羊たちの沈黙 (映画)
『羊たちの沈黙』(ひつじたちのちんもく、The Silence of the Lambs)は、1991年のアメリカ合衆国のサイコホラー映画。監督はジョナサン・デミ、出演はジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス、スコット・グレンなど。原作はトマス・ハリスの同名小説。連続殺人事件を追う女性FBI訓練生と、彼女にアドバイスを与える猟奇殺人犯で元精神科医との奇妙な交流を描く。 第64回アカデミー賞で主要5部門(ビッグ・ファイブ)を受賞。これは同賞史上『或る夜の出来事』、『カッコーの巣の上で』に次ぐ3作目であり、2023年時点で主要5部門受賞を達成した最後の作品である。また、作品賞を受賞した唯一のホラー映画でもある。2011年にはアメリカ国立フィルム登録簿に新規登録された。また、スティーヴン・ジェイ・シュナイダーの『死ぬまでに観たい映画1001本』にも掲載されている。 物語の主役である精神科医で殺人鬼のレクター博士はアンソニー・ホプキンスが演じ、アカデミー主演男優賞を受賞した。続編である『ハンニバル』でもホプキンスがレクターを演じている。もう一方の主役のFBI訓練生、クラリス・スターリングを演じたジョディ・フォスターもアカデミー主演女優賞を受賞しているが、こちらはホプキンスと異なり、続編には出演していない[注 1]。 あらすじカンザスシティをはじめとしたアメリカ各地で、若い女性を被害者とする連続猟奇殺人事件が発生。川へ遺棄された遺体から皮膚が剥ぎ取られていたことから犯人は「バッファロー・ビル」と呼ばれた。 FBIアカデミーの実習生クラリス・スターリングは、バージニアでの訓練中、行動科学課(BSU)のクロフォード主任捜査官のオフィスに呼び出される。クロフォードは、バッファロー・ビル事件解明のために、監禁中の凶悪殺人犯の心理分析を行っていたが、著名な元精神科医で連続猟奇殺人を犯した囚人ハンニバル・レクターは、FBIへの協力を拒絶していた。クラリスは、クロフォードに代わって事件に関する助言を求めるため、レクターの収監されているボルティモアの州立精神病院に向かう。 レクターはクラリスに興味を持ち、ときに突き放しながら、協力するともちかける。レクターやクロフォードの強かさと底知れなさ、更に殺人事件に携わることへの緊張感から、クラリスは目を背けてきた記憶を引き出される。レクターはクラリスに揺さぶりをかける。 クラリスは保安官だった父親の突然の死、更に引き取られた牧羊家の叔父の家で子羊が屠殺されるのを目にし、衝動的に逃がそうとした過去を明かす。夜明けに来るだろう死を前にしても羊はただ動かず、必死にもがいても何もできない恐怖は、牧場を去り施設に入れられて大人になった現在でもクラリスの心に染み付いていた。 一方、新たに上院議員の娘がバッファロー・ビルに誘拐される事件が発生したため、精神病院院長チルトンは、自身の出世のためにレクターを上院議員に売り込む。議員である母親は、捜査協力の見返りとして、レクターを警備の緩い刑務所へ移送させることを約束する。しかし、レクターは、移送の隙をついて警備の警察官や救急隊員たちを殺害して脱獄を果たす。 一方クラリスは、レクターが示唆した数々のヒントによって犠牲者たちの足跡をたどるうち、犯人と最初の犠牲者が知人だった可能性に気付く。クロフォードたちも真犯人を特定して彼の自宅へ踏み込むが、そこはもぬけの殻だった。そして最初の犠牲者の関係先をあたるクラリスがある住居を訪れると、住人の高齢女性ではなく、その知人だという若い男性が現れる。暗い室内で裁縫道具の数々やメンガタスズメを目にしたクラリスは、この男こそが犠牲者の皮膚でみずからの変容を目指すバッファロー・ビルであると確信し、彼は地下室へ逃げ込む。人質を殺害する周期に当たっているため、規則に反して単身で民家の地下室へ踏み込んだクラリス。恐怖のなか暗闇の中でもがくが、間一髪で犯人を射殺し、人質を無事助け出す。 事件は解決し、その後、同期生たちと共に正式なFBI捜査官となり祝賀会に参加したクラリスの元に、外国へ逃亡したレクターから電話が入る。声を潜めて応えたクラリスに対してレクターは、彼女の心にある子羊たちの鳴き声が消されたかどうかを尋ねる。そして事件解決と捜査官への就任を祝福し、「古い友人を夕食に呼んでいるんだ」(I'm having an old friend for dinner.)という言葉でチルトン殺害をほのめかして通話を終えると、ちょうど飛行場に降り立った彼の背中を追って人混みの中に姿を消した。 登場人物
キャスト
スタッフ
反響主な受賞
抗議製作準備当初、トマス・ハリスから原作権を購入したのは、オライオン・ピクチャーズとジーン・ハックマンであった。当時、オライオン・ピクチャーズとハックマンは提携を結んで権利を購入しており、ハックマン自身が監督を務めると共にジャック・クロフォード役で主演する予定だった[8]。しかし、テッド・タリーが脚本を執筆中にハックマンはプロジェクトから離脱し、その影響で資金調達も途絶えることとなる。だが、オライオン・ピクチャーズは改めて単独で資金調達を担当。後任の監督にジョナサン・デミが決定してからは、プロジェクトは急速に進んだという[9]。 キャスティングクラリス役は当初、ジョナサン・デミの希望でミシェル・ファイファーとメグ・ライアンが候補に上がるが、共に本人がオファーを辞退[10][11]。当初からクラリス役に興味を持ち、デミに自身を売り込んでいたジョディ・フォスターが役を得た[12]。 レクター博士はスタジオ側がショーン・コネリーを希望したが、コネリーはオファーを拒否、第2候補だったホプキンスに役が回ってきた[13]。 本作に登場するバッファロー・ビルの被害者たちの写真は、実在の女優らを使って撮影されたものである。 演技およびタイトルクラリスの上司、ジャック・クロフォードのモデルはロバート・K・レスラーらと共に犯罪捜査におけるプロファイリングの技術を確立したFBI捜査官のジョン・ダグラスである。 アンソニー・ホプキンスによると、レクター博士が発する声は『2001年宇宙の旅』のHAL9000の声と、作家トルーマン・カポーティの話し方を参考にしたという[14]。ちなみに、レクターの日本語吹き替えをVHS版で担当した金内吉男は、HAL9000の吹き替えを持ち役にしていた。 キャサリン・マーティンがカーラジオに合わせて歌う曲は、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの「アメリカン・ガール」。バッファロー・ビルが女装する時にBGMにしているのは、アメリカの女性歌手ク・ラザローの「グッバイ・ホーセズ」。レクターが移送中の檻の中で聴いているのは、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」である。 タイトルの「羊たち」が指すのは、クラリスの幼少期に救えなかった子羊たちであり、彼女のトラウマである。彼女がFBI捜査官となり上院議員の娘を救うことによって、トラウマを克服する(羊たちの悲鳴が止む)という物語である。 公開クレジットでも確認できるように、本作は元々は1990年に公開予定だった。しかしオライオン・ピクチャーズは同じく1990年に公開だった『ダンス・ウィズ・ウルブズ』とアカデミー賞を分け合うことを嫌い、1991年に延期された。そして同年2月14日のバレンタインデーに公開された。ホラーというジャンルであることに加えて、年の早い時期の公開はアカデミー賞レースに不利と言われていたが、史上3作目の主要5部門受賞を達成し、30年以上経った2023年時点でも4作目は現れていない。 スピンオフ映画の1年後を描くドラマシリーズ『Clarice』(原題)が企画されている[15]。 脚注注釈出典
関連項目
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