戸塚ヨットスクール
戸塚ヨットスクール株式会社(とつかヨットスクール)は、愛知県名古屋市千種区にある企業。愛知県知多郡美浜町にある教育施設の戸塚ヨットスクールを運営している。校名は創始者の戸塚宏の名字から。 概要方針1976年、ヨットマンの戸塚宏により「オリンピックで通用するような一流のヨットマンを育てる」という理想の下で設立される[2]。 教育方針は校長の戸塚宏が提唱する「脳幹論」と称するものに基づいている。この「脳幹論」とは、「青少年の問題行動は、脳幹の機能低下により引き起こされる」という持論に基づき、「アトピーや喘息、出勤・登校拒否、引きこもり、癌なども、脳幹を鍛えることによって克服できる」と説くものである。しかし、それらの主張を裏付ける医学的根拠はなんら存在せず[3]、第三者による客観的・科学的な検証も不十分である。また、戸塚は医学の研究に携わったことはなく、医師や医学博士でもない。 戸塚は、ヨットやウィンドサーフィンを通じて大自然の中で原始的な状況に直面せざるを得ない状況を作りだし、彼らに直面させることで脳幹に刺激を与え、戸塚が衰えたと考えるその機能を回復させるというもので、薬物やカウンセリング、周囲の思いやりというようなものだけでは治らない者もあり、教育荒廃は決して解決しないとの考えに基づく[4]。戸塚の支援者である石原慎太郎は、この理論はオーストリアの動物行動学者であるコンラート・ローレンツが唱えたものであるとしている[5]。 「人間が与えられた『生きる力』を100%開花させることに全力を注ぐ」ことをうたい、「基礎精神力を養う」ことを目的に、現在はウィンドサーフィンを使ったトレーニングを行っている。かつては4歳から80歳までの入校を受け入れていたが[6]、現在は3歳~8歳までのジュニアのみ受け入れている[7]。その理由として、戸塚は「(今の子は)本能がダメになっとる。(中略)小さい頃に叱られないと、罪悪感ができん。悪いことをしたときに大きな不快感が生じるようにしとかないかん。さあ悪いことをするぞといったときに、その罪悪感が出てくる。(中略)今の子供は叱られていないから、罪悪感が弱い。」また「反省ができん。それは恥を掻いてないからや。恥をかくのは非常に大事なことなんよ。でも今の教育委員会に聞いてみてごらん。恥をかかせるのは悪いことだというから。ちゃんちゃらおかしい。」と述べている[7]。従前は校内には寮が併設されており、登校拒否、引きこもり、家庭内暴力、非行などの問題を抱えた生徒は合宿が原則となっていた[6]。指導としての体罰は否定せず、「体罰を使えば期間を短縮できる」が、現状では「使いたいのですがなかなか使えない」としている[6]。 合宿中は月曜の休み以外は毎日ウィンドサーフィンによる訓練が行われるが、嫌なことから逃避する癖の付いた大半の生徒は、様々な口実や時には巧みな嘘で逃げようとし、ほとんどの生徒が脱走を試みたという。この事実をあらかじめ想定し、対応しないと生徒の嘘に幻惑され帰宅を許してしまい失敗すると説く。このため、家族には戸塚を信頼し、必ず指示に従うよう求める[4]。 戸塚ヨットスクール事件→詳細は「戸塚ヨットスクール事件」を参照
1970年代末から1980年代にかけて、スパルタ式と呼ばれる独自の指導により、不登校や引きこもりや家庭内暴力などの数多くの非行少年を矯正させたという触れ込みで、戸塚ヨットスクールはマスメディアに登場し話題となる。当時は校内暴力が社会問題化していたため、問題行動を繰り返す青少年の矯正を行えると自称した同スクールが注目されたものであった。 しかし、訓練中に生徒が死亡したり行方不明になったりした、いわゆる「戸塚ヨットスクール事件」が明るみに出た結果、1983年に傷害致死の疑いで捜査が行われ、校長の戸塚以下関係者15名が逮捕、起訴された。長年に及ぶ裁判の末、戸塚およびコーチらは有罪判決を受けた。校長の戸塚は懲役6年の実刑で服役した後、2006年4月29日に静岡刑務所を出所し、スクールの現場に復帰した。 復帰後の事件2006年10月9日、25歳の訓練生の男性がスクール近くの沖合で水死体となって発見される事件が起きた[8]。この男性は同月6日に失踪し行方不明となっていた。遺体に外傷はなかったため、事故死か自殺とみられている。 2009年10月19日、戸塚ヨットスクールの寮の3階から18歳の訓練生の女性が飛び降りて死亡する事件が発生した。女性は3日前に入所したばかりで、他の寮生・コーチと共に布団干しの作業中に約1.5メートルのコンクリート製の屋上のへりを乗り越え、路上に転落した。愛知県警半田署は自殺とみて捜査している。事件後、戸塚校長は「突発的だった。管理態勢に問題はなかったが、所属した生徒が亡くなったことには責任がある」と話した[9]。 2010年12月20日、30代の訓練生の男性がスクール内の寮から転落し重傷を負う事件が発生[10]。愛知県警半田署は事故と自殺未遂で調べていると報じられた[11]。 2012年1月9日、スクール内の寮の前で頭から血を流して倒れている21歳の訓練生の男性が発見され、病院搬送後に死亡。「ヨットスクールの生活がつらく、このまま生きていくのもつらい」と書かれたメモがあったことから、飛び降り自殺と考えられている[12]。 哲学
民間療法戸塚は、「ヨットスクールの訓練を受けることによって、癌やパーキンソン病、膠原病などありとあらゆる難病が治る」と繰り返し主張しており、戸塚の著書『熱論』には以下のような記述がある[14]。
また、 戸塚ヨットスクールを支援する会の会報『ういんど』4号には「戸塚ヨットスクールは、ヨット訓練を通じて、情緒障害(登校拒否、家庭内暴力、非行、無気力など)やストレス症(自律神経失調症、アトピー性皮膚炎、ぜんそく、花粉症、がんなど)を直してきました。これらの成果はいずれも、これまでの教育学や医学の常識からすれば「信じられない」とされる画期的なものばかりです。このため、その成果を率直に認める人はまだ少数であり、反対に、黙殺したり、潰そうとしたりする人が多数を占めています。」[15]、スクールのホームページには「膝蓋腱反射が出なかったり、瞳孔が縮まらなかったり、免疫が狂ったり、体温が低下しっぱなしだったりという、そういう脳幹で行われる情報処理が既におかしくなっている。それらがヨット訓練で直るならば、癌も直るだろうということで、取り組んだわけです。結果は上々です。」と記述されている[16]。 胎児・0歳児への教育現在の戸塚ヨットスクールでは、家庭内暴力や登校拒否などといった所謂情緒障害児の入校は一切受け付けておらず[17]、代わりに胎児や0歳児への教育を行っている。しかし、その教育方法について聞かれると、戸塚は「企業秘密」だと回答している[18][19]。 また、戸塚の教育方針を支持し、ヨットスクールで行われているボードトレーニングを自身のクリニックでも実践している産婦人科医の池川明[20]は、胎内記憶についての研究を行っており、「自分が精子だった時の記憶を持つ人もいる」という非科学的な見解を示している[21]。 陰謀論戸塚は、講演会やYouTube動画などで様々な陰謀論を唱えている。 日本航空123便墜落事故 1985年に発生した日本航空123便墜落事故に関して、「マスコミは機体の尾翼が吹っ飛んだと報道しているが、実際に写真を見ると尾翼はついている。誰かが『尾翼が吹っ飛んだことで事故が起きた』と言えば、(マスコミは)それをそのまま事実として載せてしまう」と陰謀論を唱えている[22]。 GHQとバブル崩壊 2022年1月22日に行われた講演の中で、「日本を再び強くしないために、GHQが日本人男性の弱体化を図った」との見解を示し、1990年代初頭にバブル景気が崩壊したことに関しても「アメリカの策略」だと主張した[23]。 電通 「電通から地上波の各局に、『戸塚宏を生で出演させた場合、電通はスポンサーをつけない』とお達しがいった」と主張している[24]。 製薬会社・精神科 2009年に、戸塚ヨットスクールに入所していた女子生徒が自殺した際、自殺の原因を向精神薬の副作用によるものだとし、「異常行動の場合は必ず向精神薬の副作用として起こりますからその処方を行った精神科医にその責任があります。精神科にかかるのは児童相談所やカウンセラーの指示によるものですから彼らにも責任があります。さらにそういう状態の人間を作り上げたのは文部科学省ですから文部科学省にも責任があります。 そして、向精神薬を使うのは製薬会社の為なのですから製薬会社にも当然責任があります。 ここにおいて血液製剤により肝炎やHIVが広まってしまった構図と全く同一であることが解ります。 マスコミは当然このことを知っています。それなのになんとか現場の責任にしようとするのは大スポンサーである製薬会社、権威である精神科医、自分たちが作らせたカウンセラーそして教育荒廃の元凶である文部科学省を何とか守りたい、そのためには現場に責任を押しつけたいという願望の表れです。 国民を利する為に反権力であるべきマスコミが親権力となり国民の敵となっているのです。彼らも権力者の一角になってしまったからです。」「薬を処方した精神科医の責任ではないのですか。それなのにマスコミは決して精神科医を追求しようとしません。このマスコミの反国民の態度、親権力の態度が国民に不利益をもたらせます。年間3万人以上の自殺者の中で多数の人間が向精神薬を飲んでいることにより異常行動で死亡したと考えられます。それは遺書を書いていないことによっても推察出来ます。マスコミは必死になってその精神科医を守ろうとしています。それは大スポンサーである製薬会社の為でしょう。」などと主張した[25]。 新興宗教・陰謀論者との関係オウム真理教戸塚は、2020年にオウム真理教の後継団体であるひかりの輪代表の上祐史浩と二度にわたって対談を行った[26][27]ほか、麻原彰晃の教えを「真理」だと評価しており[28]、以下のような見解を示している。
また、 「理科系は天下の秀才であり、真理を理解することができる」とした一方、現在は麻原彰晃およびAlephに批判的な上祐氏(早稲田大学理工学部出身)については、「ただの偏差値秀才」「仲間を警察に売った裏切り者」「修行が足りない」と批判した[32]。 2020年2月21日、ニコニコ動画に投稿された日本文化チャンネル桜の動画内での我那覇真子との対談の中でも、上記と同様の見解を示し、「オウム真理教は仏教」「仏教は科学」だと主張した[33]。 統一教会文鮮明の指示により、統一教会と国際勝共連合が出資して設立した団体、世界日報が発行している月刊ビューポイントの2011年9月号に、戸塚のインタビュー記事が掲載された[34][35][36]。 WEB版のビューポイントには、「(ビューポイントの記者が)先日、戸塚ヨットスクールの創立37周年パーティーに出席する機会を得た。」というコラムが2013年11月25日に掲載された[37]。 支援する会戸塚ヨットスクールの教育・更生方針に賛同する支持者は、厳しい教育訓練のあり方、死亡事故の発生、歪曲された報道などのため、同スクールが様々な誤解と中傷に曝されてきたと主張[38]。「戸塚ヨットスクールを支援する会」を組織し支援に当たっている。主要な支援者の中には石原慎太郎(会長)や伊東四朗などの著名人が含まれている。 勾留・収監中も戸塚はマスメディアに依頼された原稿の執筆活動や弁論雑誌への投稿、同スクール支援者団体を通じてのインターネット上での意見表明・コラム掲載などを行っており、支援団体サイト『教育再生!』には支援者による資料が掲載されている。 社会的影響
遭難・行方不明・傷害致死事件が報じられてからは、戸塚ヨットスクールは激しい非難を受けたが、テレビのバラエティ番組では「不謹慎ネタ」として扱われる傾向も見られた。山本太郎が、箕面自由学園高等学校在学中に『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の「ダンス甲子園」へ出場した際、参加名を「アジャ・コング&戸塚ヨットスクールズ」としていた。また1983年に放映された「第7回アメリカ横断ウルトラクイズ」の第8チェックポイント・レイクパウエルは、「クイズヨットスクール」と銘打たれていた。 戸塚自身も、『ムハハnoたかじん』や『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』などのバラエティ番組にゲストとして出演したことがある。 講演「私の脳幹論」戸塚は、2014年11月28日・29日に開催された「第27回日本総合病院精神医学会総会」において、「私の脳幹論」と題する講演を行った。 この中で戸塚は、「脳幹論」と「本能論」について、
と説明し、
などと述べ、体罰によって訓練生へ恐怖を植え付けることの正当性を主張した。 また、
と述べ、精神疾患の診断と治療よりも戸塚の提唱する「トレーニング」が優先し、それによって症状が悪くなってから医療を受ければいいと主張した[3]。 これに対して、日本児童青年精神医学会の理事会は、
などとする声明を発表し[3]、また、本講演の主催者である日本総合病院精神医学会の理事会も、
などとする声明を発表した[39]。 入校歴のある著名人関連作品映画
脚注注釈出典
関連項目外部リンク |
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