中国共産党中央政治局(ちゅうごくきょうさんとうちゅうおうせいじきょく)は、中国共産党を指導し、政策を討議・決定する機関。
概要
中国共産党の最高指導機関は通常5年に一度開かれる全国代表大会(党大会)によって選出され、党大会閉会中にその職権を代行する党中央委員会であるが、中央委員会も毎年1回程度しか開かれないため、平常時における党の指導および政策決定は、中央委員会全体会議によって選出される党中央政治局が行う。政治局は中央委員会全体会議の閉会中に中央委員会の職権を行使し、党大会や中央委員会全体会議で採択された路線や方針、政策を執行する。中央政治局には上位機関として中央政治局常務委員会が置かれ、政治局常務委員会の意見に基づいて政治局会議が党の「全体局面に関わる活動方針、政策」を決定する[1]。なお、政治局会議は毎月1回の開催に対し、政治局常務委員会は毎週1回開催されており、政治局常務委員会が日常的に政策を計画、実施している。
中央政治局および中央政治局常務委員会は、次期党大会の開催中も党の日常活動を継続して行い、次期中央委員会で新しい政治局および常務委員会が選出されるまで業務を行う[2]。
中央政治局は1927年5月の第5期党中央委員会第1回全体会議(第5期1中全会)で設立された。1949年の中華人民共和国建国以降、中央政治局とその事務処理機構である中央書記処の構成員は、全国人民代表大会・国務院・中央軍事委員会などの国家機構、全国政治協商会議、党中央の各部門及び各地の重要な任務を担っている。このため、政治局委員・中央書記処書記・中央軍事委員会委員は「中国の指導部」とされる。
定年制
政治局常務委員には暗黙の了解として定年制が設けられており、1997年から党大会時に70歳、2002年からは68歳となっていた場合はメンバーとして留任できないこととなっている(七上八下)。ただしこれは制定時に特定の人物を排除するために作られた恣意的なものである[3]。なお、2017年の第19回党大会までは定年制が厳格に適用されており、定年制を破っての留任が取り沙汰されていた当時の中央規律検査委員会書記だった王岐山(後の国家副主席)が退任したが、2022年の第20回党大会では69歳の習近平のほか、新たに政治局員となった国務委員・外交部長の王毅、党中央軍事委員会副主席の張又侠が留任した一方、68歳に満たなかった、いずれも67歳の李克強(国務院総理・団派)と汪洋(中国人民政治協商会議全国委員会(中国語版)主席(中国語版)・団派)が退任したことで定年制は事実上形骸化することとなった[4]。
職権
日本の中国政治研究者である坪田敏孝によると、中央政治局の職権は以下の通り[5]。
- 党大会と中央委員会が確定した路線・方針・政策に基づいて、党中央の名義で発出する全体局面に関わる活動の方針、政策性の文書について討論、決定する。
- 中央政治局常務委員会の活動報告を聴取し、審査する。
- 党中央規律検査委員会、党中央軍事委員会、全国人民代表大会常務委員会党組、国務院党組が提出した重大事項について審議する。
- 党中央各部部長、各省・自治区・直轄市党委員会書記と国家機関各部長・委員会主任、各省省長・自治区主席・直轄市市長の任免の指名を審査・批准する。
- 中央委員会全体会議を毎年1回から2回開催する。
- 中央委員会に対して責任を負い、報告を行う。その監督を受ける。
会議制度
坪田敏孝の研究によると、中央政治局の会議制度は以下の通り[6]。
- 政策決定は一般に会議形式で行う。政治局会議は一般に毎月1回開催する。政治局も民主集中制と集団領導[7](指導)の原則を実行する。
- 問題について決定を行う際、少数は多数に従う原則に基づいて表決を行う。表決は無記名投票、挙手方法、その他の方式を採用できる。重要幹部の任免あるいは人選を指名する際は逐一表決しなければならない。表決結果は主宰者がその場で公表する。
第20期中国共産党中央政治局委員
氏名 |
生年 |
職務
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担当分野 |
17期 |
18期 |
19期 |
20期
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習近平
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1953
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党中央委員会総書記 国家主席 党中央軍事委員会主席 国家中央軍事委員会主席
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中国共産党・中華人民共和国内閣・中国人民解放軍のトップ 中国の最高指導者
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政治局常務委員 |
政治局常務委員 |
政治局常務委員 |
政治局常務委員
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李強
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1959
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国務院総理
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国務院(内閣)のトップ
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政治局員
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政治局常務委員
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趙楽際
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1957
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全国人民代表大会常務委員会委員長
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全人代(立法府、国会にあたる)のトップ
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政治局員
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政治局常務委員
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政治局常務委員
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王滬寧
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1955
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全国人民政治協商会議主席
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統一戦線機構のトップ
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政治局員
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政治局常務委員
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政治局常務委員
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蔡奇
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1955
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党中央書記処書記 党中央弁公庁主任 中央及び国家機関工作委員会書記 国家安全委員会弁公室主任
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総書記を補佐し、党内事務でといえばナンバー2 日本の政党の「幹事長」に近いポスト
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政治局員
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政治局常務委員
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丁薛祥
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1962
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国務院副総理
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総理を補佐し、国務院(内閣)のトップ2 そのため、副総理では1位
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政治局員
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政治局常務委員
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李希
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1956
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党中央規律検査委員会書記
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党規約違反取締活動担当
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政治局員
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政治局常務委員
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馬興瑞
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1959
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党新疆ウイグル自治区委員会書記
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新疆ウイグル自治区の地方トップ
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政治局員
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王毅
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1953
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党中央外事工作委員会弁公室主任 外相
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外交事務担当
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政治局員
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尹力
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1962
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党北京市委員会書記
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北京市の地方トップ
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政治局員
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石泰峰(中国語版)
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1956
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党中央書記処書記 党中央組織部長[8] 全国人民政治協商会議副主席
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人事に関する事務
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政治局員
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劉国中
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1962
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国務院副総理
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農業・厚生などに関する事務 副総理では4位
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政治局員
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李幹傑
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1964
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党中央書記処書記 党中央統一戦線工作部長[9]
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統一戦線工作に関する事務
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政治局員
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李書磊(中国語版)
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1964
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党中央書記処書記 党中央宣伝部長
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イデオロギー工作に関する事務
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政治局員
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李鴻忠
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1956
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全国人民代表大会常務委員会副委員長
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全人代委員長を補佐し、同委員会のトップ2
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政治局員
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政治局員
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何衛東
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1957
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党中央軍事委員会副主席 国家中央軍事委員会副主席 (人民解放軍陸軍上将階級)
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軍内の政治思想担当 制服組のトップ2
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政治局員
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何立峰
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1955
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国務院副総理
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財政・金融などに関する事務 副総理では2位
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政治局員
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張又侠
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1950
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党中央軍事委員会副主席 国家中央軍事委員会副主席 (人民解放軍陸軍上将階級)
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国防・軍事担当 制服組のトップ
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政治局員
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政治局員
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張国清
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1964
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国務院副総理
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産業・防災などに関する事務 副総理では3位
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政治局員
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陳文清
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1960
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党中央書記処書記
党中央政法委員会書記
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警察・司法などに関する事務
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政治局員
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陳吉寧
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1964
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党上海市委員会書記
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上海市の地方トップ
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政治局員
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陳敏爾
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1960
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党天津市委員会書記
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天津市の地方トップ
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政治局員
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政治局員
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袁家軍
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1962
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党重慶市委員会書記
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重慶市の地方トップ
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政治局員
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黄坤明
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1956
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党広東省委員会書記
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広東省の地方トップ
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政治局員
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政治局員
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第19期中国共産党中央政治局委員
第18期中国共産党中央政治局委員
政治局常務委員以外の委員の序列は中国語簡体字順である。
第17期政治局委員
胡錦濤直系である中国共産主義青年団(共青団)出身者の李克強が常務委員に、李源潮が政治局委員に就任したが、同時に引退した曽慶紅を頂点に形成されると見られる「太子党」の習近平が李克強より序列が上の常務委員に就任し、中央書記処常務書記、国家副主席など江沢民時代の胡錦濤と全く同じ職務を与えられた。この他にも2人が政治局入りしている。
第16期政治局委員
黄菊は第14期4中全会で政治局委員に昇格。
脚注
出典
- ^ 坪田(2009年)、103ページ。
- ^ 曽・小口(2002年)、52ページ。
- ^ 國分良成 (2017年10月17日). “中国習体制の今後と東アジア”. ニッセイ基礎研究所. 2022年10月18日閲覧。
- ^ “指導部の年齢制限、形骸化”. 日本経済新聞. (2022年10月23日). https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65376060T21C22A0EA2000/ 2022年10月24日閲覧。 ⚠
- ^ 坪田(2009年)、100 - 101ページ。
- ^ 坪田(2009年)、101ページ。
- ^ 坪田(2009年)、93ページ、脚注1によると中国共産党が使用する「領導」は「(絶対的な)指揮命令および服従を強いる権限を含む意味」がある。
- ^ 「石泰峰同志简历」 新华网
- ^ 「李干杰同志简历」 新华网
参考文献
- 曽憲義・小口彦太編『中国の政治 開かれた社会主義への道程』(早稲田大学出版部、2002年)
- 坪田敏孝「中国共産党中央の権力構造の分析」(『問題と研究』第38巻3号、国立政治大学国際関係研究センター、2009年7月)
関連項目