世界三大レース(せかいさんだいレース、Triple Crown of Motorsport)とは、モナコグランプリ、インディ500、ル・マン24時間レースという3つの自動車レースに対する伝統的な呼称である。
概要
今日世界三大レースに数えられるレースは、いずれもモータースポーツの歴史とほぼ等しい長い歴史と高い人気を持つ。現在では
の看板レースを担っている。
これらのレースは、それぞれが大きく異なる特徴を持つ。
モナコグランプリ
モナコグランプリ(1996年)
- 開催地 - モンテカルロ市街地コース(3.34 km)/モナコ公国・モンテカルロ
- 初開催 - 1929年
- F1ドライバーたちが揃って「選手権で最も重要なレース」と称する市街地レース。シケインやタイトコーナーが連続するテクニカルコースでは、F1においてすら決勝レースの平均速度が150 km/h程度である。また、道幅が狭くエスケープゾーンも少ないため些細なミスも許されない。ゆえにセーフティーカーの出動率が52%にも達する。ドライバーの技量も大きく問われる難しいレースであり、「モナコでの一勝は、他のレースでの三勝に匹敵する」と言われる。さらにF1のサーキット中最もオーバーテイクが難しいと言われ、予選での速さが重要になる。
インディ500
インディ500(2007年)
- 開催地 - インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(2.5 miles)/アメリカ合衆国・インディアナポリス
- 初開催 - 1911年
- 観客動員数40万人を誇るアメリカ最大のモータースポーツイベント。決められた距離を走るスプリントレースながら総走行距離が500マイル(約806 km)と非常に長く、ドライバーはその中を350 km/hを超える速さで走り続ける。クラッシュが度々起こるため何度もレースがリスタートされることや、フルコースコーション中の一斉ピットワーク、ストレート、ターンを問わずに続くサイド・バイ・サイド、ドラフティング(スリップストリーム)を駆使したオーバーテイクなどによって頻繁に順位が入れ替わる。そのため最終周の残り数メートルまで誰が勝つか分からないエンターテイメント性に富んだレースが展開される。
ル・マン24時間レース
ル・マン24時間レース(2008年)
- 開催地 - サルト・サーキット(13.629 km)/フランス・ル・マン
- 初開催 - 1923年
- 耐久レースのなかでは最も長い歴史をもち、「世界最高の草レース」と呼ばれることもある。世界各国で行われる耐久レースのほとんどはル・マンのフォーマットに準じている。サルト・サーキットは長距離の高速サーキットで、かつコースのほとんどに公道を利用しているため路面はバンプが険しく、シャシとエンジンへの負担が大きい。さらに夕方、夜間、日中と移り変わるコンディションの中で走らなければならない。そのためマシンには高い速度と優れた信頼性、ドライバーには集中力はもちろん、環境の変化に対応する力と相互のチームワークが求められる。
各レースの比較
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モナコGP
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インディ500
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ル・マン24時間
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主催団体
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国際自動車連盟(FIA)
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IndyCar
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フランス西部自動車クラブ(ACO)
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決勝レースの 開催時期
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5月中旬から下旬 (決勝は日曜日)
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戦没者追悼記念週間 (メモリアルウィーク)の日曜日 (5月最終月曜日の前日)
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1年で日照時間が 最も長い土曜日から日曜日 (例年は6月中旬)
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出走台数
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コンストラクター数×2台
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33台
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最大55台
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スポット参戦
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不可 (リザーブドライバーの代走は可)
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可
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可
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スタート方式
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2列スタンディングスタート
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3列ローリングスタート
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ル・マン式スタート(1969年まで) 2列ローリングスタート(1971年から)
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使用するマシン
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各チームが選手権向けに 開発したフォーミュラ1カー
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インディカー・シリーズで使用される ものと同じフォーミュラカー
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シャシーメーカーや乗用車メーカーが開発、購入した プロトタイプレーシングカーまたはGTレーシングカー
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レース距離/周回数
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260km/78周
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500マイル/200周
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レース時間
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1時間40分-2時間
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3時間前後
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24時間 (土曜日の現地時間16時~翌日16時)
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周回平均速度:最高速度 (およその値)
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160km/h:280km/h
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220mph(354km/h):230mph(370km/h)
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240km/h:330km/h
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車両一台あたりの ドライバー人数
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1人
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1人
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3人
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主な記録
三大レース全てを制覇した唯一のドライバー、グラハム・ヒル
三大レース全てを制覇したコンストラクター、マクラーレンの創設者ブルース・マクラーレン。自身もモナコグランプリとル・マン24時間レースで優勝した
2025年時点の主な記録。
複数レース勝者
この「世界三大レース」を語る上で最もよく取り上げられるのは、複数のレースを勝利したドライバーについての記録である。これが重んじられるのは、前述の通り3レースがそれぞれ異なる性質であり、ドライバーに要求される技術も変わってくるためである。
ドライバー
この3レース全てを制覇したドライバーはグラハム・ヒルのみで、他、3レース中2レースを制したドライバーが7名いる。この内、ヒルがモナコで挙げた5勝、A.J.フォイトがインディ500で挙げた4勝は、それぞれのレースで当時の史上最多勝記録となるものであった。
三大レース中の複数のレースにおいて優勝を同年中に達成した例としては、1967年にフォイトがインディ500(英語版)とル・マンの両方で優勝した例があるのみである。
2025年現在、この8名のドライバーの内、現役のレースドライバーはフェルナンド・アロンソのみである(ファン・パブロ・モントーヤ、アロンソ、フォイトを除く5名は故人)。
コンストラクター
この3レース全てを制覇したコンストラクター(車体製造者)はマクラーレンのみである。合併など存続をした組織を含めるとメルセデスも含まれる。
最多勝・連勝
モナコGP最多6勝の記録を持つF1ドライバーアイルトン・セナ。
モナコGPの最多勝記録はアイルトン・セナ(6勝)が持ち、これに5勝のグラハム・ヒル、ミハエル・シューマッハ、4勝のアラン・プロストが続き、彼らを含め、2勝以上を挙げたドライバーの数は計17名に上る。連勝記録については、セナが持つ5連勝という記録に対して続くのはヒル(1963年-1965年)、プロスト(1984年-1986年)、ニコ・ロズベルグ(2013年-2015年)が持つ3連勝という記録であり、セナの記録がやや突出したものとなっている。
インディ500の最多勝記録は4勝で4名が並び(現役のドライバーはエリオ・カストロネベスのみ)、3勝を挙げたドライバーも6名に及ぶ。2勝以上を挙げたドライバーは計21名に上る。連勝記録は少なく、2連勝を達成した6名のみであり、3連勝以上を達成したドライバーは存在しない。
ル・マン24時間レースにおける最多勝記録はトム・クリステンセンが持つ9勝であり、クリステンセンが2005年に7勝目を挙げる以前はジャッキー・イクスが1982年までに樹立した通算6勝が最多勝記録であった。現在ではこれに5勝のデレック・ベル、フランク・ビエラ、エマニュエル・ピロの3名が続き、4勝のドライバーは4名を数える[1]。連勝記録としてはクリステンセンが2000年-2005年に達成した6連勝が突出したものとなっており、2番手以下は3連勝で8名(ウルフ・バーナート(英語版)、オリビエ・ジャンドビアン、アンリ・ペスカロロ、ピロ、ビエラ、マルコ・ヴェルナー、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴)が並ぶ。
日本勢の成績
ドライバー
日本人ドライバーで世界三大レース優勝者はこれまで6名(ル・マン5名、インディ1名)となっている。
これまでF1に参戦してきた日本人ドライバーは、いずれもモナコGPを優勝しておらず、2011年に小林可夢偉が記録した5位が決勝レースの最高成績となっている。また、世界三大レースの3つ全てに出走経験がある日本人ドライバーは中野信治のみである。
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日本人で(アジア人としても)初めてインディ500を制した
佐藤琢磨
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日本人で初めて日本のコンストラクター(トヨタ)でル・マン24時間耐久レースを制した
中嶋一貴
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日本人で2人目の日本のコントラクター(トヨタ)でル・マン24時間レースを制した
小林可夢偉
コンストラクター
日本のコンストラクター(車体製造者)としては、これまでル・マンで2メーカーが優勝している。
年
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コンストラクター
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マシン
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チーム
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ドライバー
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ル・マン24時間レース
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1991年
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マツダ
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マツダ・787B
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マツダスピード
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フォルカー・ヴァイドラー
ジョニー・ハーバート
ベルトラン・ガショー
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2018年
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トヨタ
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トヨタ・TS050 HYBRID
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トヨタ・ガズー・レーシング
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セバスチャン・ブエミ 中嶋一貴
フェルナンド・アロンソ
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2019年
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2020年
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セバスチャン・ブエミ 中嶋一貴
ブレンドン・ハートレイ
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2021年
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トヨタ・GR010 HYBRID
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マイク・コンウェイ
小林可夢偉
ホセ・マリア・ロペス
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2022年
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セバスチャン・ブエミ
ブレンドン・ハートレイ
平川亮
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モナコGPにおいては2006年にホンダ・レーシング・F1チームが記録した4位が最高位である(ドライバーはルーベンス・バリチェロ)。インディ500にはコンストラクターとして参戦した例がない。
エンジンサプライヤー
エンジンサプライヤー(エンジン製造者)としては以下の通り。なお、ル・マン24時間はコンストラクターでの優勝と同じ場合は割愛する。
モナコGP
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インディ500
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ホンダ(1987年-1992年、2021年)[注釈 6]
無限ホンダ(1996年)
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トヨタ(2003年)
ホンダ(2004年-2012年、2014年、2016年-2017年、2020年-2022年)[注釈 7]
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注釈
- ^ メルセデスの前身の一つであるダイムラーによって達成
- ^ 1989年について、車体は「ザウバー」が製造した。
- ^ モナコGP、インディ500における優勝はいずれもチーム・ロータスによる。
- ^ 「ルノー・アルピーヌ」としてエントリー。
- ^ a b 2012年以降(実質的には2009年以降)はダラーラのワンメイク
- ^ 2022年-2025年にホンダ・レーシング(HRC)が製造しているRBPT及びホンダ・RBPTは除く。
- ^ ただし2006年から2011年までホンダのワンメイクであるため、連勝記録として扱わないものとされる。
出典
参考文献