1992年の全日本ロードレース選手権

1992年の全日本ロードレース選手権
前年:	1991	翌年:	1993

1992年の全日本ロードレース選手権 (1992ねんのぜんにほんロードレースせんしゅけん) は、1992年（平成4年）3月15日のMINEロードレース大会で開幕し、同年11月1日のWOWOWカップ第29回MFJグランプリ (筑波)で閉幕した全12戦による1992年シーズンの全日本ロードレース選手権である。

トップカテゴリーの500ccクラスチャンピオンはダリル・ビーティー（オーストラリア / ホンダ・レーシング）が獲得した^[1]。

1992年シーズン

GP500cc

シーズンオフに辻本聡、樋渡治両選手との契約を更新しなかったスズキが全日本500から撤退するのではないかとの報道が長引いたが^[2]、前年までCAMELプレイメイト・ヤマハで走っていた大石敬二と契約し、WGPのための開発をメインとするが、全日本参戦も継続されることになった^[3]。

開幕戦MINEで決勝が大雨のため中止、ポールポジションを獲得していたダリル・ビーティー（ホンダ）にとっては、第2戦をWGPスポット参戦のため欠場することになっており、シーズン序盤にポイントを獲得できない不運な幕開けとなった。ケビン・マギー（日本テレコム・ヤマハ）とビーティーが交互に勝利を重ね、この二人に藤原儀彦（キリンMetsヤマハ）が2勝を挙げてポイントで追従する。ポールポジションを2回獲得し、前年に続いて速さを見せた伊藤真一（PENTAXホンダ）だったが、スポット参戦したWGP500スペインGPのプラクティスで転倒し鎖骨を骨折。帰国後の第4戦鈴鹿予選でも転倒、以後の3戦を欠場したためタイトル争いから外れた。500ccでの2年目となった本間利彦（ヤマハ）は走りに思い切りの良さが戻り、第6戦鈴鹿で最高位となる2位を記録した^[4]。

最終戦MFJグランプリ（筑波）はマギー128、ビーティー127、藤原127と3人が1ポイントの中に並んで迎える。決勝レースではビーティーとマギーが先行、藤原は予選からうまくいかず9番手、スタート後も浮上できず王座が遠のいた。6周目にマギーがビーティーを抜くと、以後終盤まで2人は後続を引き離していきマギー優勢で最終ラップに突入。タイトル獲得目前となった第2ヘアピンの立ち上がりで、マギーの後輪スライドが大きくなりすぎアウト側の芝生へオーバーラン。転倒は回避したが、その右横をビーティーが追い抜き逆転。最後の10数秒でチャンピオンシップの行方が入れ変わる展開となり、ビーティーがチャンピオン決定のトップチェッカーを受けた。この結果、全日本500ccクラスは2年連続オーストラリア出身選手の王者獲得となった^[5]。マギーは2ポイント差でランキング2位、日本人選手のトップはランキング3位の藤原儀彦でシーズンは終了した。

ビーティーと伊藤真一は、翌1993年より世界選手権（WGP/現MotoGP）へロスマンズ・ホンダからのフル参戦が決まった^[6]。

GP250cc

ホンダの岡田忠之とヤマハの原田哲也がシーズンを通して優勝を争い、岡田が4勝・原田が6勝、中でも第6戦鈴鹿での写真判定でも決着がつかなかった1/1000秒まで同タイム・両者優勝は後年まで名勝負として残る1戦となった^[7]。獲得ポイントでは岡田が一時20ポイントリードしていたが、シーズン中盤には原田のヤマハ・TZMの熟成度も増し^[8]、岡田は第9戦鈴鹿大会で転倒、右手を負傷し以後苦しい展開となっていく。このレースで原田は優勝し総ポイントで並び、最終戦までの各戦で常に岡田より多くポイントを獲得。原田がシーズン後、「開幕戦でリタイヤして出遅れたので、チャンピオンより勝ち星を一個一個多く増やしていこうと思った結果が、タイトル獲得につながったと思う。」という積み重ねる姿勢が岡田の全日本250四連覇を阻止し、A級250参戦4年目にして全日本の頂点獲得を果たした^[9]。

原田と岡田、そしてランキング3位の青木宣篤は、翌1993年より世界選手権(WGP) 250ccへフル参戦する。

TT F1

シーズン前半はホンダ・RVF750の武石伸也（an チーム・ブルーフォックス）が好調、第5戦までに3勝、3位1回、6戦連続ポールポジション獲得などポイントテーブルをリードする。しかしカワサキワークスのZXR-7が後半戦盛り返し、塚本昭一が3勝、2位2回、3位1回と表彰台を逃さない安定した速さを発揮。ポイントでシーズン序盤大量リードを築いていた武石を逆転しTT F1クラスチャンピオンを獲得した。カワサキ・ZXR750のスーパーバイク仕様車（改造範囲がTT-F1より狭い）に乗る北川圭一（チーム・グリーン）も波が少なく、第10戦仙台ハイランドで初優勝を果たすなど総ポイントで肉薄。最終ランキングでも2位に入り、カワサキ車が1-2獲得のシーズンとなった。塚本は、「周囲のメカニックがとても頑張ってくれて最高のマシンを、特にエンジンが凄く良くなった。来年はエンジンに助けられてばかりにならないようにしてV2狙います。」と勝因を語った^[10]。

スケジュールおよび勝者

戦	決勝日	開催イベント	GP500cc 優勝	GP250cc 優勝	GP125cc 優勝	TT F1 優勝
1	3月15日	MINEインターナショナル大会	- 中止 -	- 中止 -	小野真央	- 中止 -
2	4月12日	筑波ロードレース大会	藤原儀彦	岡田忠之	斉藤明	武石伸也
3	4月26日	SUGOロードレース大会	ダリル・ビーティー	岡田忠之	斉藤明	塚本昭一
4	5月17日	鈴鹿ロードレース大会	ケビン・マギー	原田哲也	仲城英幸	武石伸也
5	5月24日	筑波ロードレース大会	ダリル・ビーティー	岡田忠之	小野真央	武石伸也
6	6月21日	鈴鹿200kmロードレース大会	藤原儀彦	岡田忠之/原田哲也	一宮義文	永井康友
7	7月5日	SUGOロードレース大会	ケビン・マギー	原田哲也	斉藤明	塚本昭一
8	8月9日	富士ロードレース大会	ダリル・ビーティー	難波恭司	水野生久	柳川明
9	9月13日	鈴鹿ロードレース大会	ダリル・ビーティー	原田哲也	一宮義文	武石伸也
10	9月27日	仙台ハイランドロードレース	- 不成立 -	青木宣篤	斉藤明	北川圭一
11	10月11日	TBCビッグロードレース (SUGO)	アレックス・バロス	原田哲也	小野真央	塚本昭一
12	11月1日	WOWOW杯MFJグランプリ byKonica	ダリル・ビーティー	原田哲也	坂田和人	塚本昭一
チャンピオン			ダリル・ビーティー	原田哲也	斉藤明	塚本昭一

第1戦MINE大会の500cc、250cc、TT F1クラス決勝は雨量が多く水溜りが多すぎたため中止。
第6戦鈴鹿大会の250ccは岡田、原田の両者が公式計時のデータで同タイム、両者立ち合いの上写真判定で審議されたが、同着の両者優勝との最終結論が出され、両者に20ポイントが付与された。
第10戦仙台ハイランド大会の500ccクラスはスタートが決行されたが、路面コンディションが雨のため悪化し選手がピットに帰還、日没のためレース不成立。

シリーズポイントランキング

ポイントシステム:
順位	1位	2位	3位	4位	5位	6位	7位	8位	9位	10位	11位	12位	13位	14位	15位
ポイント	20	17	15	13	11	10	9	8	7	6	5	4	3	2	1

最終戦MFJグランプリでは、入賞者に既定のポイントにプラスして3点のボーナスポイントが与えられる。

GP500cc

順位	No.	ライダー	使用車両	2 TSU	3 SUG	4 SUZ	5 TSU	6 SUZ	7 SUG	8 FSW	9 SUZ	10 SEN	11 SUG	12 TSU	ポイント
1	11	ダリル・ビーティー	ホンダ・NSR500	WGP	1	2	1	3	3	1	1	C	-	1	150
2	88	ケビン・マギー	ヤマハ・YZR500	3	3	1	2	4	1	2	5	C	DNS	2	148
3	2	藤原儀彦	ヤマハ・YZR500	1	4	3	4	1	4	4	7	C	5	6	140
4	6	本間利彦	ヤマハ・YZR500	4	6	4	5	2	7	Ret	3	C	3	5	117
5	9	辻本聡	ホンダ・NSR500	5	7	5	3	5	9	Ret		C	2	3	99
6	4	岩橋健一郎	ホンダ・NSR500	7	Ret	6	6		5	6	4	C	4	4	92
7	14	新辰朗	ヤマハ・YZR500	6	DNS	7	8	6	6	7	6	C	6	10	85
8	3	伊藤真一	ホンダ・NSR500	2	2	DNS	-	-	2	3	2	C	Ret	-	83
9	33	鶴田竜二	ホンダ・NSR500	Ret	8	8	Ret	7	10	5	8	C	7	8	70
10	18	高橋勝義	ヤマハ・YZR500	9	5	DNS	Ret	9	8	Ret	10	C	Ret	9	49
11	8	片山信二	ヤマハ・YZR500	8	9	9	7	10	DNS	-	-	-	-	7	49
12	5	大石敬二	スズキ・RGV-Γ500	Ret	Ret	Ret	Ret	8		8		C	9	Ret	23
13	19	東村伊佐三	ヤマハ・YZR500	-	-	-	-	-	11	Ret	9	C	8	-	20
-	20	吉川和多留	ヤマハ・YZR500	-	-	-	-	-	-	-	-	-	-	Ret	-
MFJライセンスではない海外ライセンス選手のため全日本選手権ポイント対象外
-	02	アレックス・バロス	スズキ・RGV-Γ500	-	-	-	-	-	-	-	-	-	1	-	-
-	01	ダグ・チャンドラー	スズキ・RGV-Γ500	-	-	-	-	-	-	-	-	-	DNS	-	-

太字はポールポジション、斜体はファステストラップ。

GP250cc

順位	No.	ライダー	使用車両	2 TSU	3 SUG	4 SUZ	5 TSU	6 SUZ	7 SUG	8 FSW	9 SUZ	10 SEN	11 SUG	12 TSU	ポイント
1	2	原田哲也	ヤマハ・TZ250M	Ret	2	1	2	1	1	Ret	1	12	1	1	161
2	1	岡田忠之	ホンダ・NSR250	1	1	2	1	1	2	Ret	Ret	-	4	3	145
3	3	青木宣篤	ホンダ・NSR250	2	5	3	3	Ret	3	2	Ret	1	5	4	137
4	13	青木拓磨	ホンダ・RS250R		6	6	6	6	4	3	6	5	6	7	111
5	7	宮崎敦	ヤマハ・TZ250	7		9	5		6	4	4	3	7	6	100
6	10	匹田禎智	ホンダ・RS250R	4	7	10		10		5	2		2	2	99
7	6	難波恭司	ヤマハ・TZ250M	3	12	7	Ret	5	7	1	8	Ret	10	9	92
8	16	福智学	ヤマハ・TZ250	Ret	4	4	8	3		8	7		9	8	84
9	14	沼田憲保	スズキ・RGV-Γ250	6	3		7	4		6	9		3	Ret	79
10	23	須貝義行	ヤマハ・TZ250	10	13	14	11	7		13	15	2	12	15	54
11	22	生見友希雄	ヤマハ・TZ250	5	11	8			9	9	14		11	11	53
12	8	宇田川勉	ホンダ・RS250R	11		11		13	8		3		8	12	51

太字はポールポジション、斜体はファステストラップ。

GP125cc

順位	No.	ライダー	使用車両	1 NIS	2 TSU	3 SUG	4 SUZ	5 TSU	6 SUZ	7 SUG	8 FSW	9 SUZ	10 SEN	11 SUG	12 TSU	ポイント
1	2	斉藤明	ホンダ・RS125R	2	1	1	3	3		1		2	1	4	6	170
2	74	宮坂賢	ホンダ・RS125R	6	2	7			2	3	2	3		2	2	137
3	8	仲城英幸	ホンダ・RS125R	3			1	7	3	4	3	4		3	3	133
4	1	小野真央	ホンダ・RS125R	1		2		1	4	2	7	5		1	Ret	127
5	9	檜尾幸穂	ホンダ・RS125R			5	5		5	6	10		2	7	10	84
6	4	島正人	ホンダ・RS125R		7	13		10	6	7	4	8	3	6		83
7	38	水野生久	ホンダ・RS125R		12		8	2			1	7	7	9	15	78
8	13	一宮義文	ホンダ・RS125R				9	11	1	5		1		5		74
9	82	辻村猛	ホンダ・RS125R			3	4	6				6		8	4	72
10	6	井形とも子	ホンダ・RS125R	7	8			14		9		10		11	5	51

太字はポールポジション。

TT F1

順位	No.	ライダー	使用車両	2 TSU	3 SUG	4 SUZ	5 TSU	6 SUZ	7 SUG	8 FSW	9 SUZ	10 SEN	11 SUG	12 TSU	ポイント
1	5	塚本昭一	カワサキ・ZXR-7	8	1	8	6	Ret	1	2	2	3	1	1	158
2	8	北川圭一	カワサキ・ZXR750R	4	7	5	5	3	3	5	3	1	2	7	149
3	10	武石伸也	ホンダ・RVF750	1	3	1	1	14	Ret	3	1	Ret	3	5	141
4	7	青木正直	スズキ・GSX-R750	3	2	4	3	Ret	Ret	4	6	5	5	2	125
5	2	永井康友	ヤマハ・YZF750	2	5	3	2	1	4	10	5	Ret	Ret	5	123
6	28	柳川明	スズキ・GSX-R750	6	Ret	6	8	Ret	5	1	4	4	4	4	114
7	16	大阪賢治	スズキ・GSX-R750	5	8	7	4	Ret	9	6	8	7	6	8	96
8	3	宗和孝宏	カワサキ・ZXR-7	-	4			Ret	2	7	Ret	2	8	3	82
9	9	吉川和多留	ヤマハ・FZR750R	7	9	Ret	10	4	8	8	Ret	6	7	10	79
10	15	白井哲也	ホンダ・VFR750R	10		9		5	6	9	7	8	Ret	9	68
11	70	田口益充	ホンダ・VFR750R	9	10	12	12	7	10	Ret	10	9	12	13	59
12	47	今井伸一朗	カワサキ・ZXR750R		14			8	7	12			11	11	36
13	※	八代俊二	モリワキ・ZeroVX7			11		12	12	11	9			14	30
14	11	大島正	ホンダ・VFR750R	15	12	14	9	9							21
MFJライセンスではない海外ライセンス選手のため全日本選手権ポイント対象外
-	73	ショーン・ジャイルス	モリワキ・ZeroVX7	-	-	-	11	2	-	-	-	-	-	-	-
-	78	スコット・ラッセル	カワサキ・ZXR-7	-	-	2	-	-	-	-	-	-	-	-	-
-	89	スコット・ドゥーハン（英語版）	ヤマハ・YZF750	-	-	-	-	10	-	-	-	-	-	-	-

太字はポールポジション、斜体はファステストラップ。

脚注

^ 歴代チャンピオン1992国際A級 MFJ日本モーターサイクルスポーツ協会 (2025年1月16日閲覧)
^ 「スズキワークスの動向全日本500ccは撤退か WGPとスーパーバイクならびにTT-F1に力を入れる方針」『レーシングヒーローズ No.059』ソニー・マガジンズ 1991年12月6日、31頁。
^ 「激動の92シーズン最後に笑うのは誰か」『ライディング No.270』日本モーターサイクルスポーツ協会、1992年3月1日、22-23頁。
^ 「クライマックスを迎えた全日本ロードレース WOWOW CUP MFJグランプリ接近!」『ライディング No.277』 1992年10月1日、18-19頁。
^ 「表彰台獲得率100% アグレッシブな走りが奇跡を呼んだ」『ライディング No.279』1992年12月1日、20頁。
^ 伊藤真一の大きな挑戦前編 Mr.Bike (2020年10月12日)
^ 1992鈴鹿同着モーターサイクルマガジンClubman (2025年1月20日閲覧)
^ 「世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.61 YZR250ジョン・コシンスキー号の衝撃」『ヤングマシン』内外出版社 (2021年7月29日)
^ 「原田哲也一度はあきらめたチャンピオン勝ち星を重ね流れが変わった」『ライディング No.279』1992年12月1日、19頁。
^ 「TEAM K.R.T塚本タイトル獲得後半一気の大攻勢をかける」『ライディング No.279』1992年12月1日、21頁。