原子力規制委員会 (日本)
原子力規制委員会(げんしりょくきせいいいんかい、英語: Nuclear Regulation Authority、略称: NRA)は、日本の行政機関の一つ。原子力利用における安全確保を図るため必要な施策を策定・実施する環境省の外局である。 委員会の事務局として原子力規制庁が、施設等機関として原子力安全人材育成センターが、それぞれ置かれる。 概要2011年(平成23年)3月11日に東京電力福島第一原子力発電所で発生した福島第一原子力発電所事故は、原子力発電を推進する「資源エネルギー庁」と規制する「原子力安全・保安院」が同じ経済産業省の中にあるため、同じ官僚が省内の異動によって、推進と規制を往復する人事交流が漫然と行われ、規制対象である電力会社に天下りした退職者が規制行政に公然と干渉するなど、規制機関が監査機能の役割を果たしていなかったことが、原因の一つと考えられた。 この反省に基づき、環境省に新たに外局として、原子力規制に関わる部署を設け、原子力安全・保安院と内閣府原子力安全委員会等、原子炉施設等の規制・監視に関わる部署をまとめて移管することが検討された。 議論の過程では内閣府の下に規制機関を新設する案や、より独立性の高い国家行政組織法3条に基づく委員会(行政委員会、三条委員会)とする案なども検討されたが、環境省の外局として「原子力安全庁」を新設する案が採用された。 規制機関を環境省に新設する案が採用された理由としては、2011年(平成23年)8月に制定された放射性物質汚染対処特措法[3]に基づき、原発事故で放出された放射性物質(事故由来放射性物質)による環境の汚染への対処に関する施策を環境省が所管するなど、「原子力の安全の確保に関する規制の一元化の観点」が挙げられる[4]。法案では、新設機関の名称は「原子力規制庁」とされ、2012年(平成24年)1月31日に第180回国会(通常会)に提出された[4]。法案の担当部局は、内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室であるが、法案の付託先は、環境委員会とされた。 2012年(平成24年)6月半ばには衆議院での審議が進み、自由民主党・無所属の会および公明党が同年4月に提出した原子力規制委員会設置法案と併せて、民主党・無所属クラブ、自由民主党・無所属の会および公明党の三会派共同提案の成立に協力することで一致し、新たに原子力規制委員会設置法案が衆議院環境委員長から提出された[5]。同法案は、環境省の外局として原子力規制委員会を置き、同委員会の事務局として原子力規制庁を置くことや、同委員会を国家行政組織法3条2項の委員会(三条委員会と呼ばれる行政委員会)として独立性を高めることなどを定めた。同法案は同年6月15日に衆議院で可決、同年6月20日に参議院で可決され、同年6月27日に公布された。 2012年(平成24年)9月19日、野田佳彦内閣総理大臣は、原子力緊急事態宣言発令中の例外規定(設置法附則2条3項)に基づき、衆参各議院の同意を得ずに委員長および委員を任命して、原子力規制委員会は発足した[6]。その後、同人事は、2013年(平成25年)2月14日に衆議院、翌15日に参議院の同意をそれぞれ得た。 2014年(平成26年)3月1日、独立行政法人原子力安全基盤機構を統合[7]。 2020年度以降に、旧日本郵政本社に移転する事が決定している[8] が、改修工事を行う為、移転時期は2025年度までずれ込んでいる[9]。 組織原子力規制委員会原子力規制委員会は環境省の外局として設置される機関である(原子力規制委員会設置法2条)。同委員会は国家行政組織法3条2項に基づいて設置される三条委員会と呼ばれる行政委員会で、内閣からの独立性は高い(法2条、5条)。 原子力規制委員会は委員長および委員4人をもって組織される(6条1項)。委員長および委員は、人格が高潔であって、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識および経験並びに高い識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する(法7条1項)。また、委員長はその任免を天皇が認証する認証官である(同条2項)。委員長および委員の任期は5年で、再任されることができる(法8条1項2項)。一般的な欠格事項のほか、「原子力にかかる製錬、加工、貯蔵、再処理もしくは廃棄の事業を行う者、原子炉を設置する者、外国原子力船を本邦の水域に立ち入らせる者、もしくは核原料物質、もしくは核燃料物質の使用を行う者、またはこれらの者が法人であるときはその役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む)、もしくはこれらの者の使用人その他の従業者」に該当する者は委員長または委員となることができない(法7条7項)。 2012年(平成24年)、野田内閣が最初の委員長および委員を選任する際には、設置法に定める要件に加えて、設置法の附帯決議の内容を踏まえた「原子力規制委員会委員長及び委員の要件について」(平成24年7月3日)とするガイドラインも参照して、人選に当たった[10]。しかし、2014年(平成26年)、任期満了を迎える2委員に替わって新たな委員を選任するに際して、第2次安倍内閣では同ガイドラインを考慮せず、また、新たなガイドラインを制定する予定もないことを明らかにした[11]。 委員長・委員
審議会等原子力規制委員会には次の審議会などが置かれる。
原子力規制庁原子力規制委員会にはその事務局として原子力規制庁が置かれる(法27条1項および同条2項)[15]。原子力規制庁には事務局長として原子力規制庁長官が置かれる(同条3項および4項)。 原子力規制委員会の内部組織は一般的に、法律の原子力規制委員会設置法、政令の原子力規制委員会組織令および原子力規制委員会規則の原子力規制委員会組織規則が階層的に規定している。 内部部局
施設等機関幹部原子力規制庁の幹部は以下の通りである[16]。
歴代原子力規制庁長官
地方機関
所管法人原子力規制委員会が主管する独立行政法人は2025年4月1日現在存在しないが[17]、文部科学省主管の量子科学技術研究開発機構について、放射線の人体への影響並びに放射線による人体の障害の予防、診断及び治療に係るものに関する事項を、文部科学省主管の日本原子力研究開発機構(JAEA)について、原子力の研究、開発及び利用における安全の確保に関する事項を、それぞれ共管している[18]。 原子力規制委員会が主管する特殊法人は2025年4月1日現在、存在しない[19]。 原子力規制委員会が主管する特別の法律により設立される民間法人(特別民間法人)、認可法人、地方共同法人および特別の法律により設立される法人は存在しない。 職務・権限任務原子力規制委員会は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ること(原子力にかかる製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉に関する規制に関すること、並びに国際約束に基づく保障措置の実施のための規制、その他の原子力の平和的利用の確保のための規制に関することを含む)を任務とする(法3条)。 所掌事務原子力規制委員会の所掌事務は以下の通り(法4条1項)。
勧告・報告徴求権限原子力規制委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、原子力利用における安全の確保に関する事項について勧告し、及びその勧告に基づいてとった措置について報告を求めることができる(法4条2項)。 原子力規制委員会規則原子力規制委員会は、その所掌事務について、法律若しくは政令を実施するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、原子力規制委員会規則を制定することができる(法26条)。 原子力規制委員会規則は、法令における優越において省令と同等である。 沿革
原子力規制庁職員に対する規制ノーリターンルール原子力規制委員会設置法の附則には、「原子力規制庁の職員については、原子力利用における安全の確保のための規制の独立性を確保する観点から、原子力規制庁の幹部職員のみならずそれ以外の職員についても、原子力利用の推進に係る事務を所掌する行政組織への配置転換を認めないこととする」という、いわゆるノーリターンルールが定められた(附則6条2項本文)。もっとも、同条項には「ただし、この法律の施行後5年を経過するまでの間において、当該職員の意欲、適性等を勘案して特にやむを得ない事由があると認められる場合はこの限りでない」(同条項ただし書き)とする例外規定が設けられている。 なお、同ルールの徹底は法案審議にあたって採択された衆議院・参議院の決議文でも求められている[30]。 ルールの例外規定により、すでに1⁄3の職員が出向元省庁に出戻りしていることが判明した。ルールの形骸化が懸念される[31][信頼性要検証]。 天下り規制原子力規制委員会設置法の附則には、「原子力規制庁の職員については、原子力利用における安全の確保のための規制の独立性を確保する観点から、その職務の執行の公正さに対する国民の疑惑または不信を招くような再就職を規制することとするものとする」と定められた(附則6条3項)。いわゆる天下りの規制である。これは、同庁の前身である原子力安全・保安院ないし経済産業省の職員が、長年にわたって電力会社をはじめとする原子力関連企業に多数再就職したために、原子力規制機関と規制対象企業の間に過度の癒着を生じ、原子力発電所における大規模な事故発生の遠因になったと見られるからである。 情報公開意思決定に関わる会議は原則として全てインターネットで生中継され、資料、議事録なども核セキュリティ上公開できないものなどを除き公式サイト上で公開される。記者会見に参加できるのは一般紙や放送局などの記者、これらのメディアに記事を提供するフリージャーナリストなどである[32]。委員長の記者会見はもとより、原子力規制庁総務課長(報道官)による記者向けのブリーフィングもインターネットで生中継される。 一方で、政党機関紙は一般の報道機関とは異なるという理由で『しんぶん赤旗』記者の出席を断り、抗議を受けて一転、出席を認めるという混乱が起きている[32][33]。 3人以上の打合せの場合のみ、議事録を作成するという内部規定を利用し、意図的に2人以下の打合せを行い、議事録作成を行わない抜け穴が指摘されている [34]。 公式ウェブサイトでは、なぜかストロンチウムを「ス卜口ンチウム」(トではなく卜、ロではなく口。漢字)と表記している箇所があり[35]、ネットユーザー達より「検索避け」を疑われていた[36](2014年6月10日現在は修正されている)[36]。また同様のものに、電力会社や政府・地方自治体の資料で「福島第ー」(漢数字の「一」でなく「ー」)、「原子カ」や「東京電カ」や「関西電カ」(漢字の「力」でなくカタカナの「カ」)、「木白崎」や「ネ白崎」(正しくは「柏崎」)などが見られる。これらについて三重大学教授の奥村晴彦は、文書にテキスト抽出禁止の保護設定がなされているため、検索エンジンがOCRによる読み取りをした際に誤変換したものとした上で、「わざわざテキスト抽出禁止するのは『検索避けの隠蔽工作』にまさに該当する」と批判している[37]。 また2015年には、公文書管理法で義務化され、情報公開の検索に使われる公文書リストの作成が行われてこなかったことが明らかとなった[38]。 2020年には、関西電力に対し求める原発の火山灰対策を決める委員会に向けての非公開の事前会議の場で、2案のうち1案を退ける方針を決めたのにもかかわらず、議事録を作成せず、参加者に配布した資料も回収・廃棄していたことが判明している。事前会議には更田豊志委員長らも出席しており、密室で指導案を排除した形であり、実質的に意思決定の場になっているとの批判も出ている[39]。 脚注
関連項目
外部リンク
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