の支配者であり、「聖なる救済者の化身」("the incarnations of divine saviors")でもあると信じられるようになった[7]。ヘルメースは両性具有の神・超性や親子神(母子神)とも関連付けられており[20]、例えば『ギリシア詞華集(Anthologia Graeca ad Fidem Codices)』II巻では以下の記述がある[21]。
("there are very definite connections between medicine and (Hermes)-Thoth, who later became known as Hermes Trismegistus".)[8]
百科事典によると、ヘルメース・トリスメギストスは全ての学芸・技術・魔術・秘教などの始祖とされる神であり、その実在と教えはキリスト教教父からも信じられていた[22]。中世ヨーロッパでは、哲学的なヘルメース主義(ヘルメース思想)が医学的伝統・錬金術・占星術などと合わさり、普及していった[23]。ヘルメース文書の中には、ギリシアの医神の名を題名とした著作『アスクレピオス』があり、「とくに『アスクレピオス』のラテン語訳はヨーロッパ中世を通じて影響を残した」[19]。15世紀では、ヘルメース主義の影響が医者たちにも大きく及んでいた(パラケルススやJ.B.vanヘルモントなどの医化学派)[24]。医学史学者ジョール・R・シャッケルフォードの学術書によると17世紀初期でも、「パラケルスス視点」("the Paracelsian point of view")が医学生たちから「ヘルメース医学」("Hermetic medicine")と時々呼ばれていた[25][注 5]。
^ラテン語 cādūceusは、使者・伝令使・使節を意味する(κῆρυξ, ケーリュクス)に由来する、伝令使の杖(棒)を意味するギリシア語(κηρύκειον, ケーリュケイオン)のラテン語版である。Liddell and Scott, Greek-English Lexicon; Stuart L. Tyson, "The Caduceus", The Scientific Monthly, 34.6, (1932:492–98) p. 493
^例えばユニコード規格では「ヘルメスの杖」は「商業用語または商業」を示す。Walter J. Friedlander, The Golden Wand of Medicine: A History of the Caduceus Symbol in Medicine, Greenwood, 1992, p.83 も参照。
^ある専門的なシンボリズム研究はこう記している。「メルクリウスは商業の神であるため、現代においてカドゥケウスは商業のシンボルを表している。」 M. Oldfield Howey, The Encircled Serpent: A Study of Serpent Symbolism in All Countries And Ages, New York, 1955, p.77
^「メルクリウスという神の名が、商品を意味する merx と関係があることは否めない。そのように古代人は感じていた。」 Yves Bonnefoy (Ed.), Wendy Doniger (Trans.), Roman and European Mythologies, University of Chicago Press, 1992, p. 135; 「メルクリウスはギリシアの神ヘルメースのローマにおける名であった。そのラテン名は merx または mercator (すなわち商人)に由来していたようである。」 Michael E. Bakich, The Cambridge Planetary Handbook, Cambridge University Press, 2000, p.85.
セヴェリヌスの本は、17世紀初頭のとある医学生たちの世代によって読まれ、使用された。医学生たちは、ある違いを理解しようとしていた。その違いとは、彼らがヘルメース医学と時々呼んでいたパラケルスス視点と、大学で教えられていたガレヌス的・逍遙学派的医学との間の違いだった。
(原文:"Severinus' book was read and used by a generation of medical students in the early seventeenth century who sought to understand the differences between the Paracelsian point of view, which they sometimes called Hermetic medicine, and the Galenie-Peripatetic medicine that was taught in the universities". )[25]
Myklebost, S. A. (2018). “Early Modern visual-verbal esoteric imagery and the theatre: Julius Caesar 1.3.”. Nordic Journal of English Studies (NAES (Nordic Association for English Studies)) 17 (1): 3-25. doi:10.35360/njes.421.
Shackelford, Jole (2004). A Philosophical Path for Paracelsian Medicine: The Ideas, Intellectual Context, and Influence of Petrus Severinus (1540-1602). Museum Tusculanum Press. ISBN9788772898179