ウーズル効果の注目すべき例の一つは、1980年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン (NEJM) に掲載された、ジェーン・ポーターとハーシェル・ジックによるレター・トゥ・ジ・エディター(英語版)である「Addiction Rare in Patients Treated with Narcotics (麻薬による治療を受けた患者の中毒症は稀) 」の引用に見ることができる。わずか5文の査読されていないと考えられる[19]、そのレターは、入院患者の鎮痛剤の使用に関する医療記録の分析結果から「病院において、麻薬は広く使用されるにもかかわらず、依存症の既往歴のない患者の依存症発症は稀である。」と結論付けている[20]。この研究は、病院内での麻薬の使用のみを対象としていたにもかかわらず、自宅用に処方された麻薬の使用においても、中毒症の発症が同じように稀であると主張する目的で、誤って引用されるようになっていった[19]。2017年にNEJMが掲載したレターでは、1980年のポーターとジックのレターの引用は、1995年にオキシコドンが発売された後に急増し、608件の引用がなされていることに触れつつ、この問題を指摘した[21]。オキシコドンの製造メーカーであるパーデュー・ファーマ(英語版)においても、ポーターとジックの研究を、この問題を包含した状態で引用し、中毒のリスクが低いことを論じていた[22]。その結果、2007年には、パーデュー社と3名の上級管理職は、オキシコドンの服用に関連する中毒リスクについて、規制当局、医師、および患者を欺いたとし、連邦刑事手続により告訴され、有罪判決を受けた[21]。
この1980年のレターは、学術的、非学術的を問わず、色々な出版物に誤って使用されている。サイエンティフィック・アメリカンでは「広域調査」と評され、雑誌のタイムでは「患者が中毒症になるという誇張された恐怖」が「基本的には根拠がない」ことを示した「画期的研究」であると述べられた[19]。また、学術雑誌「Seminars in Oncology」は、ポーターとジックの研究が、患者がどのような病気を患っているかに言及していないにもかかわらず、がん患者に対する研究であると引用した[23]。2017年のMEJN掲載レターの著者は、1980年の研究の不適切な引用が、中毒症のリスクを過小評価したことで、北アメリカにおけるオピオイド流行(英語版)に影響を及ぼしたことを示唆している[21]。また、2017年現在、MEJMのポーターとジックのレターのページには「オピオイド療法では中毒は稀である」という証拠として「大量かつ無批判に引用された」と注意書きが掲載されている[20]。
Vera Institute of Justiceの実施した調査では、人身売買の発生数測定に関連する調査の問題について報告した[24]。1990年から2006年までの、人身売買における関連文献からは、45件の論文で114件の発生数の推定値が発見された。そのうち、1件の文献では原著論文からの引用があり、いくつかの文献では、推定値の根拠が不明であった[24]。ミシェル・ストランスキーとデイビッド・フィンケラーは、2008年(2012年改定)の報告書の冒頭で、人身売買に関する推定値の無批判な引用に警告を促し、報告書の後半では、ウーズル効果について引用し、人身売買の研究についての一般的な方法論を批判している[25]。
J・ハワード・ミラーが1943年に制作したポスター「We Can Do It!」
ジェームス・キンブルは、戦時中である1943年に制作されたポスター「We Can Do It!」における、1994年から2015年の事例をウーズル効果の例として挙げている。1994年にジェラルディーン・ドイル(英語版)がポスターのモデルであると主張した後、多くの報道は、基本的な前提を確認することなく伝播させていった。それは、1942年の若い工場労働者の写真から着想を得て、商業芸術家J・ハワード・ミラーがポスターを制作したという事実である。一部の報道機関からは関連性が不明瞭であるとの意見もあったが、多くの報道機関は熱心に報道を行った。関連性が証明できる出典がないにもかかわらず、こうした多くの報道自体がドイルの物語の「説得力のある」出典となっていた。2015年にキンブルは原初となる工場労働者の写真を発見、そのキャプションで1942年3月にカリフォルニアで働くナオミ・パーカー(英語版)が特定されていることを示し、当時、ドイルはまだ高校生であったことを指摘した[26]。ただしキンブルは、ミラーがその写真を見たという証拠はなく、パーカーであると断定はできないとしている[27]。
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