ひぐらしのなく頃に (アニメ)
『ひぐらしのなく頃に』(ひぐらしのなくころに)は、07th Expansionによる同名のビジュアルノベル作品を原作とした日本のアニメシリーズ。 2021年時点でテレビアニメ4作、OVA3作の計7作が制作されている[1]。そのうち、2006年から2013年にかけて発表された5作品は「旧作」または「スタジオディーン版」と呼ばれることもある[2][3]。2009年時点でDVDのシリーズ累計売上は40万本[4]。
作風本作は、田舎の寒村を舞台にしたミステリー・ホラー作品である。過疎化の進む雛見沢村では、毎年6月に「綿流し」という祭りが行われていたが、近年、この日に必ず「ひとりが死に、ひとりが行方不明になる」という不可解な事件が発生していた[1]。村人たちはこれを「オヤシロさまの祟り」として恐れている[1]。物語は、雛見沢村で暮らす少年少女たちを中心に展開される。彼らは日常的な交流を重ねるが、やがて村の事件に巻き込まれていく[1]。 本作は複数の「編」で構成されている[1]。各編が完結すると時間が巻き戻され、別の「パラレルワールド」として新たな物語が始まる[1]。編ごとに中心となるヒロインが異なり、それぞれ異なる謎や視点が提示される。断片的な情報が少しずつつながり、やがて事件の全貌が明らかになっていく[1]。この手法について、『ひぐらしのなく頃に』および『ひぐらしのなく頃に解』の監督を務めた今千秋は「プロでは思いつかないやり方」と雑誌のインタビューにて語っている。 ライターの野本由起によれば、本作の特徴は、牧歌的な日常から一転して暴力や狂気が表出する点にある[1]。萌え要素を持つキャラクターが突如として豹変し、凄惨な事件に関与する様子が、作品の持つサスペンス性と恐怖を強調する[1]。また、各編に散りばめられた手がかりをもとに、事件の真相とその背後にある因果を推理する楽しさも本作の魅力の一端を担っているという[1]。 登場人物→詳細は「ひぐらしのなく頃にの登場人物」を参照
スタッフ
主題歌
ひぐらしのなく頃に第1期として2006年4月から同年9月まで2クール放送された[注 4][20]。全26話で、原作の出題編4編(『鬼隠し編』『綿流し編』『祟殺し編』『暇潰し編』)と、解答編2編(『目明し編』『罪滅し編』)の計6編で構成されている。 DVD全巻購入特典として、特別編「猫殺し編」を収録したDVDが付属した[21]。 製作2005年8月11日にアニメ化が発表[22]。メインスタッフが公開された。 監督は今千秋、シリーズ構成は川瀬敏文、アニメーション制作はスタジオディーンが担当した[23]。なお、アニメ化発表時点では望月智充がシリーズ構成を担当する予定であった[22]。 脚本
各話リスト
放送局
ひぐらしのなく頃に解2007年7月6日から同年12月まで2クール放送された[27]。全24話で、竜騎士07が原案・監修を担当するオリジナルストーリー「厄醒し編」と[28]、原作の解答編2編「皆殺し編」「祭囃し編」を題材とした計3編で構成されている[29][30](厄醒し編の詳細は後述)。また、第1話に「罪滅し編」の後日談である「サイカイ」が置かれている[31][注 5]。 制作第1期の好評を受け、2006年にアニメ第2期の制作が決定した。 アニメ第1期と第2期はおおむね同一スタッフで制作されているが、細かい部分では違いが見られる。主な差異は下記の通り。
放送を取り巻くトラブル本作品では当初6つの放送局が本作を放送していたが、諸般の事情(後述)により数局が放送を打ち切る事態が発生した。
打ち切りの理由は両局とも明確にはしていないが、同年9月17日に京都府京田辺市で発生した16歳少女による父親殺害事件の犯行状況に本作品を想起させるものがあったためというのが定説となっている[32]。 関西ローカルの報道番組『ムーブ!』(2007年9月19日放送分)では、インターネット上で京田辺の事件と本作品との類似点が指摘されているとした上で、本作品を「主人公の少女が親の離婚騒動がトラウマになり、斧を使って敵を殺していくゲーム」と報道した。これは罪滅し編の断片を抜き取った解説となっているが、そもそも本作品は「敵を殺す」ストーリーではない[注 6]。 この問題は放送を続行した局にも多少の影響を及ぼした。
打ち切られた局で本作品を見ていた視聴者への救済措置として、当初は有料配信を行っていたインターネット動画配信サービスサイト・アニメイトTVが無料配信を行った。描写はすべて修正前である(2007年10月24日から31日にかけて第12・13話を、以降最新話を1週間限定で順次配信)。 なお、実際には本作品が事件の引き金になっているとは考えにくいとする見解も存在する[34]。社会学の立場から内容分析を行った田中智仁も、「事件を連想させる」という放送局側の自主規制による措置であり、実際の事件との関連性は実証できないと論じている[35]。 厄醒し編“やくさましへん”。アニメ第2期のオリジナルエピソード。 2007年4月26日にオープンした公式サイトにおける原作者・竜騎士07のメッセージによると、厄醒し編は『ひぐらしのなく頃に』の世界観をより深く楽しんでもらうための皆殺し編への助走的エピソードであると語られている。アニメ雑誌の今千秋監督やフロンティアワークス・野村美加プロデューサーによる本作品見所紹介では、第1期で取りこぼしてしまった部活シーンや明かされなかった謎などを補完するために新しいオリジナルエピソードを置いたと答えている。鬼ごっこや亀田との駆け引きなどギャグシーンが多い。 詩音の沙都子への溺愛ぶりと「其の壱 鬼ごっこ」で沙都子の「困ったことがあればみんなに相談するといいですわ」というセリフに対して梨花が過剰に反応している様子から、罪滅し編より後の雛見沢であることが読み取れる。 次回予告本シリーズでは、各放映局では次回予告は放映されず、当作品の公式ホームページにて行われている。バンダイチャンネルやアニメイトTVでは高画質版も配信される。 これは一般的なテレビアニメ作品よりも、本編が少し長くなっていることが大きな要因である(エンディング後、通常では次回予告が入る部分にも本編映像が充てられている。次回予告を公式Webサイトでする旨のテロップはエンドカード表示の時になされている)。このような処置は当時としては珍しいことである。 担当は古手梨花と羽入だが、話している内容は次回予告とは全く関係ない。 なお、2012年9月にWOWOWで、2014年12月にAT-Xでそれぞれ放送された際には、各話の最後にこの予告が挿入されている。 各話リスト(解)
放送局(解)
おまけアニメ『うら☆ひぐ(仮)』は、解DVD各巻に2話収録の映像特典おまけアニメ。全24話。本編映像をコメディ化した超短編映像。コンテ・演出は今千秋、作画監督は坂井久太。
ひぐらしのなく頃に礼第3期にあたるOVA作品[36][37]。2009年2月25日から8月21日にかけて発売された[38]。全5話で、「羞晒し編[注 8]」「賽殺し編」「昼壊し編」の計3編で構成されている[39][40][41]。 スタッフも若干入れ替わり、監督はテレビシリーズの今千秋から川瀬敏文(シリーズ構成兼任)に、キャラクターデザインもテレビシリーズの坂井久太から黒田和也へと交替した[7]。 なお、必ずしも前期シリーズの続編となっていないので注意が必要である。第2話から第4話の賽殺し編については前期シリーズの後日談[注 9]であるとされているが、第1話の羞晒し編は前期シリーズの後の話なのか不明[注 10]であり、第5話の昼壊し編はひぐらしデイブレイクの世界観を読み物にした外伝[注 11]のアニメ化であって前期シリーズとの関連は明かではない。
ひぐらしのなく頃に煌第4期シリーズにあたるOVA[43]。原作シリーズが2012年で10周年を迎えることから、「ひぐらし十周年記念作品」として、2011年7月21日から2012年1月25日にかけて全4巻のOVAシリーズとしてリリース[44]。「喜・努・愛・楽」を各エピソードのテーマに、ファンディスク『ひぐらしのなく頃に礼』にて再録された原作「目明し編お疲れ様会」にあたる「罰恋し編」に加え、完全オリジナルエピソードとなる「妖戦し編」「結縁し編」「夢現し編」を題材とした計4編で構成される[8]。 スタッフ編成も一部変更。監督は「OVAひぐらしのなく頃に礼」の川瀬敏文から橘秀樹に、キャラクターデザインも同作の黒田和也から阿部智之(総作画監督兼任)に交替となっている[8]。
ひぐらしのなく頃に拡〜アウトブレイク〜小説「ひぐらしアウトブレイク」を原作に、OVAとしてアニメ化[注 12]。全1話[9][45][46]。 2013年8月に導入されるパチンコ「CRひぐらしのなく頃に頂」のプロモーションを兼ねており、パチンコ店の景品として置かれる他はアニメイトのみでの発売となる[9][46]。
ひぐらしのなく頃に業・卒パッショーネ制作によるテレビアニメシリーズ。『ひぐらしのなく頃に業』とその続編『ひぐらしのなく頃に卒』の2作で構成される[47]。全39話。2020年10月から2021年9月にかけて、TOKYO MXほかにて放送された。
シリーズの位置づけ『ひぐらしのなく頃に』シリーズの完全新作[53]。シナリオプロットは原作者の竜騎士07が書き下ろしている[54]。なお、タイトルを繋げると「卒業」となるが、これはシリーズの最終章を意味するわけではない[54]。 本作では北条沙都子を主役に据え、彼女の内面や成長する過程を深く掘り下げることを目的としている[54]。竜騎士07によれば、その理由は、旧作において沙都子の成長物語を十分に描けなかったためだという[54]。旧作の「祟殺し編」や「皆殺し編」における沙都子は、あくまで「お姫様ポジション」に留まり、能動的に動く機会がほとんどなかった[54]。また、「ハッピーエンドを目指すには、ひとりの蛮行ではなく、皆の力を結集し正攻法で進むべき」というテーマに注力しすぎた結果、沙都子にスポットライトが当たらず、成長物語を描くことができなかったという[54]。 製作(業・卒)沿革(業・卒)2020年1月6日に『ひぐらしのなく頃に』のタイトルで新アニメプロジェクトの始動が告知[55]。同タイトルで情報公開が行なわれ、第1話が放送された。その後、第2話のオンエアとともに、正式タイトル『ひぐらしのなく頃に業』が発表[56]。第4話の放送終了後には、完全新作であることが明かされた[53][57]。また、『業』の放送終了と同時に、続編『ひぐらしのなく頃に卒』の放送が告知された[58]。 企画経緯本作の企画は、創通の岡村武真が前作『ひぐらしのなく頃に』のTVシリーズ完結後も、遊技機やOVA、さらに2012年の原作10周年イベントや2016年のTVアニメ化10周年記念イベントなど、節目ごとに新たな企画を模索していたことから始まる[59]。当初は前作のHDリマスター案が検討されていたが、2017年頃、竜騎士07を含む関係者の間で「リメイクしたら面白いのではないか」という意見が浮上[59]。これを受け、岡村は「それならば、いっそリメイクするのが良いのではないか」と発想を転換した[59]。 このアイデアを具体化するため、岡村は別件で関わりのあったインフィニットの永谷敬之に相談[59]。当初はリメイクを前提とした話だったが、永谷は「単なるリメイクではなく、新たな切り口を模索すべきではないか」と提案した[59]。インフィニットがオリジナル作品を主に手がける会社であることや、現在の技術でリメイクするだけでは意義が薄いと考えたためだった[59]。 この提案を受け、岡村と永谷は竜騎士07と打ち合わせを実施[59]。その中で「リメイク作品だと思わせて、途中から新作へと変化するアニメはどうか」というアイデアが生まれた[54]。竜騎士07はこれを快諾し、ファンの「もう一度記憶を消して『ひぐらし』を楽しみたい」という声に応える形で、新作のプロット執筆を約束した[59][54]。そして、約1か月という短期間でプロットを完成させた[59]。 竜騎士07が提出したプロットは膨大な分量で、結末まで詳細に描かれていた[59]。岡村は「当初はざっくりとした相談だったため、アイデアベースの簡潔なプロットを想定していたが、実際には2~3センチの厚さがある分量に驚いた」と振り返る[59]。永谷も「そのまま出版できるほど内容が詰まっている」と高く評価し、KADOKAWAの石上丈太郎も「ボリュームだけでなく、竜騎士07のやりたいことが明確に伝わる完成度だった」と述べている[59]。プロデューサー陣はこのプロットを新しい『ひぐらし』として受け入れ、完全新作『業・卒』の制作が決定した[59]。 制作体制製作委員会は、竜騎士07とのやり取りが多かった創通が幹事会社となり、KADOKAWAが共同幹事として参加する形で立ち上げられた[59]。インフィニットは制作現場の管理と調整を担当した[59]。KADOKAWAはBlu-ray・DVDの発売販売、出版窓口、宣伝業務、海外セールスを担当し、創通は委員会や原作サイドの調整および代理店業務を担った[59]。 制作スタジオのパッショーネは、永谷の推薦により選ばれた。永谷によれば、パッショーネが手掛ける作品は尖った表現に定評があるため、『ひぐらし』特有のバイオレンス描写に適していると判断したという[59]。また、スケジュール管理の観点からも、パッショーネはしっかりとコントロールできるスタジオとして評価された[59]。 制作スタッフはパッショーネ主導で起用された[59]。監督の川口敬一郎は、本作がパッショーネにとって初の2クール以上の作品であることから、同社の社長・西藤和広によって、長期シリーズの経験者として抜擢された[2]。川口は、竜騎士07のプロットを読んだ際、その面白さに魅了され、即日で監督就任を決意した[2]。また、本作の制作にあたり、原作ゲームや小説版、漫画版、アニメの過去作品など、すべてのメディア展開作品をチェックしたという[2]。キャラクターデザイナーの渡辺明夫は、沙都子を魅力的に描ける人物として抜擢された[54]。永谷は渡辺明夫の起用を「嬉しい誤算」と振り返っており、岡村も「まさかお願いできるとは思わなかった」と述べている[59]。 竜騎士07はプロットを書き下ろしただけでなく、監修としてシナリオや絵コンテにも関わっている[54]。彼によれば、本作の制作チームは『ひぐらし』シリーズに精通しており、過去作との関係性や物語の核心をしっかり把握していたため、修正はほとんど必要なかったという[54]。 制作方針永谷によれば、本作は制作方針として、「原作者である竜騎士07の想いを尊重する」ことを最優先に掲げているという[59]。『ひぐらし』は竜騎士07が長年書き進めてきた作品であり、内容を詰めるよりも原作の意図を受け入れる姿勢が重要だった[59]。そのため、プロットに対して「こうしてほしい」と修正を求めることは一度もなかったという[59]。岡村武真も「先生が考える仕掛けがなければ成立しない」と同意し、アニメ化の過程で細かな確認を行うに留めたと述べている[59]。竜騎士07のプロットが「新しい『ひぐらし』として納得できる内容」だったため、制作陣は自然に受け入れることができたと永谷は振り返る[59]。 表現規制について永谷は「日和らないで作る」という方針を強く打ち出したという[59]。脚本会議の段階で表現を調整すると「味気ないものになる」と考えたため、「やりたいことをやった上で、どうするかを考える」アプローチを採用し、制作陣に対して抑制的要望を出すことはなかった[59]。岡村も「放送できるかどうかは後で処理すればいい」と述べ、最初から制約を設けることで作品が縮こまるのを避ける方針を最初に定めたと語る[59]。これに対し、KADOKAWAの石上丈太郎は、時代背景や海外展開を担当する立場から、各所に表現の確認を取ることがあったと明かす[59]。ただし、石上も永谷の方針を支持し、「出来る限りそのまま」配信・パッケージ化する意向を示した[59]。永谷は、バイオレンスを抑えることが『ひぐらし』の本質を損なうと考え、「アクセルを踏む」姿勢を貫き、調整が必要な部分はパッケージで補完する形を提案している[59]。 プロモーション本作のプロモーションでは、情報公開のタイミングが慎重にコントロールされた[59]。石上によると、「どの情報を、いつ公開するか」が大きな課題だったという[59]。前作では「原作のどの部分をアニメ化するのか」が注目されたが、本作では「まだ誰も知らない雛見沢」を提示するため、タイトル『業』を第2話の放送まで伏せる戦略が採られた[59]。 永谷は、第1話では新作であることを隠し、「ひぐらしが帰ってきた」という印象を重視する方針を強く主張した[59]。リメイクのように見せることで、前作を知るファンにも新規視聴者にも新たな発見を提供する狙いがあった[59]。そのため、『業』のタイトルを第2話まで伏せる提案を行い、製作委員会で採用された[59]。永谷自身は「新作であることを隠す必要はなかったかもしれない」と振り返りつつも、このミスリードが作品の受け入れに良い影響を与えたと振り返っている[59]。 宣伝担当の石上は、場面写真の選定にも細心の注意を払ったという[59]。例えば、圭一の母親のカットを公開した際、「圭一ママだ!」という大きな反響があり、ファンの熱量の高さを実感した[59]。一方で、ネタバレを避けるためには慎重な判断が求められ、視聴者の反応を見ながら情報公開のバランスを調整する姿勢が取られた[59]。 岡村は、毎週Twitterのトレンドに『業』が入る現象に触れ、ファン層の相互作用が予想以上の相乗効果を生んでいると評価している[59]。永谷もまた、考察を通じたファンとのキャッチボールがプロモーションの一環として機能したと高く評価している[59]。 構成本作では、序盤をリメイク作品のような展開に見せかけつつ、次第に独自のストーリーへと移行する構成が採用されている[54]。「鬼騙し編」「綿騙し編」「祟騙し編」では、過去シリーズと似た流れを基盤にしつつ、新たな要素を織り交ぜることで、視聴者に違和感を抱かせる手法が取られた[54]。 監督の川口敬一郎によると、「鬼騙し編」ではリメイクらしい雰囲気を意識しており、特に第1話では劇伴の使い方をスタジオディーン版に倣っている[2]。また、第1話のエンディングテーマに島みやえい子の『ひぐらしのなく頃に』を起用できたことも、リメイク感を演出する上で効果的だったと語っている[2]。 原作者の竜騎士07によれば、「郷壊し編」は旧作「祭囃し編」における鷹野三四の過去編に相当する位置づけだという[54]。視聴者に沙都子への感情移入を促すため、この編が設けられたと説明している[54]。 脚本シリーズ構成および脚本を手掛けたハヤシナオキは、永谷からオファーされて本作に参加した[60]。当初は正式な依頼ではなく、リメイク企画が進行しているとの話を聞く形であったが、その後、正式にシリーズ構成としての参加が決定した[60]。オファーを受けたハヤシは、まず徹底的に原作ゲームをプレイし直すことから始めた[60]。シリーズに対する深い理解を得るための作業であったが、同時に一視聴者として純粋に楽しむことができなくなるという葛藤も抱えることとなった[60]。竜騎士07が用意したプロットの冒頭数ページには、『業・卒』の核心部分が記されており、初めて目にした際には驚きを覚えたと振り返っている[60]。 シリーズ構成に落とし込む際には、アニメの尺に合わせて視聴者の感情を動かす構成を意識した[60]。ゲームや小説とは異なり、視聴者が受動的に物語を追うアニメは、一話約20分という時間枠の中で、適切な感情の流れを作り出す必要がある[60]。そのため、各話ごとに視聴者の感情をどのように動かすかを重視し、特に「猫騙し編」では、テンポよく惨劇を畳み掛けることで、梨花の絶望感を視聴者に共有させる工夫を施した[60]。 脚本執筆においては、シリーズ構成以上に難しさを感じたという[60]。特に本作は、序盤での伏線が終盤に大きな意味を持つため、一度決定稿となると修正が困難な点がプレッシャーとなった[60]。また、シナリオ会議においては、監督やプロデューサーから特にリクエストはなく、ハヤシのアイデアがほぼそのまま採用される形となった[60]。特に「郷壊し編」の聖ルチーア学園のエピソードは、沙都子が追い詰められていく過程においてハヤシの提案が大きく反映されている[60]。竜騎士07からのリクエストもほぼなく、脚本のリテイクもほとんど発生しなかった[60]。また、リテイクが発生しても、内容面よりもキャラクターの服装といった設定に関する微調整が主だったという[60]。ハヤシはこれを、リテイクが少なすぎることが逆に不安に感じられるほどであったと振り返っている[60]。竜騎士07との初対面は、脚本作業の終盤に行われたヒット祈願の際であり、その際に「毎回楽しく読ませてもらっている」との言葉をもらい、ハヤシは安堵したという[60]。 脚本の執筆に際しては、名シーンの再現にもこだわりがあった[60]。「鬼騙し編」では、前シリーズのリメイクのように見せつつ、『業』独自の事件を進行させる必要があり、どこまで情報を伏せるかのバランスを模索した[60]。また、「鬼隠し編」の象徴的なセリフやシーンを積極的に取り入れ、ファンにとって懐かしさを感じさせる工夫を行った[60]。一方で、設定上「おはぎ」のエピソードを入れられなかった点には心残りもあった[60]。 「祟騙し編」は特に執筆の難易度が高かったという[60]。表面上の出来事と真実が大きく異なるため、フェアな見せ方を意識する必要があった[60]。また、元となる「祟殺し編」が長尺であるため、5話に収めることに苦労したという[60]。登場人物が増える終盤では、セリフや尺の管理にも細心の注意が必要となった[60]。 「猫騙し編」では、梨花の心を折ることが目的となっており、執筆中も辛いシーンが多かったと振り返っている[60]。特に赤坂の発症はファンにとって衝撃的であり、名セリフ「梨花ちゃん、君を助けに来た」をどのように使うかは慎重に判断した[60]。また、沙都子の奉納演舞のシーンは、『業』全体の中でも重要な会話が含まれているため、じっくりと描かれるように工夫されている[60]。 「郷壊し編」は完全なオリジナルエピソードであり、聖ルチーア学園の描写には自由度があったため、ハヤシ自身も楽しみながら執筆を進めたという[60]。沙都子と梨花の関係性を描く上で最も重要視したのは、沙都子の梨花に対する「好き」という感情であり、その根幹を揺るがさないよう慎重に筆を進めた[60]。 キャラクターデザインキャラクターデザイナーの渡辺明夫は、竜騎士07の原作イラストを基盤にデザインを起こすことを重視した[61]。渡辺によると、過去のアニメシリーズも参考にしたが、特に原作絵の特徴を大切にし、等身を上げすぎないよう注意を払った[61]。また、アニメーションでの動きやすさを考慮し、線を増やしすぎない設計を心がけたという[61]。色彩については、背景との調和を図るため彩度を調整し、アップシーンでは画面が単調にならないよう髪にブラシを加えるなどの工夫を施した[61]。 監督の川口敬一郎からは、キャラクターの目の表現に関する具体的な指示があった[61]。『ひぐらし』の特徴である印象的な目をしっかりと見せることが求められ、特に目や眉が髪から透けて見えるように描くことが指示された[61]。また、設定資料には必ず閉じた目の表現を入れることや、表情に関する細かなオーダーもあったという[61]。しかし、基本的には原作を尊重する方針が維持されており、渡辺は比較的自由にキャラクターを描くことができたと振り返る[61]。竜騎士07からの直接的なリクエストはなく、アニメ成功祈願の場で挨拶を交わした際も特に指示はなかったという[61]。 個別のキャラクターデザインについては、それぞれの特徴や動きを考慮した工夫が施された[61]。竜宮レナの私服には、動いてワンピースの下が見えても問題がないようホットパンツを採用[61]。前原圭一は、お調子者の一面と男らしい決断力を両立させ、カッコよさを際立たせることに注力した[61]。北条沙都子については、新たに八重歯の表現を設定し、制作現場と協議のうえ本編に反映[61]。園崎魅音と詩音の双子は、描き分けのために魅音をややツリ目、詩音をややタレ目に調整した[61]。また、魅音は背中を見せられないため、水着姿ではパーカーを着せて背中を隠すデザインとなった[61]。羽入は天然で穏やかな表情を意識しつつ、角のバランス調整に苦労したと述べている[61]。古手梨花の高校生姿では、髪のハネを抑えることで成長を表現した[61]。 制作過程で特に筆が乗ったキャラクターとして、渡辺は大石蔵人を挙げている[61]。彼のベルトにお腹の肉が乗る描写を楽しんで描いたという[61]。一方で、圭一はアニメーターにとって似せづらいキャラクターだったらしく、渡辺のもとに修正カットが多数集まった[61]。さらに、聖ルチーア学園の校章はアップ用に描いた作画が正式に採用され、本人も驚いたと語っている[61]。 映像表現川口は映像制作において、物語の舞台である昭和の雰囲気を再現することに注力した[2]。
美術本作の美術監督を務めた井上一宏は、オファーを受けた際、「凄いタイトルがきたな」と強い印象を受けたと語っている[63]。前シリーズは未視聴だったものの、タイトルやロゴが記憶に残るほど印象的であり、人気のある話題作だと認識していたという[63]。そのため、作品に取り組みやすく、やる気も高まったと述べている[63]。 本作には「美術監督」「美術統括」「美術設定」という複数の役職が存在する[63]。井上によると、美術監督の役割は、従来の線画デザインと着色に加え、美術設定の線画をもとに色のついた美術ボードを作成することにある[63]。また、各話の背景担当者の割り振りやクオリティの均一化も担う[63]。「美術統括」という役職は、草薙がスタジオ・イースターのシステムを導入した結果生まれたもので、本作では特に、第1・2話のスケジュールの都合で井上が作業できなかったため、山根左帆に現場監督を依頼した経緯から配置された[63]。 美術ボードの制作にあたり、井上は細かい美術設定をそのまま着色するとキャラクターとの馴染みが悪くなると考え、圭一ら主要キャラクターの淡い色味に合わせて背景も淡い色調に調整したという[63]。また、基本的には前作の色味を活かしつつ、小物については時代感を重視し、おもちゃ屋の商品や自販機の飲料などのディテールにも気を配った[63]。さらに、美術ボードより本編背景のクオリティ維持を優先し、実現可能な範囲でのクオリティの落差を減らす方針を取ったと説明している[63]。 本作の美術設定において、井上が所属する草薙は聖ルチーア学園を中心に担当した[63]。学園のデザインは日本の明治期の洋館を参考にしており、木造の洋風建築の資料をもとに作業が進められたという[63]。また、井上は美術ボードとして圭一とレナの待ち合わせ場所古手神社、雛見沢分校の教室などを担当[63]。分校については、3Dテクスチャー原図をもとに色を塗り、2Dに見えるように仕上げた[63]。監督の川口敬一郎からは細かい注文がなく、提出した美術ボードに対するリテイクもほとんどなかったため、スムーズに作業を進められたと振り返っている[63]。 雛見沢の美術設定を見た際、井上はその情報量の多さと細部まで描き込まれたクオリティに圧倒され、「すごいな」と感じたという[63]。特に綿流しの屋台の描き込みの細かさに驚き、通常なら省略される部分まで詳細に描かれていることに感嘆した[63]。 音響・音楽本作の音響設計において、音響監督の森下広人は「音の力が非常に大きい」と述べており、特にサスペンスシーンにおいては効果音や息遣いのみで緊張感を高める方針をとった[64]。川口からの要望もあり、前半の日常シーンでは賑やかな音楽やギャグ的な効果音を多用し、一方でサスペンスフルなシーンでは音楽を抑制することで対比を際立たせた[64]。加えて、川口監督は「沙都子はもっとかわいく」という指示を頻繁に出しており、部活メンバーとの遊びのシーンでは彼女の無邪気さを強調する演出が行われた[64]。 音楽については、前シリーズの楽曲を使用することでシリーズの連続性を持たせる方針がとられた[64]。ただし、沙都子と梨花に関する楽曲は前シリーズでは比較的少なかったため、新たに川井憲次が彼女たちをテーマとした楽曲を追加制作した[64]。川井によると、元の曲の雰囲気とは異なるオーダーがあったため、まとめるのに苦労したという[65]。 効果音に関しては、特に猟奇的なシーンでは「フルスロットル」での演出を目指し、残酷な描写を引き立たせるための調整が行われた[64]。また、ひぐらしの鳴き声をどのように配置するかも音響設計の重要な要素であり、演出意図に応じて効果的に用いられた[64]。 本作の音楽を担当した川井憲次は、続編決定時に「また雛見沢に戻れるし、みんなと会える」と感じ、嬉しさとともに物語の展開への期待を抱いたと述べている[65]。ストーリーについては詳細を聞かされておらず、「今までの世界観を踏襲しつつ変わる」という大まかな説明を受けたのみだったという[65]。 新規楽曲の制作では、メインテーマのアレンジに特に注力した[65]。川井によると、過去のシリーズではバス・フルートや女性ボーカルを用いたが、『業・卒』では異なるニュアンスを求めて馬頭琴を選んだ[65]。この選択に際し、モンゴル出身の奏者イラナと協力し、独特の装飾音や演舞の仕方を煮詰めた[65]。イラナが日本語を流暢に話せたため、川井の意図を正確に汲み取れたことが制作に寄与したと語っている[65]。また、監督や音響監督からは「今までの路線で」という全体的なリクエストがあったが、綿流しの演舞曲は例外で、監督提供の実写ムービーのタイミングに合わせて制作された[65]。 印象深い楽曲として、川井は広谷順子が歌った初代テーマ曲を挙げた[65]。広谷が『ひぐらし』の世界観を表現できると信じて依頼した結果、その期待に応えた仕上がりになったと評価している[65]。しかし、『業・卒』での再起用は叶わず、川井は彼女の逝去を悼みつつ冥福を祈ったという[65]。 キャスティング・収録本作の収録では、前シリーズから続投するキャスト陣が多く、各役者の理解度が高いことから、演技の自由度を重視したディレクションが行われた[64]。森下広人は「型にはめるやり方ではなく、のびのび演じてもらうことを重視した」と述べており、初回の演技を基準に細かな調整を行う方針を採用した[64]。 キャラクターの年齢感については、キャラクターデザインが前シリーズより幼く見えるため、演技面での調整が求められた。特に圭一、レナ、魅音が大学生として登場する際には、大人びた演技を求めつつも、従来のキャラクター性を維持するバランスが重視された。また、沙都子と梨花に関しては、小学生から高校生までの年齢変化が描かれるため、シーンごとに適切な演技の切り替えが求められた[64]。 収録は分割方式で行われ、各役者が個別に収録する形が基本となったが、掛け合いがあるキャスト同士は極力同じ時間帯に収録を行うよう調整された[64]。一方で、群衆シーンのガヤ収録に関しては、通常であれば複数人が同時に収録するところを、個別に収録する方式が取られたため、セリフの内容が重複する問題が発生することもあった[64]。 新キャラクターのエウア役には日髙のり子が起用された。日髙のり子は、エウアの存在感にふさわしい声優としてオファーされた[62]。監督の川口は、印象に残った場面として「エウアが角を折られて子どもになるシーン」を挙げている[62]。当初は子どもの声と大人の声を別々に録音し、後で調整する予定だったが、日髙がその場で演じ分けたため、その技術に感銘を受けたという[62]。 収録は物語の全貌を明かさず進められ、キャストには毎週台本を渡す形をとった。ただし、キーパーソンであるかないみかには事前に「沙都子が過酷な展開を迎える」と伝えていた。一方、騙される側の田村ゆかりにはネタバレを一切せずに収録に臨ませた[54]。川口は、話数順に収録する必要がある中で、後半の出来事を先に演じる場面もあり、キャストへの状況説明に苦労したと振り返っている[62]。 評価・反響「ニュータイプアニメアワード2021-2022」では、作品賞として5位にランクインした[66]。 「#Twitterトレンド大賞」アニメトレンド2021において、7月および8月のトレンドワードとして、公式ハッシュタグ「#ひぐらし卒」が紹介された[67]。前作のハッピーエンドを覆す新たなシナリオが展開されることが明らかになり、Twitter上で大きな反響を呼んだ[67]。登場人物が前作を超える惨劇に巻き込まれる展開が話題となり、最終話にて原作で使用された楽曲「You」が採用されたことが往年のファンの間で評価された[67]。Twitter上では、新エピソードの展開に対する考察や、最終回の演出に対する驚き、満足感などを示すツイートが多く見られた[67]。 あらすじ(業)
あらすじ(卒)
各話リスト(業・卒)
放送局(業・卒)
BD / DVD『ひぐらしのなく頃に』BD / DVDテレビ放映時に画面の一部を真っ暗にする、血の色を赤黒くするなどの修正を行った残酷な描写については、全て無修正のオリジナルバージョンで収録されている。 DVD全巻購入特典として、特別編「猫殺し編」を収録したDVDが付属した。
『ひぐらしのなく頃に解』BD / DVD前述の「次回予告」も収録されている。また、京田辺警察官殺害事件の影響を受け、テレビ放映で差し替えが行われた箇所はすべて差し替えなしのオリジナルバージョンで収録されている。
『ひぐらしのなく頃に礼』BD / DVDDVD・CDショップを対象とする「アニメ流通」とゲームショップを対象とする「ゲーム流通」の2種類があり、アニメ流通のDVD初回限定版は「DVDコレクターズエディション」、ゲーム流通のDVD初回限定版は「DVDオヤシロエディション」としてそれぞれ封入特典が異なっている。DVD通常版およびBlu-ray Discはアニメ流通のみで取り扱う。
『ひぐらしのなく頃に煌』BD / DVD
『ひぐらしのなく頃に業』BD / DVD
『ひぐらしのなく頃に卒』BD / DVD
その他のBD / DVD
関連メディアアニメ版キャラクターを用いた派生メディア作品・およびファングッズが各種発売されている。主なものは下記の通り。 Webラジオ・番組OVA『ひぐらしのなく頃に煌』のリリースに合わせて、竜宮レナ役の中原麻衣と北条悟史役の小林ゆうによるWebラジオ『ひぐらしのなく頃に煌 笑話し編』が、2011年5月11日から2012年2月29日までアニメイトTVにて配信[75]。20話目のゲストは雪野五月。主なコーナーは「雛見沢通信」、「僕の、私の オリジナルバツゲーム」、「なぞなぞをとく頃に」、「目指せ!理想の愛」。 テレビアニメ『ひぐらしのなく頃に業』の放送に合わせて、前原圭一役の保志総一朗と竜宮レナ役の中原麻衣によるWebラジオ『ひぐらしのなく頃に 廿回し編』が、2020年9月25日より音泉にて隔週金曜に配信[76]。 同じく『ひぐらしのなく頃に業』に合わせて、ニコニコチャンネルにひぐらしのなく頃に オフィシャルチャンネルを開設。YouTube KADOKAWAアニメチャンネルと合同で特番を配信するほか、オフィシャルチャンネルでは会員向けに特番の後半部分の視聴や、毎週木曜の地上波放送に合わせて考察実況ページが設置される。また、上記ウェブラジオ廿回し編のおまけ付きアーカイブや、壁紙が会員向けに提供されている。 CD→詳細は「ひぐらしのなく頃にのディスコグラフィ」を参照
漫画
関連書籍
脚注注釈
出典
参考文献
外部リンク
ひぐらしのなく頃に業に関するカテゴリ:
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